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​32歳エリート部長、魔法少女になりました☆
第一話 魔法少女エネマキュア参上!

 薄暗い夜だった。ビジネス街の真ん中に位置するその公園は、アスファルトで地面を固められ、ベンチと植樹だけの簡素な公園だった。昼間は休憩をとるビジネスマンたちでにぎわうものの、夜はまったく人気がなく侘しさが漂う。だが、今、その公園の中心に巨大な影がと一人の人影が向かい合っていた。巨大な影は、よく見れば異形の姿で、上半身はかろうじて人間のように見えるが、下半身はタコの脚のような無数の触手がうごめいている。そしてその前に立っているのは、一人の男だ。折り目正しくスーツを身に着けたその姿はどうみてもビジネスマンだろう。そして、今まさに異形の怪物に襲われようとしていた。

「グァアアアアア!」

「うあ……っ」

 異形の怪物が空間をびりびりと振るわせて咆哮する。

 男はひるみそうになるが、どうにかその場に踏みとどまった。腰を抜かしたわけではないが、怪物の迫力に動けないでいるようだ。そこにもう一つの声が響いた。

「さあ、いくでやんすよ!」

 よく見れば、この公園には怪物一体と男一人だけではなく、もう一匹がいた。男の肩の上あたりに漂う羽をもった小さな人影。その人影は蝙蝠の羽をもち、頭には一対の羊の角のようなものが生えている。そして目にはサングラス。妖精のようだが妖精というよりは悪魔寄りの風貌だ。

「くそ……っ」

 男は舌打ちとともに何かを叫んだ。途端に、夜を昼に塗り替えるようなまばゆい光があたり一面に満ちる。

 そして、凛とした声が闇を切り裂いた。

「魔法少女エネマキュア参上!」

 

 

 

 話は数時間前にさかのぼる。

 御堂孝典が残業を終えた時には、すでに夜も更けていた。御堂は外資系大企業であるMGN社の部長職を三十二歳という若さで務めている。身長は百八十センチを超え、長い四肢とくっきりと整った顔立ち。身にまとうものはどれも一級品で、華やかでありながら近寄りがたい威圧感をまとっている。優れた能力と容姿を兼ね備えた、自他ともに認めるエリートの中のエリートだ。

御堂は自社のビルから出て周囲を見渡した。あたりに人気はすっかりとなくなってしまっている。流しのタクシーを捕まえようにも、ここはビジネス街のど真ん中。タクシーは歓楽街の方に流れて行ってしまったのか、目の前の道路に客待ちのタクシーは一台もいなかった。

 致し方なしに御堂は大通りに出てタクシーを捕まえようと考えた。そして、人気のない夜の公園をショートカットで横切ろうとした時だった。突如として背後から声をかけられたのだ。

「御堂部長……」

「誰だ?」

 振り向けばうだつの上がらない風体の中年男性だった。眼鏡の奥の眸は濃い隈が見え、無精ひげが生えた顔は疲れ切ったように表情がどんよりと曇っていた。

 御堂にこんな知り合いはいただろうか。しばし考え、思い当たった。

「確か……笠井プラスチックの……」

「お願いします……! どうか、取引を再開してくださいっ!」

 御堂の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、男は御堂の前で地べたに膝をつき、土下座をして額を地べたにこすりつけた。

 笠井プラスチックとは御堂が先月取引終了を通告した会社だ。納品のミスがあり、御堂は笠井プラスチックを切り捨てる判断をした。今、御堂の前で身も世もなく土下座をしている男は笠井プラスチックの社長の笠井だ。笠井は必死の形相で言葉を重ねた。

「MGN社との取引を打ち切られたら、うちは立ち行かなくなるんです。二度とミスはしませんからどうか……っ!」

「君レベルの社は他にもある。納品ミスは一回でも許されないことは、君も重々承知していることだろう」

「そこをなんとかお願いいたします……! どうか、もう一度チャンスを!」

 哀れを誘うほどの声で笠井は御堂に哀願し、額を擦り切れるほど地面にこすりつけた。下手すれば御堂より二回りも年上の男だ。だが、御堂はそんな笠井の姿を冷たく睥睨し鼻で笑った。

