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Dead End

――何故だ?
 何故、こうなったのだろう?
 いつ、どこから、何をどう間違ったせいで、今、こんなに惨めで無様な思いを味合わされているのだろう。
 崩れ落ちそうになりそうな精神を露呈させないように、必死に思考を逸らすが、考えれば考える程、その意識は袋小路に捉われていく。
――いま、この男に跪かされみっともなく奉仕しているのは、本当に私なのだろうか。
 全裸にされて、椅子に座った自分の部下の股間に顔を埋めさせられている。
 その男、佐伯は、スーツのスラックスのファスナーをくつろげただけの乱れのないスーツ姿で私を見下ろしている。
 口元には薄い笑みが浮かび、その顔には表向きには一切見せることのない傲慢さが表れている。
 私の後頭部に添えられた手は、一見優しく髪に指を埋めて、気怠げに髪を梳くような素振りをみせているが、この奉仕から逃れることを許さない強制力を持っている。
――何故、私が?
 順調に地位を積み重ねてきたはずだった。人から羨まれる順風満帆な御堂孝典としての人生。これは決して楽をして手に入れたわけではない。それに相応しい努力と忍耐を費やしてきたのだ。だからこそ、この男に、こんな風に弄ばれて、壊されるわけにはいかない。それでも、この状況をどう打開すべきなのか。思考は出口の見えない迷路に捉われるばかりだった。

 数時間前のことだった。
 執務室でデスクに向かっている私のところへ、直通の外線がかかってきた。電話をとると、忌まわしい記憶とともに心に深く刻み込まれた低い声が響く。途端に動悸がして喉が干上がる。
「御堂部長、今夜、部屋にお伺いします」
 一方的に告げられた宣告に息を呑んだ。
「…ふざけるな」
 かろうじて絞り出した言葉は掠れていた。受話器の向こうで嗤いを含んだ吐息が漏れる。
「それなら、ホテルでもいいですよ。あなたの名前で部屋を取っておきます」
「君は、……何を考えている?」
「あなたに接待をしてもらおうと思いまして」
 臆面もなく平然と言い放たれた言葉に怒りがこみ上げた。
「何故、私が貴様の接待など……っ」
「先日の俺の接待にご不満があったようなので、接待慣れしている御堂部長に、接待とは何かをご教示いただこうと思いましてね」
 ククッと喉で嗤う音が響く。こちらの反応を伺うこともなく、ホテル名と時間を告げられた。怒りに任せ怒鳴りつけたいのを必死に抑える。
「私が行くと思うのか」
「ご自由にどうぞ。来なければ来ないで、本多とビデオ上映会でも開きますかね」
「ぐっ……」
 奥歯を噛みしめる。頭に血が上り、顔が紅潮していくのが自分でも分かった。
 単なる脅しと切り捨てるには、余りにもリスクを伴うビデオだ。
 行けばどんな屈辱的な行為が行われるのか想像に難くない。一方で、行かなかった場合に引き起こされるかもしれない事態は、屈辱の一言では済ませられないほど惨憺たるものになるかもしれない。
 その一瞬の逡巡を読み取られたのか、耳元で囁かれる佐伯の声が営業用のものに変わり、妙に明るくはっきりとしたものに変わった。
「それでは、御堂部長、楽しみにお待ちしております」
「待てっ!」
 その言葉が佐伯に届くか届かないかのうちに一方的に電話が切れる。不通音が流れる受話器をきつく握りしめた。掌には嫌な汗がじっとりと滲んでいた。

