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 MGN社企画開発部のオフィスは外資系らしい洗練された広い空間で、事務員まで入れれば百名近い社員を抱える大所帯だ。月曜の午前中は大会議室に移動して週一のミーティングを行っている。

 その会議に少しばかり遅れてやってきた御堂はスーツ姿の一人の男を連れてきていた。部長の指定席に着席する前に、会議室の前に立つとその男を紹介する。

 

「今日からシカゴ本社から日本支部の開発部に配属になった佐伯だ。……自己紹介を」

 

 促されて佐伯は一歩前に出た。

 

「MGNのシカゴ本社から派遣されました佐伯克哉です。しばらくの間、御堂部長の補佐を務めさせていただきます。不慣れなこともあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 爽やかな顔と口調で挨拶をする佐伯は大きな拍手で迎えられた。企画開発部のメンバーは好奇心と羨望に満ちた目で見詰めている。

 にこやかな雰囲気で始まったミーティングだが、御堂は眉間にしわを寄せたまま、厳しい顔つきで佐伯に言う。

 

「では、君は奥の方にでも座っていろ」

「はい、それではまた会議後に」

 

 佐伯は薄く笑みを浮かべたまま御堂に会釈をすると、奥の空いている席へと向かう。佐伯との視線のやりとりに緊迫したものが走ったが、社員は誰一人気付くことなく、定例のミーティングは始まった。

 ミーティングはつつがなく進行したが、終わるなり、佐伯は社員に囲まれていた。次から次に自己紹介され、質問攻めに遭っている。二十代という若さでシカゴ本社に籍を置き、日本支社に派遣されるとは幹部候補生と思われているのだろう。

 佐伯は嫌な顔ひとつせず、一人一人とにこやかに挨拶をし、握手を交わしている。御堂はそんな佐伯を忌々しい顔つきで眺めていた。

 MGNのシカゴ本社から派遣されたという事実などない。佐伯の経歴もすべて嘘だ。

 先の週末に御堂が佐伯にどんな目に遭わされていたかを知る者はいない。そして、その責め苦が未だに続いていることも。

 

「御堂部長、顔色あまり良くありませんが大丈夫ですか?」

「――っ、……藤田か。問題ない」

 

 突然横から声をかけられて御堂は慌てて表情を取り繕った。隣では新人の藤田が気遣わしげな顔をしている。

 藤田とこれ以上の会話を打ち切るがごとく、御堂は表情を消して立ち上がると会議室を後にした。

 執務室に向かっているところで横にすっと佐伯が並ぶ。

 

「皆、俺がシカゴ本社の人間だとすっかり思い込んでいるぞ」

「この詐欺師め……」

「MGNが外資で良かった。欧米企業は大抵バチカンの息がかかっているからな。あっという間に俺をエリート社員に仕立ててくれた」

 

 ありったけの殺意を込めて横目で睨み付けるが、佐伯はそれを受け流して喉で笑う。

 金曜日の夜に拉致された御堂は、祓魔師の佐伯によって凌辱を始めとした拷問を受けた。そして、そのまま囚われ続け、徹底的に佐伯を咥え込まされ、その形を身体に覚えさせられた。媚薬によって強制的に発情させられ、聖なる気を身体の奥深くに何度も打ち込まれて、後ろで感じることが出来るように躾けられたのだ。

 佐伯は御堂に、何を企んでいるのか、そして、佐伯への服従を誓うように迫ったが、御堂は最後まで拒否し続けた。精神的にも肉体的にも疲労は嵩み、意識は朦朧としていたが、的確に自分を責め抜く男を、御堂は歯を食いしばり耐え続けた。佐伯はこのままでは埒が明かないと考えたのだろうか。月曜の朝、突然御堂を解放したのだ。といっても、形ばかりの解放だ。

 ヨレヨレになった服を着せられ、自分のマンションの前に放り出された。ようやく部屋に戻り、シャワーを浴びたが、御堂は休む間もなくスーツを着替えMGN社に出勤した。

 疲労が色濃く残る身体を鞭打ち出社したところで、御堂は上司の大隈専務に呼び出された。大隈の執務室に入り、御堂は目を見開いた。

 大隈の隣に立っていたのは、祓魔師の法衣から一転、スーツに身を固めた佐伯克哉だ。

 大隈がにこやかな顔をして言う。

 

