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(習作)指フェラ(足)

「さえっ…き!シャワーを、浴びさせて…くれっ」
 その言葉は哀願のごとく上擦っていた。だが、返答はなく、代わりにぴちゃりと濡れた音が響いた。
 佐伯が喉で笑う。その振動が足の先端から伝って体の奥に響き、甘い痺れへと変換される。その感触を堪えようと、革のソファについた手をぐっと握りしめた。
 四肢を拘束されているわけでもない。ソファに腰を掛けた態勢のままで、動けなくなっていた。
 その姿は出張帰りそのままで、ジャケットを脱いで襟元を緩めただけだ。いや、靴下も脱いでいる。正確には脱がされたのだが。
 部屋に戻るなりソファに座らされ、目の前に跪いた佐伯に足を取られて靴下を脱がされた。ジャケットを脱がされたり、ネクタイを解かれたりすることは日常茶飯事だが、靴下は初めてだ。
 何をする、そう言って佐伯の手を振りほどこうとしたところで、足をぐいと引っ張られてバランスを崩し、後ろの背もたれに倒れこんだ。視界から佐伯の姿が消え天井が映る。次の瞬間、足先が熱く濡れた。
「ああっ!」
 悲鳴を上げて、視線を落とせば、爪先が床に跪いている佐伯の口の中に消えていた。
 足の指を舐められている。そう理解するのに、数秒を要した。
 佐伯が片手で髪をかき上げて、こちらに眼差しを向けた。レンズ越しの濡れた双眸が突き刺す。わざと見せつけるように赤い舌をちろりと出して尖らし、指間に這わした。
「は…っ、やめろっ、馬鹿!」
 足を振りほどこうとするが、この男に片方の足首から先を押さえ込まれただけで、立ち上がれなくなる。そして、そう簡単に逃す気は全くないようだ。
 ちゅぷっと水音が立つ。佐伯が足の親指を音を立ててしゃぶり始めた。
「佐伯っ、やめてくれっ」
 顔が燃える。長距離の移動の間、一日ずっと革靴を履いていたのだ。常に身ぎれいであるよう心掛けてはいるが、それでもこの素足を恋人に舐めさせたい願望もなければ、舐められて悦ぶ趣味もない。
 だが、悦んでいるのは明らかに佐伯の方だ。羞恥に悶える自分を見て、その顔にはニヤついた笑みを刷いている。嫌がれば嫌がるほど、さも旨そうにしゃぶってみせる。
「お願いだから、せめてシャワーを…っ!」
 百歩譲って足先を舐めるのは許そう。だが、その前に、舐められても恥ずかしくないくらいの清潔さを保たせてほしい。
 佐伯に乞う声が次第に切なくなってくる。一方で、上目遣いでこちらを伺う佐伯と視線がぶつかるたびに、足先の神経を熱く嬲られるたびに、くすぐったさとともにジンジンとした痺れが走り、下腹部が熱くなっていく。
「ふ……っ、くっ」
 じゅるっ、と足をたっぷり濡らした唾液を佐伯が啜る。そして、足の指をじゅぷじゅぷと一本一本丁寧に吸い上げられていく。
「んっ、あっ、…佐伯っ、やめっ」
 固く尖らせた舌先で指先から指の間を辿られる執拗な口淫に、淫靡な痺れが背筋を走った。まさか、と息を呑む。視界に入り込む、自分のスラックスの前が張り詰めていた。窮屈に感じる下着が自分の性器の漲り具合を知らしめる。先端に擦れる下着の布が、ぬるぬると亀頭に張り付きだした。
 下着の中に手を突っ込んで、そこを乱暴に擦りあげたい衝動を必死に抑える。
 吐く息に喘ぐ声が混ざり始める。足先から佐伯に食べられているような甘美な感触。
 じゅるじゅると淫らな音の中で佐伯が唇をわずかに離した。
「どうだ、いいか?」
「……いいっ」
 やめてほしいと懇願しているのに、濃密な快感に堪えきれず、そう口走っていた。
 この体の中に溜まり渦巻く快感を開放してほしい。
 佐伯が足をその熱い口腔に深く咥えこんだ。その端正な唇の向こうに足先が消える。足の指に、柔らかい粘膜が触れて絡む。そのまま強く舐め上げられ、きつく吸い上げられた。足先の敏感な神経が蹂躙される。
「ひ、あ、ああっ!」
 その瞬間、体を大きく弓なりに反らして絶頂を迎えていた。大量の精液が噴き出し、下着をしとどに濡らしていく。
 足の指を舐められてイってしまった。
 その倒錯的な行為と達した余韻で、ソファに深く沈み込んだ。
 足をやっと解放し、佐伯が喉を鳴らして笑いながら、顔を覗き込んできた。
「何をするんだ…」
 怒鳴りつけてやりたいのに、その気力さえ奪われている。
「出張帰りの御堂さん、美味しかったですよ」
「貴様……っ」
 含羞に再び顔が赤くなる。だが、佐伯は気付かぬふりで悪意のない笑みを浮かべた。
「出張お疲れ様でした。少しは、疲れ取れました?」
 労わる声が返ってくる。その言葉に混乱した。今の“これ”は、自分への気遣いだったのだろうか。いや、佐伯のことだ。自分が愉しむためにやったに違いない。だがしかし…。
 混乱する自分をよそに、佐伯は唇を耳元に寄せ、声を低めて囁いた。
「このままシャワー浴びるか?それとも、“後で”俺と一緒に浴びるか?」
「今度は…普通にしてくれ」
 身体の芯に灯された火は消えるどころか疼きを増している。
 御堂の返答に笑みを深める佐伯を抱き寄せ、唇を押し付けた。

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