 自宅や会社で何かされるよりはマシなはずだ、と自分を無理矢理納得させる。ホテルの部屋の扉を開けると、佐伯は既に到着していた。スーツ姿のまま窓際の椅子にゆったりと腰かけていた佐伯は、私を見るなり薄い笑みを浮かべた。
「全裸になって奉仕してもらいましょうか」
 ホテルの部屋に入るなりに、佐伯に告げられた言葉に息を呑んだ。
 有無を言わせぬ低い声の命令口調。覚悟していたはずだったのに、怒りと屈辱で身体が動かせない。
「早くしろ。…それとも、下の口で俺を満足させてくれるのか?俺はどちらでもいいが」
 その眼が愉し気に嗤う。佐伯は椅子に腰かけたまま動こうとはしない。このまま身を翻して部屋を出るのも自由だ。だが、そこに選択肢はあるようで、ない。
――…一刻も早く終わらせるんだ。
 そう決意すると、佐伯の舐めるような視線から顔を逸らし、スーツのジャケットを脱いだ。型崩れを気にして無意識にハンガーを探してしまう自分に舌打ちし、近くのベッドの上に置く。嫌がる仕草は佐伯をより喜ばせることは分かっている。一思いにベストを脱ぎ、ネクタイを解き、ワイシャツのカフスボタンを外す。脱いだ服をジャケットの上に重ねていく。靴と靴下を脱ぎ、スラックスを脱ぎ捨てシャツと下着だけになったところで、手が止まった。これから起きる出来事を想像してしまい、その嫌悪感に身体が強張る。これ以上先に踏み出すことを身体も心も拒否していた。
「どうしました?御堂部長ともあろう方が、怖気づいたんですか?」
「貴様…っ!」
 揶揄するような声音に憎悪を込めた視線で応える。それでも、佐伯の表情は揺らぐことはない。この男は私が抵抗するのを愉しんでいる。自らの嫌悪感を無理矢理押さえつけ、シャツと下着を脱ぎ捨てた。
 全裸になり、軽く脚を寛げた佐伯の脚の間に跪く。
「咥えろ」
 頭上からかけられた声音は静かだが、強制力を持っている。
 しかし、目の前の佐伯はスラックスもベルトもそのままで、佐伯の要求に従うためには、ベルトを外すところから始めないといけない。
 そこからやらせようとするのか。
 怒りを持て余しながら、ベルトを外しファスナーを降ろし下着から佐伯のそれを取り出す。まだそれは柔らかかったが、既に自分は凶器となったそれに何度も貫かれている。その時の事が否が応にも思い起こされた。とっさに顔を背けようとしたところで前髪を鷲掴みにされて正面を向かされた。
「さっさとしろ」
 冷たく低い声で命令される。佐伯のペニスを持つ手が震えた。
――早く終わらせるんだ。
 呪文のように自分に言い聞かせ、佐伯の股間に顔を埋め、佐伯のペニスをしゃぶりはじめた。
「くっ、ふ……ん……っ」
 同性の性器に触れることも初めてなら、口淫した経験ももちろんない。
 それでも口に先端を含み、舌先で舐めあげる。次第にペニスは口内で育ち、いびつな形に膨張し脈打ちだす。
 口の中を圧迫しだすそれに息苦しさを覚える。その先端から、自分の唾液とは違う潮気を感じる液体を感じ、吐き気がこみ上げ我慢しきれずに口を離した。一縷の望みを託し、縋るように佐伯を見上げた。
「佐伯っ。こんなことはっ……」
「御堂部長、その程度で俺を満足させられるとでも?」
 頭上から侮蔑に満ちた声が降ってくる。口の端がわずかに上がり、歪んだ笑みを浮かべた佐伯が冷たい視線を向ける。
「続けろ」
 鷲掴みにされた前髪ごと顔を押さえつけられ、淫らな口淫を強制される。強い雄の匂いと質量と硬さを増したペニスが口内に突き入れられる。そのまま喉の奥まで性器をねじ込むように頭を押さえ込まれた。凶暴な肉塊に喉の奥を蹂躙される苦しみに喘ぐ。
「んんっ…ぐぅっ、……かはっ」