「みっともないな。もう、君の社と取引は終了したんだ。今後このような真似をしたら通報するぞ」

 そう言い捨てて、男の横を通り過ぎようとした時だった。

「あんたのせいで、俺の社は……」

 地を這うような声が響いた。はっと男を見れば男が顔を上げて、御堂を睨みつけていた。その形相は、憎悪を煮詰めたような悪鬼さながらの顔で、眼鏡のレンズの奥の眸が真っ赤に染まっている。

「なんだ……?」

 冷たい汗が背筋を流れ落ちる。逃げた方が良いかもしれない。そう思って、踵を返そうとした時だった。

 どぉおおおん、と地響きがした。

 そして、次の瞬間、御堂の前に異形の怪物が立っていた。御堂の二倍はある上背、そして、怪物の上半身は先ほどの男、笠井の姿かたちをしていたが、下半身は無数の巨大な触手がうごめいている。

「な……」

 明らかに常軌を逸した事態が目の前で起きている。現代日本で、怪物に遭遇するなどと誰が想定していただろうか。日頃、仕事上のアクシデントは冷静沈着かつ迅速に対処する御堂であっても、目の前の光景が信じられず、まったく動けなかった。

 その時、耳元で声がした。

「御堂の旦那! しっかりして!! このままじゃ怪人にやられてしまうでやんすよ!」

 恐る恐る顔を向けると、そこにはさらに信じられないものがいた。

「虫か……? シッシッ!」

「あ、あっしは鬼畜妖精でやんす! よろしくでやんす」

 手で払おうとしたが、羽と角を持った小人のような生き物は御堂の顔の前にパタパタと飛ぶと、にっこり笑って挨拶する。だが、夜なのにサングラスをかけているその顔は、控えめに評価しても十分怪しい。

 目の前には怪物と妖精。すでに御堂が生きていた現実からかけ離れてしまっている。どうすべきか、ひとまず、頬をつねるべきか……と顔に触れた時だった。

 鬼畜妖精と名乗った生き物が怪物に取り込まれた笠井の顔を指さした。

「あの眼鏡が原因でやんすよ!」

「眼鏡?」

「キチク眼鏡でやんす。あれを付けると怪人化して、理性が消えて狂暴になってしまうでやんすよ」

 あの人間と怪物のハイブリッドのような化け物は、怪人と言うらしい。

 怪人となった笠井の虚ろな顔を覆う眼鏡、そのレンズが鈍く光る。そういえば、笠井は眼鏡をかけていなかったはずだ。それが御堂の前に現れたときは見慣れぬ眼鏡をかけていて、違和感を覚えたのだ。

