
暗夜の宴
「さあ、始めましょうか」
夜の始まりを告げる声が聞こえた。
裸の尻に革の座面が触れる。目隠しをされて連れてこられたが、そこが御堂の執務室のチェアの上だということは感覚的に分かった。湿った肌にべったりと張り付くような革の感触が不快だが、かといってそこから離れる自由など望むべくもなかった。
克哉の手が伸びて目隠しが外された。目を開くなり、視界が白むほどの眩しさに御堂は何度か瞬いた。徐々に目が慣れてくると、自分の正面に据えられたビデオカメラのレンズが目に入った。録画中であることを示す赤いランプが点滅していて、御堂は反射的に顔を背けた。
「何を……っ!」
今の御堂は、裸で椅子の肘掛けに両脚を開いた状態で乗せられて、足と椅子を紐で縛られた状態だ。両手は後ろ手にまとめて拘束されている。
恥ずかしい部分を余すところなくビデオの前に晒されて、御堂は傍に立つ男に憎悪を燃やした視線を向けた。だが、克哉はまったく表情を変えることなく、薄い笑みを湛えた顔のまま無遠慮な視線で御堂の身体を舐めまわした。
そうして、ビデオのレンズに向けて指差した。
「ほら、あっちを向いて自己紹介してくださいよ」
「自己紹介、だと?」
克哉が突然何を言い出したか分からず、怪訝な顔をすると、克哉が大仰に肩をすくめた。
「じゃあ、俺が言ったように、言ってください。『御堂孝典、今日が誕生日で33歳になります。MGN社企画開発第一室の淫乱部長です』ってね」
「なんだそれは! 誰がそんなこと言うかっ!」
「AVとか見たことないんですか? まあ、御堂部長はそういう下品なものは見たことないんでしょうね」
「ふざけるな! 貴様のくだらない遊びに付き合ってられるか!」
克哉が口にしたセリフに怒りでカッと顔が熱くなった。だが一方で、この男の言葉通りなら、克哉は御堂の誕生日を把握していて、さらに、今日は御堂の誕生日だということになる。
この男に監禁されてどれほどの時間が経っただろう。とうに日にちの感覚は失われていた。甚振られ続けて先が見えない日々の中、折れそうになる心を、克哉への憎しみだけでかろうじて支えている状況だ。
克哉が楽しそうに喉を震わせた。
「そうですよ。今日は9月29日、あんたの誕生日だ。だから、お祝いらしい趣向を考えてみたが」
「うあ……っ、触るなっ!」
克哉が御堂の股間に手を伸ばした。御堂のペニスを握り、扱き始める。御堂の痴態がちゃんとビデオに映るよう、そして自分は映り込まないように体の位置に気を付けている。御堂のペニスを擦り上げながら、御堂の耳元に口を寄せた。
「あんたの誕生パーティーの記念動画なんだから、ちゃんと楽しそうな顔をしろよ」
「誰が……っ!」
吐き捨てるように拒絶の声を上げると、克哉が吐息で笑った。耳元にふっと息を吹きかけられてびくりと身体が跳ねる。
克哉の手が根元から先端までをまんべんなく触れながら往復する。亀頭の先端を撫でまわし、根元から睾丸を柔らかく揉まれる。
「あんたのここはいつも正直だよな」
「ぐ……」
「良いんですよ。好きに感じてくれて。だって、今日は御堂さんの誕生日だからな」
こんな屈辱的な目に遭わされて感じたくなどないのに、御堂のペニスは克哉の手にあっけなく反応した。みるみるうちに反り返って天井を向いたペニス。エラの段差を指で作った輪で弾くように前後させられると、まるで挿入しているかのような快感が迫り来た。
勃起しきった先端では透明な滴が玉を作る。性感帯を直接刺激されて、甘ったるい疼きに呼吸が乱れた。頂から滴がつぎつぎと零れて、克哉の手との間でぬちぬちと隠微な濡れ音が立つ。もっと刺激を求めるかのように克哉の手のなめらかな動きに合わせて腰が揺らめいてしまう。
堪えようにも、身体の奥底で熱が滾り、極みに向かって最短距離で快楽が駆け上っていった。背がしなり、腰が前に突き出る。だが、絶頂の兆しが見えた寸前、克哉の手が突然離れた。今そこにある極みを唐突に突き放されて、思わず「ぁ……」と切ない声を漏らしてしまった。
「このままイっても面白くないでしょう。今日は記念日なんですから、記念的なことをしないと」
「何……?」