 この奉仕と言う名の拷問は、この男の欲望が果たされるまで決して終わらないことを思い知らされる。
 震える瞼を閉じて、覚悟を決め、自ら舌と唇を使い始めた。佐伯に無理やり口内を犯されるよりは、と自分自身に言い聞かせる。
「うまいものじゃないか」
 ペニスの根元に指を添えて固定し積極的にしゃぶり出した私を見て、佐伯が満足気に呟くと掴んでいた前髪から手を離し、私の後頭部に手を回す。髪の毛に指を埋めその感触を愉しむように髪を梳く。
「ふっ……んんっ」
 ペニスの先端からは欲情を滲ませる液体がどんどん溢れてくる。それを喉を鳴らして何度も呑み込むが、口内を埋め尽くすように膨張したペニスのせいで呑み込み切れない唾液が口の端より伝い滴り落ちていく。早く終わらせようと、舌で裏筋をなぞり、口蓋に亀頭を擦り付ける。口の中のペニスは更に一回り硬くなり、熱を持った。
 この凶暴な昂ぶりに何度貫かれたことだろう。組み伏せられた屈辱と強制的に煽られた快楽の記憶が鮮烈に蘇る。
「なんだ、あんたも感じているのか」
 その嘲りを含んだ一言にはっと意識が引き戻され、愕然となった。自分の視界に淫らに欲望を顕わにした自身の性器が映り込む。
――嘘だ。こんな屈辱的な仕打ちを受けて、感じるはずがない。
「ちがっ……、くはっ」
 慌ててそれを否定しようと、佐伯のペニスから口を離そうとしたところで、頭を押さえつけられた。喉の奥を抉られる。口腔内で佐伯のペニスが一段と大きさを増し、びくん、と脈打った。
「飲め」
「―――っ!」
 熱く滾る重たい液体が口内の奥深くに吐き出される。強烈な雄の匂いが肺まで充満し、青臭い味が口内に広がる。
「かはっ、ぐっ」
 生理的な反射と嫌悪感で噎せ返り、ペニスから口を離して、その濁液を吐きだそうと激しく咳き込む。
 佐伯の手から逃れ、よろめきながら立ち上がった。ベッド近くに置かれていたティッシュを手に取り、唾液ごと吐き出す。出来ることなら口の中の全てをぬぐい取り去りたい。
「こんなものか」
 背後から聞こえた呟きに、身体が震える。憎悪に拳を握りしめるが、振り向かず、口を漱ごうとバスルームに向かった時だった。突如、背中を突き飛ばされてベッドに押し倒された。
「何をっ」
 うつ伏せに倒された身体を素早く起こして体勢を取ろうとしたところで、頭を上から押さえつけられる。そのまま佐伯は私の背中に馬乗りになった。ベッドに身体を縫い付けられながら、自分に伸し掛かる佐伯の熱を含んだ荒い息遣いに慄く。
「話が違うっ!」
「話?何の話だ?…ああ、あれで、終わりだと思ったんですか」
 抗う言葉に、含み笑いを伴った冷酷な言葉が返される
「もう、十分だろっ」
「まだだ。これ位で終わると思うな」
 必死に抵抗しシーツを掴んだ手首を背中に絡めとられる。何かが手首に巻き付いたと思った時には鮮やかな手際で、ベッドに置いていた自分のネクタイで両手を背中に戒められていた。
 身体にかかっていた重力が、ふっ、と軽くなる。佐伯が私の背から降りたのだ。その隙を狙って膝を立ててベッドから抜け出そうとしたところで、ふくらはぎを脛で踏みつけられ、前のめりに倒れた。そのまま脚の間に身体をねじ込まれる。気付けば両肩と膝をベッドにつき、腰を上げた無様な体勢を取らされていた。
 双丘を佐伯の前に掲げさせられる。その羞恥に喘ぐように身体が震え戦慄が走った。
 佐伯の喉を震わせるような嗤い声が響く。
「よせっ!ふざけるなっ!」
 上体を捩り、肩越しに佐伯を罵倒する。佐伯は酷薄な笑みを浮かべると、ゆっくりと自分の人差し指と中指を自らの口に含んだ。見せつけるように舌をぺろりと出し、指に自分の唾液をじっとりと絡ませる。