 鬼畜妖精が威勢よく声をあげた。

「さあ、御堂の旦那、戦うでやんすよ!」

「はあ? なぜ私が」

「へ? だって、ここには御堂の旦那しかいないでやんす」

「私はどう見ても単なる一市民だろう。こういうのは警察とか自衛隊の仕事だ」

 そう言ってスマートフォンを取り出し、電話をかけようとしたところ圏外の表示に気が付いた。

「旦那、怪人は電波を乱すでやんす。それに、普通の銃器じゃかなわないでやんす」

「それなら、なおさらだろう。無辜の民を巻き込むな!」

 先ほどから「やんす、やんす」と耳障りだ。こんな訳の分からない生き物たちに絡まれる謂(いわ)れはない。とっととこの場から退散すべきだろう。

 だが、御堂の意思を無視して、鬼畜妖精は無理やり話を進めた。

「旦那、これを使って変身するでやんす!」

 鬼畜妖精がどこから取り出したのか、御堂の手に何かを押し付けた。受け取ったそれに視線を落とす。

「これは……」

 筆記体のアルファベットのT字のような形、御堂はこれと瓜二つのものを知っていた。

「エネマグラ……?」

「違うでやんす! 魔法スティックでやんす!」

 鬼畜妖精は心外だというように首をぶんぶん振る。

「ほら早くしないと襲われるでやんす!!」

「これでどうしろというんだ!」

「それを持って叫ぶでやんす! エネマキュアって!」

「誰がそんな恥ずかしいことをするか‼」

「いいから、早く変身するでやんす! さあ、いくでやんすよ!」

 どう考えても悪い冗談にしか思えないが、鬼畜妖精は必死な顔をして御堂にエネマグラを使わせようとする。

 握らされたエネマグラを放り捨てようとした時だった。ごおおおん、と御堂の真横で空気を切り裂く音とともに土埃が舞った。しびれを切らした怪人が御堂たちを太い触手で攻撃し始めたのだ。

 木刀よりも太い触手が襲い掛かってくる。さすがの御堂も青ざめた。よくみればすでに御堂の周囲には幾本もの触手がうねり、逃げ道をふさいでいる。絶体絶命とは今の状況を指すのだろう。もう、イチかバチかだ。

「くそっ、……エネマキュアっ!」

 叫んだ瞬間、持っていたエネマグラが輝きだし、眩い光が御堂を包む。途端にスーツが消失し引き締まった体躯と長い四肢が露になる。しかし、次の瞬間には、紫を基調にした華やかなフリルが付いたコスチュームが御堂の身体をぴったりと覆った。一筋の乱れもなく整えられた髪は艶やかな紫色に染め上げられ、リボンが付いたカチューシャが御堂の頭に巻き付く。瞳の色も髪の色と同じ紫の輝きを湛える。そして御堂を包み込んでいた光は、細かな光子となり御堂の前に棒状に凝集しだした。そして、巨大なエネマグラ状の魔法スティックとなり、伸ばした御堂の右手に収まる。

 御堂はその魔法スティックを握り、びしっと怪人に向けた。口が勝手に動く。

「魔法少女エネマキュア、参上!」

 高らかに宣言した直後、あまりの恥ずかしさに顔が燃えた。慌てて周囲を確認するが、ここにいるのは御堂と怪人と鬼畜妖精だけだ。だが、街中でこんな大騒ぎをしていたら遠からず野次馬がやってくるだろう。

御堂の懸念を察した鬼畜妖精がパタパタと羽を羽ばたかせて御堂の耳元に寄って来る。

「大丈夫でやんす。結界を張っているので一般人は入ってこないでやんす」

「だが、見られたらどうする!?」

 顔はマスクも何も覆われていない。知り合いに目撃されれば御堂だとばれるだろう。

三十二歳、自他ともに認めるエリートビジネスマンである御堂孝典が、プライベートでこんなコスチュームで夜の公園に出没したとあっては、御堂の輝かしい未来は水泡と化す。

「御堂さんは全身魔法で覆われてやんすから、人間も怪人も素顔が分からない仕様になってやんすのでご安心を」

「そうなのか……」

 とりあえず胸をなでおろそうとしたが、視線を下に向ければフリル付きの薄い布地がレオタードのように御堂の股間のラインを浮き立たせていた。

 変身という言葉に、子供のころに見た戦隊系の変身ヒーローを思い浮かべていたが、これは御堂が想定していたものから大分外れている。

「こんな非機能的で破廉恥極まりない衣装で戦えるか!」

「だけど、変身しないとスーツのまま戦うことになるやんすよ?」

「なんだと……?」

「お高そうなスーツなのに、怪人と戦って汚れたり破れたりするのは忍びないやんすね」

「……私のスーツはフルオーダーだぞ! こんなことでダメにされてたまるか!」

「でしたら、このコスチュームで戦うでやんす」

「ぐ……」

 御堂のスーツは銀座の老舗テーラーで仕立てたフルオーダースーツだ。スーツはビジネスマンの戦闘服とはいえ、こんな怪人との戦闘に使う服ではない。

仕方なく御堂は薄い布地のコスチューム姿で怪人と向き合った。正直、三十二歳という年齢でこの格好は恥ずかしすぎる。御堂に女装の趣味はない。断じてない。何の因果でこんな格好をしているのか死にたくなるが、こうなった以上、この場を一刻も早く収束させてさっさと退散すべきだろう。