「突然だが、シカゴ本社から派遣された佐伯君だ。君の補佐として企画開発部に配属されることになった。よろしく頼む」

「どうぞよろしくお願いいたします、御堂部長」

 

 邪気のひとかけらもない満面の笑みで佐伯は御堂に手を差し出した。握手を求めているらしい。御堂は不自然にならないように、差し出された手を握り返した。握る手にギリギリと力を込めつつ、挨拶するように見せかけて佐伯に低い声で問う。

 

「どういうつもりだ?」

「MGN日本支社、特に、あなたが部長を務める企画開発部はめざましい業績を上げています。どのように活動されているのか、勉強させていただこうと思いまして」

 

 手に御堂の爪が食い込むのも構わず、笑みをまったく崩さぬまま佐伯は答える。上質のスーツを隙なく着こなしている佐伯はエリートビジネスマンとしか見えなかった。

 こうして、御堂は佐伯を補佐につけることになったのだ。

 

 

 

 佐伯は当然のように御堂の執務室の中までついてきた。デスクも他の社員と同じフロアではなく執務室の中に簡易のデスクを設置することになった。

 一日中この男に見張られるのかと身構えたが、着任初日だったこともあり、佐伯は各部署への挨拶回りに駆り出されていた。そのほかにも着任の事務手続きもあり、戻ってきたのは退社時間も過ぎてからだ。

 

「サラリーマンは面倒だな。まあ、自分からあちこち向かう手間が省けたが」

 

 そうぼやきながら、佐伯が我が物顔で執務室に入ってきた。そして、独り言のように言う。

 

「だが、意外だったな。誰にも、どこにもあんたの痕跡はなかった」

「納得したならさっさと消えろ」

「そうはいかない。あんたがここで何をしようとしているのか調べる必要があるからな」

 

 佐伯はそういいながら執務室のソファに腰を掛けた。背もたれに身体を預け、両脚を前に投げ出して御堂へと顔を向けた。

 レンズ越しの双眸が御堂を探るように見つめた。その眼差しを真正面から見返して言う。繋がった視線の間に火花が散るかのような鋭い緊張が生まれた。

 佐伯がMGN社の社員として潜り込んだのは、御堂がこのMGN社で何かを企んでいると疑っているからだ。そのためにわざわざMGN社の社員のポストまで用意した。

 佐伯はMGN社の社員一人一人と握手を交わす際に、顔を覗き込むようにして視線を合わせていた。端正な顔の男にじっと見詰められ、相対する社員は顔を赤らめていたが、それはすべて佐伯の調査の一環に過ぎない。相手が御堂の魔力の支配下にないか眸の奥を覗き込むことで調べていたのだ。

 御堂は魔眼を持つ。その気になれば視線を合わせた相手を支配し、操ることが出来る。だが、その力も聖別された眼鏡のレンズには弾かれてしまう。それだけではなく、御堂の魔力は今や、ないに等しいくらいに封じられていた。

『それ』の存在を思い出し、御堂は無意識に首元に手をやった。佐伯がにやりと笑う。

 

「上手く隠しているじゃないか」

「貴様……」

 

 嘲弄するような口調にギリギリと奥歯を噛みしめた。御堂が着ているワイシャツの襟はドゥエ・ボットーニタイプだ。襟高があるそれを選んだのは訳があった。

 御堂の首には細身だが頑丈な首輪が嵌まっている。その首輪を隠すために襟が高いシャツにしたのだ。その首輪には十字の形の銀のプレートが埋め込まれ、また首輪の内側には聖なる文句が刻まれている。この首輪が御堂の魔力を封じ込めていた。そして、それだけではなかった。

 佐伯は口元に冷たい笑みを滲ませながら言う。

 

「それじゃあ、今日の分を始めようか」

「まさか、ここで……?」

 

 驚愕し目を瞠る御堂に対し、佐伯は横柄な口調で告げる。

 

「俺のを咥えろ」

「よせ、何を考えている。ここは会社だぞ」

「悪魔のくせに何を気にしているんだ。さっさとやれ」

 

