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Chocolate Kisses

 部屋の玄関先で唇を押し重ねる。
 下唇を吸って甘噛みしていると、克哉の後頭部に御堂の掌が添えられ、包まれた。
 御堂が舌をチロリと出して克哉の唇の縁をなぞった。御堂の舌は唇の膨らみを柔らかく辿ると、克哉の唇の中にそっと挿し込まれる。その舌を舐めようと顔を傾け角度を変えたところで、すっと舌を抜かれた。御堂の喉が甘く鳴る。
 再び御堂の舌が薄く開かれた克哉の唇の狭間をなぞった。その気障なキスの仕草に笑みを零しながら、その舌を追って舌先を触れて軽くくすぐると再び逃げられる。キスを焦らされて、御堂の口の中に舌を入れようとすると、顔が離れて躱された。
 目を開ければ、潤んで煌めく漆黒の眸が克哉の顔を映していた。その唇はいましがたの克哉の唾液で濡れ、危うい色気を滲ませる。
 体温がじわりと上昇し、鼓動がそのリズムを速くする。
 御堂とのキスは、いい。
 ぞくりとする甘い痺れが背筋を走る。
 ただ受け止めるだけでなく、時として自ら仕掛けてくる、慣れた男のキスだ。それでいて、御堂はキス一つで恐ろしく色香を増す。
 キスの内容は御堂の気分次第で大きく変化する。感情をあまり表に出さないこの男の心を推し量るには、言葉を交わすより唇を重ね合った方が手っ取り早いとさえ思わせる。
 克哉は舌でぺろりと自分の唇を濡らすと、再び御堂の唇を奪いにいった。唇を強く押し付けたところで、逆に唇を捉えられて口内を御堂の舌で抉られる。その舌も絡めようとする前に、掠めただけで逃げられた。
 もどかしいキスの応酬に煽られる。まるで、お預けを喰らっているようだ。
 やられっぱなしは性に合わない。
 一度仕切り直そうと唇を離した。鼻先を軽く合わせ、頬に頬を摺り寄せる。その克哉の甘えた仕草に御堂がふっと笑った。
「部屋に入らないか。コートを脱ぎたい」
「そうですね。俺も熱くなってきました」
 このまま玄関で事に及んでも良かったが、ここは寒いからやはり部屋の中に入ろう。
 自分自身を納得させて、名残惜しく御堂の身体に回していた手を緩め、身体を触れ合わせながらコートを脱ぎつつリビングに向かう。
 タイマーで暖房を入れていたので、リビングは既に暖かかった。コートを脱ごうとする御堂の手を押さえる。
「脱ぐの、手伝いますよ」
 断わられるのは分かっていたので、返事を聞く前に開きかけた御堂の口を唇で塞ぐ。今度はしっかりと御堂の唇を捉えた。歯列をなぞり舌を絡めながら、御堂のコートを脱がす。ハンガーにかける余裕はなかったので、脱がしたコートをソファの背にかけると、そのまま御堂のベルトに手をかけた。
「んっ!」
 口を封じられた御堂が、喉を震わせて抗議をする。逃れようとする御堂の舌を吸い上げて顔ごと押さえつけ、ベルトを外すと、下着ごと着衣を摺り下げた。締まったウエストの輪郭を撫でて、腰を掴むと身体の位置をずらしてソファに座らせる。唇を離し、口の端から細く伝い落ちた唾液を舐めあげた。
 顔を少し紅潮させ、呆れた口調で御堂が言う。
「…しょうがない奴だな。ベッドまで待てないのか」
「リビングまで我慢したことを褒めてほしいですね」
 克哉の言葉に御堂がクスリと笑った。
 御堂にニヤリと笑い返し、摺り下げた服を足から抜いて、ジャケットを脱がす。足の間に入って、ソファの背に押し付けるように覆いかぶさり、再び唇を重ねながら、シャツのボタンを上から一つずつ外していく。
 露わになった肌に手を這わせ、胸の突起をなぞり、尖らせると指の腹で擦ってはつぶす。
 唇を離して首筋から鎖骨、胸の突起に舌を這わせた。固く芯を持った粒を、舌先で舐り捏ねる。
「んっ…、ふっ」
 御堂が甘い喘ぎを喉で殺す。片手で御堂の片足を掴んで、ソファの上に膝を立てさせた。
 胸への愛撫を続けながら、人差し指を伸ばして御堂の下唇に、とん、と置くとその指先を舐め上げられる。そのまますっと口の中に指を挿し込んだ。
 指に御堂の舌が絡まり甘噛みされる。たっぷりと唾液を塗されたところで引き抜くと、その指を後孔にあてがった。ゆっくりと解すように揉みこんで中に押し込む。粘膜がもの欲しそうに収縮した。胸から顔を離して御堂の顔を見上げる。
「御堂さんのここ、俺の指を美味しそうに食べてますよ」
「馬鹿……ふっ、あ」
 劣情に染まりつつある顔を眺めながら、更にもう一本指を含ませ、拡げていく。内側が蠕動し、指を中へと誘いこもうとする。
「佐伯、もう、いいから。……来い」
 その声が艶を滲ませた。
 既に硬く張りつめた自分のものを取り出すと、御堂のペニスと重ね合わせて握り込み、擦り上げた。二つのペニスの先端から溢れだす蜜が指を濡らす。御堂の腰がもどかしげに揺れた。
「んっ……、あっ、早く…佐伯っ」
「言われなくても」
 その言葉に急かされるように、片膝を床について、御堂の両脚を広げる。
 切っ先の位置を合わせて、狭い隘路を切り拓くようにじわじわと押し込んでいく。
 熱い粘膜が少しずつペニスを食んでいった。
「ほら、力を抜いて」
「うっ…っ、はいって、くる」
 御堂は軽く背を仰け反らせると、幾分苦しげに眉根を寄せて目をきつく閉じた。
 半ばまでペニスを呑み込ませると、御堂の片足を自分の肩に乗せさせた。そのまま、ぐっと腰を押し込み、下半身を密着させた。
「っ…は、ああっ」
 身体を二つに折るかのようにねじ込まれて、その圧迫感に御堂が息を詰めた。
「御堂、俺を見ろ」
 仰け反っていた顔を俺の方に向けさせる。その眦に朱が差し、その眸が濡れて欲情を滴らせた。その眼を覗き込みながら大きく抽挿を始める。
「んんっ、…ふっ、佐伯……もう少し…抑えろ」
「早くとか抑えろとか、注文が多いな」
「あっ、…そんなに、っ…激しくされたら、イく」
「好きなだけ、イけばいい。いくらでも、してやる。俺も一回で終わらせる気はない」
 顔を横に向けて、肩に乗せていた御堂の足を見せつけるように舐めあげると、びくんと足が震えて宙を蹴った。
 その足をずらして、上体を深く曲げ、唇を微かに触れ合わせる。
「愛していますよ、孝典さん」
 掠れた小さい声で囁いたが、それで十分だ。その振動が唇を伝って御堂に響く。
「克哉っ、私も…愛している」
 切れ切れの声が返ってくる。
 唇を数秒合わせて離し、舌先のみを触れ合わし、唾液を混ぜてくすぐり合った。
 短く継がれる呼吸、上気する肌、撓る身体。
 御堂の快楽を引き出し、淫蕩に溺れさせていることに愉悦を感じながら、より深く中を抉った。