 と、戦う覚悟を決めたところで、御堂は重大なことに気が付いた。隣でふわふわ飛んでいる鬼畜妖精に目配せをする。

「おい、それで、どうやって戦えばいいんだ?」

 手に持っている魔法スティックで戦うのだろうか。だが、その形状は御堂が知るどんな武器にも似ていない。どうみても前立腺開発器具のエネマグラを大きくしただけの形だ。

 それとも魔法少女らしく、魔法で戦うのだろうか。しかし、あいにくと御堂は、魔法を一つも使えないし、学んだこともない。

 鬼畜妖精は頭をぽりぽりとかきながら、のんびりした口調で答えた。

「あ~、それはでやんすね~。説明するとややこしいんでやんすけど」

「直ちに要点だけかいつまんで言え」

「まあ、実戦で学んだ方が早いでやんすね」

「なんだと!? ――うあっ」

 御堂に戦わせようとしながら、あまりにも身勝手な言い方に怒りを爆発させたところで、怪人の触手が御堂に襲い掛かった。慌てて避けようとしたところで四肢に触手が絡みつく。御堂の手から魔法スティックがあっけなく弾き飛ばされた。振りほどこうと手足をばたつかせたところでさらに何本もの触手が絡みついて御堂の自由を奪う。

「くっ、なんだこれはっ!」

「触手怪人はよくあるタイプの怪人でやんす。下半身が触手と化して、襲い掛かってくるでやんす」

「そんなことは見れば分かる!」

 なんと役に立たない鬼畜妖精なのだろう。この無能な生き物が御堂の部下なら即刻、最低の評定を付けて窓際部署に送り込むところだ。

 御堂が暴れれば暴れるほどがっちりと絡めとられる。身動き一つできなくなったところで、ぬらぬらする触手が御堂の脚の間に入り込んできた。反射的に脚を閉じようとしたが、それ以上の力で脚を開かされてしまった。幼い子供におしっこをさせるスタイルで拘束される。

「何をするっ、やめろっ!」

 動けなくなって背筋が凍るが、怪人は御堂にそれ以上の攻撃を加えようとしてはこなかった。それどころか、軟体動物のような触手は明確な意思をもって御堂の股間へと忍び寄ってきた。薄いコスチュームの布地が触手が吐き出す粘液によってあっけなく溶ける。みるみるうちに、御堂の股間が外気に晒された。