「やめろっ!」
 濡れた指が後孔に触れる。侵入を拒むように力を込めてそこを閉ざす。
 指は無理に入ってこようとはせずに、その周囲を柔らかく襞を伸ばすように這いまわる。普段触れることのない場所を他人の指になぞられて、身体の中心をぞわぞわとした疼きが這いあがってきた。
「うぁ……くっ」
 不意に佐伯に性器を握られた。緩く勃ち上がっていたそこを優しく揉みこまれ擦り上げられる。ペニスから生み出される快感に気を取られた瞬間、後孔に指が入り込んできた。
「やっ…抜けッ」
「身体は嫌がってないぞ」
 佐伯に弄られた性器は堪えられずに蜜を溢れさせ、擦られる度に濡れ音を立てていた。自らが立てる淫猥な音に顔が紅潮する。佐伯は後ろに更に指をもう一本挿れ、聞こえるように音を立てながら後孔を抜き差ししはじめた。
「はあっ、ああっ…」
 指で内部を捏ね繰り回され、また、ペニスを擦られ、声を封じようにも肩を喘がせてしまう。
「そろそろいいか」
 その言葉と同時に後孔から指が引き抜かれ、その手が双丘に添えられた。
 硬く熱い先端が代わりにあてられる。強張った身体に構わずそのまま押し入れられる。
「――っ!!」
 息を呑んだ。それは決して急いてはいなかった。ゆっくりと狭い孔を拡げて入ってくる。その圧迫感に身体を仰け反らせた。下腹部に重い熱が溜まってくる。
「うぁっ……あ、」
 本来ならば受け入れることを知らない器官に、焦らすように時間をかけて深く奥まで挿れると、そこで佐伯は動きを止めた。佐伯のペニスの身体の裡に埋め込まれ、その輪郭と熱をはっきりと思い知らされる。
「そろそろ、俺の形と大きさを覚えましたか?味はもう覚えましたよね」
「くぅっ…」
 口の中に残る佐伯の残滓が粘ついて、不快感と息苦しさをもたらした。
 くくっと嗤いが漏れ、佐伯のものを呑み込まされた尻を撫で上げられる。それだけで身体の中心を痺れのような甘苦しい疼きが生じ、身体の力が抜けていく。
「ほら、どうして欲しいんだ?口に出して言ってみろ」
「くそっ…黙れっ!」
 だが、気持ちとは裏腹に、動かない佐伯にしびれを切らした身体が佐伯のペニスを喰いしめ始めた。身体を穿つ苦しさに慣れると、その先の悦楽を教え込まされたこの身体は、卑しくも官能を求め始める。断固たる意志で押さえつけなければ、腰が揺らめいて佐伯を誘ってしまいそうだ。
「淫乱な身体だ」
「ち、違うっ…抜けッ!」
「お望み通り抜いてあげますよ」
「ひぁ……ふっ…」
 佐伯は挿れた時と同じだけの時間をかけて、ゆっくりと猛ったペニスを引き抜く。粘膜が擦れ、めくられる。引き抜かれるペニスを追い縋るかのように、内腔を締め付け粘膜を絡めてしまう。食い縛っていた唇から切なげな吐息が漏れそうになり、慌てて息を呑みこんだ。
 佐伯は引き摺りだしたそれを、また挿し入れ始める。今度は浅いところを小刻みに抽挿しだした。
「さっき御堂さんがぬいてくれたおかげで、じっくりと愉しめそうです」
「う……ふ、……ああっ」
 身体が熱を持ち、肩を喘ぐ。軽く突かれるたびに、押し殺した喉から息が漏れる。
 佐伯は私のペニスに手を添えているが、そこがどんどん張りつめ、蜜を滴らせるのを確認するだけで、そこを弄ろうとはしない。
 最初に奥深くまで抉られただけに、決定的な快楽を与えられないまま、燃えるような欲情に全身を支配され身を灼かれる。
「欲しくてたまらなくなっているんだろう?」
――もっと深く抉ってほしい。