 ソファの上で荒い息を重ねながら、汗ばんだ身体を抱き合う。
 帰るなり互いの熱を求めあう相変わらずの堪え性の無さに、目を見合わせて笑みを零す。
 御堂の締まった身体のラインを指でなぞると、くすぐったさに笑いながら身体を捩る。それでもしつこく指を肌の上で遊ばせていると、
「もうっ、よさないか」
 と身体を押し退けられて、克哉は床のラグの上に転がり落ちた。
「大丈夫か?」
 御堂がソファから顔を出して、克哉を覗き込む。目一杯顔を顰めてみせた。
「痛くて動けない」
「なら、ずっとそこで寝ていろ」
「つれないですね」
 その言葉を無視して御堂が顔を上げ、部屋の隅に積んであるラッピングされたままのチョコレートの山を指差した。
「あれは?」
「貰ったやつだ。捨てる」
 あなたから貰うもの以外は必要ない、そういう意味を込めて告げたつもりだったが、御堂は表情を変えずに首を傾げた。
「勿体ないな。ウイスキーやブランデーを飲む時のつまみにすればいい。甘党でない君でもいける」
「ふうん……」
「ほら、チョコレートボンボンがあるだろう。あれは酒とチョコが合うから、その組み合わせなんだ。一度試してみたまえ」
 話が違った方向に流れていく。
 欲しいのはあなただけ、そう言いたいのに。この人はどこまで自分の言葉を理解しているのだろう。
 でも、それはお互いさまだろう。
 克哉は微苦笑を浮かべながら整った唇が言葉を紡ぐのを見守った。
 御堂は上体を起こし、センターテーブルに置いていた克哉から渡されたチョコに手を伸ばした。包み紙をきれいに剥がしていく。中からきれいに並べられたトリュフが顔を出した。
「私が持ってきたワインとも合う。試してみるか?」
「ええ。…でも、その前に」
 ラグから起き上がり、御堂が手にしていたチョコレートの箱からトリュフを一つ摘まみあげると、唇に挟んで咥えた。覆いかぶさるように御堂をソファに押し倒し、両手を顔の脇についてその顔を見下ろす。驚いて克哉を見上げた顔は、すぐに照れたように克哉から視線を外した。
 言葉よりも饒舌なキスを。
 促すように、誘惑するように、目を見詰めながら顔を近づける。ふう、と御堂が息を吐いて克哉に真っ直ぐな視線を向けた。
「まったく、君は…」
 克哉の後頭部に両手が回されて、顔を引き寄せられる。伸ばされた舌が、克哉の咥えているトリュフをちろりと舐めあげた。
 それを合図にしてトリュフごと唇を押し付ける。忙しなく舌を動かして、トリュフを舐めて押し潰し、互いの口の中でチョコを溶かす。甘くビターに味付いた舌を舐めあい、カカオ混じりの唾液を飲み込む。
 蕩けるような酩酊感に包まれた。重ね合わせた肌が再び熱を持ち始め、甘ったるい喘ぎが零れ始める。
 まだ夜は終わらない。

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