「ひ……っ」

 魔法少女のコスチュームに変身した時も、薄い布地一枚の頼りなさに不安になったが、その布地さえなくなってしまうと男の急所が露になって、心細さしかない。

「おいっ! どうにかしろっ!」

「え、あっしに言われても……。魔法少女じゃないでやんすし」

 鬼畜妖精は巻き添えを避けるように御堂から離れたところにパタパタと飛んでいく。それでも頭の中に声が響いてくるのは、鬼畜妖精の力なのだろうか。

 その時だった。触手が脚の付け根、双丘のはざまへと忍び込んできた。よりによって排泄器官の窄まりへと細い触手を伸ばし撫でまわしてくる。

「そんなところを……やめろっ!」

 ぬるぬるとした粘液が塗り広げられる感覚に身震いした。

 そして、触手がきついすぼまりへと先端を潜り込ませた。固く拒もうと力を入れるが、ぬるっと中へと侵入してくる。

「ひっ、ああああっ!」

 御堂は背をのけ反らせた。誰にも触れられたことのない部位だ。そこを無遠慮に、よりによって触手に触れられて、嫌悪感に鳥肌がそそけ立つ。

 一度入り込んでしまった触手は遠慮なく奥へと進んでくる。しかも、触手は先端こそ細かったが次第に太くなり、御堂のアヌスはどんどんと拡張されていった。しかも、それだけではなかった。細い触手が何本も御堂のペニスに絡みつき、絶妙な加減でしごき上げる。あっという間にペニスが漲り、大きく育つ。同時に、小さな花を咲かせたような触手が二本、御堂の胸を這いまわった。途端に、御堂の衣装はぼろぼろになる。そして露になった乳首へと吸い付いた。ざらついた触手の花弁が御堂の小さな胸の尖りをこすり上げ、小刻みに吸い上げてくる。

「や……っ、ぁ、ふあっ」

 苦しさに上げ続ける声に艶めいた響きが混じった。

 アヌスに入り込んでいた触手がうねる。ひくんひくんと身体が跳ねた。

 どうなっているのか、異物感と圧迫感で苦痛しか感じなかったはずなのに、疼くような刺激が身体の奥深いところから噴き出してくる。未知の感覚に悶え打つ。

「なんだ、これは……っ!」

 頭の中に鬼畜妖精の声が響いた。

「変身すると身体の感度が上がるでやんすよ! 簡単に性感を高められるようになってるでやんす」

「な……」

「それに、エネマキュアになるとフェロモンが出て、怪人は破壊衝動よりも性衝動が強くなるでやんすよ。だから、身の安全は保障されているでやんす」

「なにが身の安全だ! どうみてもピンチだろっ!」

 鬼畜妖精の言葉に絶句する。変身すれば能力がアップするものだと無意識ながらに期待していたが、それはあくまでも筋力とか瞬発力とかいわゆる身体能力の向上だと考えていた。性感がアップして怪人の性衝動をあおるなぞ、どんな意味があるのか。

「言ってなかったでやんすけど、魔力は性なる力が源なんでやんす。だから、気持ちよくなればなるほどエネマキュアは強くなるでやんす!」

「待て、そんな話は聞いてないぞ!!」

「実戦こそ学びでやんすから。つまり、エネマキュアは敵の責めを受けるほど強くなるでやんす。ということで、安心して気持ちよくなってくれやんす!」

 だから、御堂がピンチに陥っているにもかかわらず、鬼畜妖精は何ら焦っていなかったのか。むしろこうなることを待ち望んでいたのかもしれない。鬼畜妖精に殺意さえ覚える。

「貴様……っ、あとで覚えていろよ!」

 もちろんこの言葉は鬼畜妖精に向けてだ。だが、鬼畜妖精は御堂の手の届かないところで高みの見物を決め込んでいるかのように何の反応もなくなった。

 こんなことで気持ちよくなってたまるか。

 そう決意を新たにした時だった。

「ぁ……? やめっ、ああああっ」

 身体の奥深いところで触手の形状が変化したのだ。なめらかな形だった触手が太くなりごつごつとした瘤状のものが全面に盛り上がってくる。体積を増やした触手が御堂の体内を拡張する。