 佐伯の言葉に、無意識に心の内にそう応えている自分に気付いて茫然とする。拘束されている手を解放されれば、無心に自分のペニスを擦り上げているだろう。
 佐伯は、私が佐伯のペニスを求めてどうしようもなくなるのを見計らっているのだ。
「ほら、懇願して見せろよ。もっと奥まで突き上げてください、イかせてください、って」
「誰…が、言うもの…か、――くはっ」
 そう言いながら、私のペニスを軽く擦り上げた。それだけで身体が淫らに跳ね、背筋を強烈な疼きが走る。そのまま佐伯の手に自身を擦りつけるかのように腰がうねる。
「くくっ……相変わらず強情だな。身体はこんなに素直なのに」
「っあ!」
 私の身体の浅ましさを見せつけるように、佐伯は腰を少し強く揺さぶった。その途端に、鳥肌が立つような鋭く鮮烈な快楽が結合部から身体中に走る。一刻も早く絶頂に辿りつきたい思いが意識を支配しようとするのを、かろうじて残された理性で抑えつける。
 佐伯は私の反応を愉しむように、腰を使い続ける。佐伯が上体を深く屈めて私の背中に密着させた。シャツの生地が無防備な背中に触れ、熱い吐息が首筋にかかり、それだけの刺激で吐息に声が混じりそうになる。腰を押さえていた手が離れ、私の胸の突起を強くつまみ上げた。
「ひっ!っああ……くあっ!」
 強烈な痛み、そして痺れ。首筋から身体が仰け反る。それを自ら身体で押さえつけるように佐伯は伸し掛かり、同時にぐっと根元までペニスを押し込み一気に抉った。
「ああ――っ!」
 待ち望んでいた刺激。目も眩むほどの快楽が全身を貫く。その瞬間に全身を痙攣させ、叫び声を上げて、吐精していた。ペニスを握る佐伯の手の中に自らの欲望を吐き出し続ける。
 荒い息を吐きながら、放心の体でぐったりとベッドに身体を預けようとしたが、穿たれた腰は固定されたままだ。下腹部の充溢感から、佐伯がまだ達してないことに気付く。佐伯の腰が再びゆるりと動き出した。達した後の敏感になった身体にとっては、辛いほどの刺激が身体の内奥に与えられる。
「も、う……無理だっ……抜いて、くれ」
「しっかりと俺の感触を覚えるんだ」
 最奥まで突き入れ、ギリギリまで引き抜く。狭い内腔の粘膜に自らの性器の形と大きさを覚え込ませるかのように。その強く深い律動に合わせて身体が翻弄される。その度に、悲鳴とも喘ぎとも分からない声が肺から漏れた。
「っうぅ…あぁっ」
 一段と強い動きで最奥に突き入れられる。小さな呻き声とともに、佐伯が身体を震わせ、熱く滾った欲望が身体の裡に打ち付けられた。
「御堂部長、良かったですよ」
 ずるりとペニスを引き抜かれた。支えを失い、意識と身体が力なくベッドに沈み込む。
 ベッドの足元では佐伯がファスナーを上げとベルトを締め、身だしなみを整え始めた。
 再び私の元に近付く気配を感じ、反射的に身を強張らせたが、私の後ろ手を拘束していたネクタイを解いただけだった。だらり、と両腕が身体の脇に落ちる。
「また、接待してください」
「貴様……っ」
 愉し気に嗤いながら顔を覗き込む佐伯に、怒りと憎悪を燃やした眸を返す。
「…まだ、そんな眼が出来るのか」
 佐伯はその顔から笑みを消しさり私を冷たく見据えると、さっさと身を翻してホテルの部屋を出ていった。
 きつく唇を噛みしめて、与えられた屈辱と快楽の余韻にひたすら耐える。ぎゅっと目を瞑った。
 この迷路に出口はあるのだろうか。少しずつ、袋小路に追い詰められている恐怖を感じ、身体を震わせた。

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