 とてもじゃないが、佐伯の命令に従えるわけがない。

 御堂は黙ったまま椅子から動かないでいると、佐伯がこれみよがしなため息を吐いた。次の瞬間、

 

「ぐ、ぁあ―――っ!」

 

 電撃で首を絞められるかのようなショックを受けて、御堂は背を弓なりに反らせた。咄嗟に手の甲で自分の口を塞いだおかげで、大声を響かせるのは免れたものの、まだ衝撃は抜けきらず荒い呼吸を繰り返す。これも聖具たる首輪に秘められた能力のひとつだ。佐伯の気持ちひとつで御堂をうち伏せることが出来る。

 

「さっさとやれ、俺は気が短い」

「ぐ……」

 

 唇を噛みしめながら、御堂はよろよろと立ち上がった。ソファに座る佐伯の前に跪く。佐伯はまったく動こうともせずに凍えた眼差しで御堂を見下ろした。

 屈辱に震える指で、佐伯のベルトに手をかけた。バックルを外し、ファスナーを下ろし、まだ柔らかい佐伯のペニスをアンダーから取り出した。佐伯が釘を刺す。

 

「歯を立てるなよ」

 

 ありったけの憎悪を込めた眼差しで佐伯を睨み付けると、股座に頭を伏せた。ペニスを手で持つようにして亀頭を唇の間に含み裏筋から段差まで舌でなめ回す。

 こんな卑劣極まりない男、それも祓魔師に奉仕する羽目になるとは、怒りで頭の血管が焼き切れそうだ。

 手と舌を使ううちに、佐伯のそれは頬張りきれないほど大きく育っていった。じゅぷじゅぷと唇の端から唾液がしたたり落ち、生々しい感触が御堂の口の中を犯す。じゅわり、と佐伯の先端から滲む潮気のある液体が舌先に触れた瞬間、びりっと電流が走ったような感触がし、御堂はえずいた。思わず顔を離そうとしたが、佐伯に後頭部を押さえつけられて、むりやり喉奥まで含まされる。

 

「ん――、っ、ぅ……」

 

 佐伯は祓魔師として血の一滴まで聖別されている。つまり、佐伯はそれ自体が御堂にとって劇薬のごとき存在なのだ。だから、滲む先走りにも聖なる気が込められていて、御堂にとっては毒を口に含まされているのに等しい。

 あまりの苦しさに身体を引き攣らせながら、どうにか佐伯のペニスを口から引き抜いた。佐伯が呆れたような言葉を投げつける。

 

「下手くそだな。口から呑ませてやろうかと思ったが、どうやら下から呑みたいのか?」

 

 佐伯はせせら笑いながら、御堂に下半身裸になって、ソファの前のセンターテーブルに乗るように命じた。

 

「この……下衆が…っ」

「悪魔が言う言葉ではないな」

 

 佐伯は御堂の苛烈な怒りを前にしても涼しい顔をしている。

 こうなったら一刻も早く恥辱の時間を終わらせるしかないだろう。御堂は覚悟を決めて、スラックスと下着を脱ぎ、センターテーブルの上に四つん這いになるように乗り上がった。

 佐伯が立ち上がり、御堂の背後に立った。

 

「ちゃんと付けているじゃないか。気に入ったか?」

「――っ」

 

 佐伯の手が御堂の剥き出しの尻を撫でた。そして、双丘の狭間に指を伸ばし、触れる器具を爪で弾いた。

 

「ぁあっ」

 

 これが、佐伯が御堂の身体に埋め込んだ、首輪とは別のもう一つの聖具、アナルプラグだ。この手の器具は苦悶の梨と呼ばれ、中世から拷問具として使われていた器具だ。だが、まさか今でも活躍しているとは知らなかった。とはいえ、見た目は普通のアナルプラグだ。大きさはそこまで大きくないものの、御堂のアヌスにがっちりと嵌まって自分では取り出すことが出来ない。それを咥え込まされた状態で御堂は仕事をしていたのだ。

 

「そろそろ欲しくなってきただろう?」

「誰が……っ」

 