「ふぁっ……、んぁあああっ、はぁっ、ひ――ぃッ」

 体内で触手が動いた。ほんの少し動いただけなのに触手の瘤が粘膜を強くこすり、強烈な感覚が身体の中心を貫いた。

 ずぶずぶと触手が大きく動き出す。身体の奥深くに埋められた触手が前後に抽送を始めた。熱く火照った内壁を強くこすり上げられるたびに、強烈な快楽が襲ってくる。

 生まれて初めてといってよいほどの快感。これが苦痛だったらまだ耐えられる自信があった。それなのに、けた外れの気持ちよさにあっという間に理性は溶かされてしまう。

「だめ、や……ふぁあああ!? そんな、ぁあっ、そこ、ごりごりするなぁああ! はぁあああっ」

 突き入れられるたびに鼻にかかったような甘ったるい声が出てしまう。

 中からはゴリゴリとこすり上げられ、それと合わせて乳首とペニスを巧みに刺激される。

「あっ、はあっ、も……だめ…だ、や、ああっ」

 ありえないところをありえないもので犯されているのに、この強烈な気持ちよさに抗うことができない。自分がどこにいるのかも忘れて、絶え間ない快楽に四肢を突っ張らせて、みっともなくあえぎ続けた。乳首は摘まみ上げられ、ざらりとこすられる。ペニスは根元から先端まで触手がはい回り、鈴口からあふれる蜜を細い触手がぬちゅぬちゅとかき回す。

「あ、はぅっ、や……ぁ、そんなに、うぁっ、あぅ、らめっ、んあああっ」

 身体が燃え立つ。あられもなく声を上げ、なされるがままに触手に全身を犯され続けた。

次第に触手の動きが速く、小刻みになる。身体の奥深いところを刺激される。

 全身が性感帯になってしまったかのように、触手が動くたびに身もだえる。

「ぁ、んあああっ、あ、は、ぁうっ、イ……イくっ!!」

 電撃が御堂の身体を貫く。御堂は背をのけ反らせて腰を前に突き出すと派手に精液をしぶいた。同時に、体内の触手が大きく跳ねて、びゅくびゅくと大量の粘液を御堂の中に注ぎ込んでいく。

「ひ……っ、ぁ……」

 ぬぽん、と空気がはじける音がして、満足した触手が御堂のアヌスから抜けた。どろり、と触手が吐き出した大量の粘液が、綻びきったアヌスから滴り落ちる。あまりに苛烈な絶頂にもうろうとしていたが、鬼畜妖精の声で意識が引き戻される。

「御堂の旦那! もう魔力は十分でやんすよ! さあ、必殺技を出してください!」

「ひっ、必殺技……?」

「エネマフラッシュって叫ぶでやんす!」

「エ……エネマフラッシュ!!」

 もう、どうにでもなれとやぶれかぶれに叫んだ。その刹那、遠くへと落ちていた魔法スティックが御堂の前へと瞬間移動(テレポート)してきた。そして輝かしい光を放つ。その光の強さは爆発といっても良いほどで、御堂の四肢に絡みついていた触手は光を浴びてぼろぼろと砕け落ちていく。触手怪人の身体が崩れ落ち、中心から一人の男がはじき出された。触手怪人の核になっていた笠井だ。その顔にかかっていた眼鏡が外れる。その眼鏡のレンズにピシリとひびが入り、次の瞬間には細かな粒子になって砕け散った。地べたに放り出された男はぴくりとも動かない。

 鬼畜妖精が羽を羽ばたかせて御堂のもとにやってきた。

「やったでやんすよ!」

「勝った、のか……?」

「さあ、さっさと退散するでやんす!」

「な……」

 いまだに事態を理解できてなかったが、御堂の身体の周囲に淡く優しい光が浮かぶ。その光が御堂を包み込むと、御堂の身体ごと消し去った。

 ふっと身体に重力がかかる。視界が一気に開け、周囲を見渡せば、御堂はビル街の歩道の真ん中に突っ立っていた。慌てて服装を確認したが、普段通りのスーツ姿だ。どうやら、いつの間にか歓楽街近くの大通りまで来たらしい。周囲には都会の喧騒が溢れ、御堂の周囲を多くの人間が無関心に歩いていく。

 今のは夢だったのだろうか。だが、すぐに御堂の淡い期待は打ち消された。耳元でパタパタと耳障りな羽音が立ち、見れば鬼畜妖精が御堂の肩の上を飛んでいた。それに、腰の奥に残る甘ったるい疼き。