克哉のいう意味が分からずにいると、克哉が細い金属の棒を手にし、御堂の顔の前にぶら下げた。緩やかにカーブしたその棒の先端は丸く、緩やかな楕円状の球体が連なっている形態だ。
「これ、使ったことはありますか?」
「……ッ」
“それ”を見たことはなかったが自分を見つめる克哉が冷たい笑みを湛えるのを見て、直感的に“それ”が何であるかを理解した。
「無理だ……よせ…っ」
「これがなんだか分かっても、使ったことはないんですね」
克哉の眸に嗜虐の炎が宿った。御堂の勃ちきったペニスを掴み固定すると親指を亀頭に添えた。親指を押し付けると浅い裂け目が開いて赤い粘膜を覗かせた。透明な蜜がとろりと零れ落ちた。
「御堂、あんたの尿道の初貫通だ。あんたの“初めて”は前も後ろもしっかりと記録しないとな」
笑い含みの声と共に先端の球が尿道孔に押し当てられた。軽く触れられただけで金属の冷たさが染みわたり、ヒッと息を呑んだ。
「ここにこの棒を挿れて、射精を止めるんだ。苦しいがたまらなく気持ちよくなる。試してみたいだろう?」
「そんなにいいのなら、貴様が試せばいいだろうっ!」
「何言ってるんですか。今日はあんたの誕生日だからな。良い声で鳴いてくださいよ」
「嫌だ……ぃっ、あ、……くあっ、あああああっ!」
御堂の抗議を無視して、蜜に濡れててらてらと光る小さな孔に、金属の球が潜り込んでいく。狭くきついその路が、金属の球の太さに押し拡げられた。
金属棒が1ミリ進むだけで今までに感じたことのない鋭い痛みが走った。液体しか通ったことのない敏感な粘膜を、硬い金属が圧倒的な質量で蹂躙していく。灼熱の火箸でペニスを貫かれるような苦痛に、悲鳴を抑えることができなかった。見開いたままの目には涙が浮かぶ。不自由な身体をよじって逃げようとしたところで、ペニスの根元をぎゅっと掴まれた。
「暴れるな。ここが使い物にならなくなるぞ」
「っ、……ぅ…」
低い声で脅されて動けなくなった。御堂の抵抗が止むのを確認して、克哉は金属棒をさらに奥へと進めてきた。半ばまで金属棒を進めると、今度はペニスに絡めていた指を使って扱き始めた。痛みの中に快楽が混じり始める。御堂のペニスが再び勢いを取り戻すと、克哉は片手でペニスを軽く刺激しながら、もう片手で金属棒を細かく前後に抜き挿しを始めた。内側から執拗に擦りあげられる刺激に外側から扱かれる快感が合わさって、頭の芯が煮え立っていく。
「良い顔をするじゃないか。尿道を責められるのが好きみたいだな」
「ぐ……っ」
せせら笑う男が俯いた御堂の顎を掴んでビデオの正面へと顔を上げさせた。この男に良いように嬲られる悔しさに涙が零れ落ちた。涙でゆがんだ視界の中で、ビデオの赤いランプがちかちかと滲む。
徐々に金属棒が奥へと侵入していく。そうしてある一点に先端が触れた瞬間、御堂は大きく身体をバウンドさせた。
「――ッ!!!」
「イイところに当たったみたいですね」
そう言って、克哉は金属棒の飛び出している先を軽く弾いた。金属の球体が繊細な粘膜をクリっと抉る。ほんのわずかな動き、それだけで、形容しがたいほどの刺激が身体を貫き、四肢がビクンと突っ張り椅子を軋ませた。
克哉は金属棒を苦しいところに留め置いたまま、両手で御堂の性器を刺激し始めた。裏筋を根元から擦り上げ、陰嚢を優しく撫でる。克哉の指がペニスの上を行ったり来たりして、浮き立つ脈を辿りながら、他方の手が亀頭の括れを弾き、金属棒を呑み込まされてぱっくりと開いた尿道の縁を爪の先でなぞっていく。
「ぁ、あ、あ……ぅっ、くああっ」
体が燃え立つように熱い。腰の奥からこみあげてくるものが金属棒にせき止められて、苦痛と快楽が縒り合わさった壮絶な感覚となり、背を激しく仰け反らせた。克哉の指が蠢くたびに声が止まらない。
射精感はピークに達しているのに、解放することができない苦しさに涙がこぼれ続ける。克哉が耳元で囁いた。
「イきたいでしょう?」
素直に頷きたくなるのを奥歯を噛みしめてどうにか堪えた。この男に屈するくらいなら死んだ方がましだ。克哉にとってはそんな御堂の態度も計算済みだったようだ。くすりと吐息だけで笑った。
「相変わらず強情だなあ。ですが、今日くらい、いいですよ。あんたの誕生日だからな」