 即座に否定したものの、このアナルプラグには媚薬が塗り込められていて、御堂は一日中、下腹をジンジンと疼かせていた。

 

「ひっ、ぁ……はあっ」

 

 佐伯がアナルプラグの柄に触れるとぐりっとねじった。途端に粘膜を強く擦られてガクガクと腰を震わせた。とろ火で炙られるような刺激に身悶え続けていたところの強い刺激だ。欲しがるように腰をくねらせてしまい、佐伯に吐息で笑われる。

 かちゃりと音がしてアヌスプラグのロックが外された。ずるりと引き抜かれる。綻んだアヌス、埋め込まれていたものを引き抜かれた空虚さに、粘膜がきゅうきゅうと収斂した。先の週末で散々躾けられた御堂のペニスは、触れられてもいないのにすっかり張り詰めて反り返っている。そして、そのすべての反応を佐伯に見られているのだ。

 

「身体の覚えはいいな」

 

 満足げな声と共に佐伯に腰骨を掴まれる。アヌスに重みがかかった。

 

「ぁあああっ」

 

 プラグとは比べものにならない圧倒的な質量がずんっと衝撃と共に押し込まれる。声など上げたくなかったのに、内臓を押し上げられる苦しさに喘ぎとも悲鳴ともつかない声が唇から迸った。

 長大なペニスは苦痛を伴って御堂を貫いてきたが、それでも御堂はたいした抵抗もなく根元まで咥え込んでいた。数日前の自分ではあり得ないほどに、身体が作り替えられつつある。オスの生殖器の熱と硬さを下腹の奥に感じて悦ぶメスの身体に。その事実を実感して御堂は打ちのめされた。しかも、佐伯のペニスからは強い聖気が染みだしてきて、それが御堂を内側から苦しませるのだ。

 

「はっ、ぁっ、んっ、く……」

 

 佐伯が腰を遣い出した。抉られる粘膜がじくじくと熟んだような熱を持ち、苦痛と共に爛れた感覚を生み出してくる。腰が打ちつけられる度に重たくなったペニスが跳ねて蜜を散らした。佐伯の指が御堂のペニスに触れた。何をされるのかとぎくりと身体を強ばらせたが、佐伯はリングのようなものを御堂のペニスの根元に嵌めた。

 

「な、にを……」

「射精をさせないためのリングだ。イきたければ俺に懇願しろ」

 

 無慈悲な言葉に御堂は唇を噛みしめた。佐伯は御堂が感じる快楽を把握している。射精の欲求が高まってきたところでそれを封じられて、たちまち快楽は鋭い苦痛へと反転する。嵐のように御堂の中で暴れ回る悦楽に御堂はなすすべもなく翻弄された。そんな御堂を佐伯は容赦なく抉り抜く。

 

「もう、よせ……っ、ひっ、あ……ぅ」

「俺に服従すれば楽にしてやるぞ」

 

 囁かれる甘い言葉に御堂は頭を振って拒絶した。佐伯はチッと舌打ちをして、さらに激しく腰を打ちつけてきた。

 どこまでも深く繋がるように奥まで突き入れ、亀頭の先で最奥の粘膜をこじ開けた。びゅくりと奥深いところに精液を注ぎ込まれていく。聖なる気が込められたそれは文字通り灼熱の熱さで御堂の粘膜を焼き尽くした。

 

「ぅ、あ……」

 

 背中をしならせ、四肢を突っ張らせて身体を犯し尽くす感覚をひたすら耐え続けた。飴と鞭、快楽と苦痛を上手く操りながら佐伯は御堂を屈服させようとしてくる。だが、御堂は決してこの男に屈するわけにはいかなかった。

 

 ――私は、この男には屈するわけにはいかない……っ。

 

 そうでないと……。

 細かく腰を震わせて最後の一滴まで御堂の中に排泄した佐伯は、ようやくつながりを解いた。腰ががくりと崩れ落ちそうになるが、佐伯は素早くアナルプラグを嵌めた。御堂の中には佐伯の精液がたっぷりと残されたままだ。

 

「続きは家に帰ってからにしましょうか、御堂部長?」

 

 頭上から投げかけられた声に反応する気力は、最早、なかった。

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