「貴様――ッ!」

 即座に鬼畜妖精をとっ捕まえようと手を伸ばすが、その手を寸でのところで交わされる。鬼畜妖精がへらへらと笑った。

「やめるでやんすよ。あっしの姿は御堂さんにしか見えないでやんす。あまり変なことをしていると周囲から変な目で見られるでやんすよ?」

「く……」

 御堂は唇を噛んだ。鬼畜妖精の言う通り、周りの人間にこの怪しげな生き物が見えている様子はない。この調子ではいくら御堂が説明しようとも、御堂の頭が狂っただけだと思われるだろう。御堂は軽く咳払いをしてその場を取り繕うと、何事もなかったかのように歩き出した。鬼畜妖精は御堂に並んで飛んでいる。ちらりと鬼畜妖精に黒目を向けた。

「あの男は?」

 声を潜めて尋ねた。あの怪人になった笠井はどうなったのだろうか。まさか死んだりはしてないだろうか。

 

「もう大丈夫でやんす。怪人に変身していた時の記憶も消えているでやんす。怪我もしてないでやんすよ」

「そうか……」

 胸を撫でおろした。いくら自分を襲ってきた男であっても、このまま死なれては夢見が悪い。鬼畜妖精は御堂の横で小首をかしげた。

「あのキチク眼鏡は絶望といった心の隙につけ込むんでやんす。あの男、なにか、がっかりなことでもあったんやんすかね」

「……」

 御堂は押し黙り、スマートフォンを取り出した。笠井のメルアドを検索し、メールの文面を打つ。

『取引終了は取り消す。今後もよろしく頼む。 御堂』

 それだけ書いて送信した。鬼畜妖精が「何してるでやんすか?」と興味深そうにスマートフォンをのぞき込もうとするので、画面を見られる前にジャケットのポケットに仕舞いこむ。そうして、今度こそタクシーを捕まえようと、道路に向けて歩き出した。耳元の羽音をわずらわしく感じながら言う。

「で、どこまでついてくるんだ?」

「そりゃもう、どこまでも」

「やめろ! もう金輪際、私に近づくな!」

「そんな、つれないでやんす~」

 夜の繁華街を一人と一匹が歩いていく。だが、気に留める人間は誰もいなかった。

 

 

 

 

 公園の隣に立つビル。その屋上で男が二人、都会の闇に紛れ込むように立っていた。一人は手を組んで立ち、地上を見下ろしている。男がまとうのは大きな黒いマント。強いビル風にマントが大きくはためいた。すると、はだけたシャツとスラックスといったラフな服装が露になる。冷たい鋭さが漂う顔を銀のフレームの眼鏡が引き締めている。

そのレンズ越しの視線の先には先ほど御堂が戦闘をした公園があった。そこでは怪人から人間に戻った笠井がようやく目を覚まし、なぜここにいるのか分からないといった風にとぼけた顔で周囲を見渡していた。

 そして、その男の傍らには黒衣の男が膝をついて傅(かしず)いていた。その男は全身黒衣の姿で、人目を引くようなあでやかな濃い金色の長髪を緩く編み込んでいる。マントの男は視線を黒衣の男へと向けた。

「魔法少女だと?」

「ええ、思わぬ邪魔が入りました」

「……少女には見えなかったが気のせいか、Mr.R?」

 Mr.Rと呼ばれた男は、我が王と呼ぶマントの男にうやうやしく頭を下げた。

「我が王、魔法少女は、かつては変身ヒロイン、特に二次性徴期の少女を指しておりました。ですが、近年のダイバーシティの推進により年齢層も幅広く、女性だけでなく男性も魔法少女に含まれるようになったとか」

「ふん」

 我が王、と呼ばれた男はMr.Rの冗長な説明に興味を失ったかのように、踵を返す。闇に染め上げられたマントが風を受けて大きく翻った。

「それで、少しは楽しませてくれるんだろうな、魔法少女とやら……」

 喉で低く笑うと男は歩きだした。その姿はすぐに都会の濁った闇に溶け込んでいく。Mr.Rもゆっくりと立ち上がると、静かな笑みを口元に刷いたまま、男に付き従って闇へと掻き消えていった。

 

 

END

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