「ひっ、あ、あああああっ!!」
克哉の指が金属棒を摘まんだ。くりくりっと先端で快楽の凝りを抉ってとどめの一撃を与えると金属棒を一息に引き抜いた。爪先から頭のてっぺんまで電撃が走る。身体が硬直し、引きずり出される金属棒を追うように精液が爆ぜた。
金属棒で嬲られた尿道の粘膜を濡らして熱い粘液が駆け抜ける。その感触にさえ感じてしまい、絶頂が長引いていく。克哉に顎を掴まれて、ビデオレンズの正面を向かされていることも忘れて、枯らした声を上げ続けながら極みに浸った。
「とても気持ちよさそうなイきっぷりでしたね、御堂さん」
「ぁ、……あ、よせっ、も……触るな……っ」
嘲笑とともに克哉の指が再びペニスに絡まった。達したばかりの敏感な御堂の竿を上下に扱きながら、他方の手のひらで亀頭をくるくると撫でまわす。金属棒で蹂躙された尿道の切れ込みをぬめった克哉の手のひらで素早く何度も擦っていく。剥き出しの神経を弄られて、灼けつくようなチリチリとした痛みの中に鋭い快楽が混ざり込み、下腹部に全身の熱がなだれ込むような異様な感覚が沸き起こってきた。克哉の手の中でビクンとペニスが跳ねた。
「派手に潮吹きしろ」
「はぁっ、あ、あっ、や…だ……っ、あ、う、っ、あああ」
ペニスの先端から熱く透明な液体が噴き出した。鉄砲水のように激しく飛び出したそれは、御堂の顔から下腹部までをびっしょりと濡らしながらも止まらない。
「くあ、あ、あ、あ、よせっ、や、あっ、あっ」
克哉は手の動きを止めようとしない。快楽はとっくに通り越して苦しいばかりなのに、克哉が手を擦り上げるたびに、びゅるっびゅるっと液体が噴き出していく。
「今日は随分と威勢がいいな。やっぱり特別な日だからかな」
あまりの苦しさに開きっぱなしの口からよだれが溢れた。ひっ、ひっ、と喉を引きつらせたような悲鳴が出続ける。四肢が痙攣して、がたがたとチェアを揺らした。放った液体が草むらや陰嚢をしとどに濡らしながら座面に溜まりを作っていく。
これ以上されたら気が狂うというところで、克哉はようやく手を離した。地獄のような刺激から解放されて、御堂はぐったりとチェアの背もたれに身体を預けた。
抵抗する気力も体力もすべて失っていた。自分の痴態を撮影し続けるビデオから顔を背ける余力さえも残されていない。ぜいぜいと胸を上下させて荒い息を吐いていると、克哉の忍び笑いが聞こえた。
「御堂、俺からのプレゼントだ」
「ッ……」
そう言って克哉は御堂の目の前で自身のモノを扱きだした。あっという間に大きく育ち、脈打つほどに張りつめたそれは、小孔がいやらしくヒクついて充血してた粘膜を見せた。
克哉の手が伸びて御堂の前髪を鷲掴みにした。そのままグイっと引っ張られる。がたっと椅子が揺れて前のめりになった。そして息を呑んだ。目と鼻の先に克哉のペニスが突き付けられる。
自分を何度も貫いた凶器を目にして瞳孔が開ききった。
「な…にを……っ」
「ぶっかけてあげますよ」
「よせ……っ、何するっ!」
抗議の声を上げて口を開いた瞬間に、克哉が自身のペニスを根元から扱いた。ビクンと跳ねて先端から濃い粘液が噴き出した。
顔面に精液が叩き付けられる。何度かに分けて吐きかけられたそれは、濃い精臭とともに熱い粘液が顔から胸にべったりと散らされてどろりと垂れていいた。くちびるに付着した克哉の精液がつうと伝って舌の上に滴った。口内で感じる克哉の味に、吐き気がこみあげた。
「ぐ……っ、かはっ」
「いやらしい顔になったな」
体中に自分のものとも克哉のものとも分からない体液が散らされている。克哉が御堂の髪を掴んだままくいっと顔を上げさせた。精液と恥辱に彩られた顔をビデオに大写しにされる。克哉が満面の笑みを浮かべた。
「ハッピーバースデー、御堂さん」
「……ッ……」
信じられないほどの辱めを受けて次から次へと涙が零れた。克哉の哄笑が部屋に響き渡る。視界が歪み室内の照明が何重にも滲んだ。希望の光などどこにもなかった。もう何も考えられなかった。
室内は人工的な白い光が満ちているのに、御堂の目の前にあるのはただただ暗い闇だけで、ビデオの赤いランプだけが視界の真ん中でずっと輝き続けていた。
END