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eclipse 3

 マンションの高層階にある御堂の部屋は、ダイニングからリビングへとつながるアウトフレームの広い空間が特徴的だ。壁一面を覆う窓からは東京の美しい夜景が展開されている。広々とした部屋には大型のテレビに黒い革のソファ、そしてローテーブルが置かれているが、それ以外の家具や物は少なく、シンプルながら住人のセンスを感じさせる部屋だ。

 そんな御堂の部屋に上がり込んだ佐伯は、あちこち歩き回り、無遠慮に部屋の中を覗き込みながら御堂に向けて言った。

 

「随分と良いところに住んでいるじゃないですか、御堂部長?」

「ぅ……ぐ…はぁっ」

 

 だが、御堂は佐伯の傍若無人な振る舞いを咎めることはできなかった。それどころではなかったのだ。

 御堂の背中に当たるのは硬く冷たい木の天板で、居心地の悪さに身を捩ろうにも両手両脚を拘束されて身じろぎさえ不自由な状態だ。

 執務室で御堂を犯した佐伯は、「続きは家に帰ってから」との言葉どおり御堂の家までついてきた。それだけではない。御堂の服を無理やり脱がすと、こともあろうかダイニングテーブルの上に仰向けにして縛り付けた。

 両手は手首でまとめられてテーブルの脚につながれていて、天板からはみ出した足さえも広げられてそれぞれテーブルの脚につながれている。そして御堂のアヌスには太い棒状の器具が埋め込まれていた。媚薬を塗り込んだそれを佐伯は御堂のアヌスに容赦なく押し込んだのだ。佐伯に注がれた精液で濡れたアヌスは大した抵抗もできずに、その異物を受け容れた。

 白木でできたそれを佐伯は吸血鬼の心臓を貫く聖杭と呼んだが、見た目は杭というよりも男性器を模した悪趣味な玩具だ。それでも、込められている聖気は本物のようで、先ほどから御堂の粘膜は媚薬と聖気に灼かれ続けている。

 普段食事をしているテーブルの上で縛り付けられて、与えられる恥辱に歯がみする。だが、罵倒を吐く余裕はすぐになくなった。

 内臓を押し広げられる苦痛に続いて、粘膜を媚薬と聖気が炙る。佐伯はその杭をある程度まで御堂の中に埋めると、その後は御堂ごと放置して、御堂の部屋を我が物顔で探索し始めた。

 御堂がその気になれば、たかだか人間一人、一瞬で葬り去ることができる力を持っている。それなのに、これほどの屈辱を甘んじて受けているのは、御堂の首に巻かれている首輪の力だ。この首輪のせいで御堂は佐伯に逆らうことは許されない。

 普通の人間には何の効果も及ぼさないそれが、御堂の力を封じ、さらに佐伯の気持ちひとつで、御堂に拷問具に等しい仕打ちをもたらすのだ。

 

「っ、……ぁ、くはっ」

 

 聖杭が放つ聖気で弱まった粘膜にじわじわと媚薬が浸透していく。とろ火で腰の奥を炙られるような感覚に身悶えるが、がっちりと嵌まり込んだ杭は自分ではどうにもできそうにない。

 

「佐伯……っ、いい加減にしろっ!」

 

 いつまで自分を放置し続ける気なのか。怒りに満ちた声を上げたところで、佐伯はようやく御堂の存在を思い出したかのように御堂へと顔を向けた。

 

「ああ……、放っておいて悪かったな」

 

 佐伯は口先だけで謝りながら、のんびりとした足取りで御堂へと近付いてきた。そして、テーブルの傍らに立ち無様な姿で拘束されている御堂を見下ろした。佐伯の視線が御堂の頭から胸、腹へと這っていく。ひんやりとした視線を感じた肌にはざわりと鳥肌が立つ一方で、御堂のペニスは淫靡な期待に硬度を増した。

 そんな御堂の反応に佐伯は満足げな笑みを浮かべ、脚の間から顔を覗かせる聖具を掴むと、前後に動かし始めた。

 途端に先ほどまでとは比べものにならない程の強い感覚が御堂を襲う。

 

「ひあっ、あ、よせ……っ、ああ」

「こうして欲しかったんだろう?」

「違……っ、やめ…っ、ひあっ、あ」

 

 御堂は唯一自由になる首を必死に左右に振った。堪えようにも、焦らされ続けた粘膜を抉られて、擦られて、嬌声のような恥ずかしい声を上げ続けてしまう。

 大量の媚薬に身体を蕩けさせられ、聖なる気を込められた淫具と佐伯自身に犯され続けて、身体はオスを受け容れて悦ぶように急速に作り替えられている。

 

「そんなにこの杭が好きか? あんた悪魔だと思っていたが、実は吸血鬼だったのか?」

 

 佐伯がせせら笑いながら御堂を貫く聖杭を淫らに動かした。そのたびに佐伯が中に放った精液がじゅぶじゅぶとかき混ぜられて、恥ずかしい音を立てる。

 慎ましやかな窄まりが大きく拡がってグロテスクな淫具を咥えさせられているのは、なんともおぞましい光景だ。それでも、身体は内側から火で炙られたように熱く疼き、ペニスの先端からはじゅわりと蜜が溢れ続ける。

 暴走していく快楽をどうにか堪えようと自我を奮い立たせ、声を上げた。

 

「っ、……こんなことに、何の意味がある…っ! お前の目的は…一体、何なのだっ」

 

 乱れた呼吸で切れ切れになりながらもどうにか言葉を紡ぐ御堂に、佐伯は責める手を止めた。

 

「俺の目的……? 祓魔師(エクソシスト)の目的は悪魔を祓うことに決まっているだろう」

 

 佐伯は面白いものでも見るように御堂を見返した。その目をにらみ返しながら憎々しげに吐き捨てる。

 

「祓魔師(エクソシスト)も随分と下劣になったものだな」

「時代に適応したと言って欲しいね」

 

 悪びれずに言い、佐伯は言葉を続ける。

 

「弱い悪魔なら今までどおりの悪魔祓いの儀式で十分だ。だが、高位の悪魔を祓うのは一筋縄ではいかない。中世は魔女狩りと称して悪魔憑きの人間ごと片っ端から拷問にかけて殺していたが、今はそんな野蛮なことはできないからな。悪魔憑きの人間を祓魔師に心身ともに服従させることで、ようやく悪魔を祓うことができる。そのためには苦痛と快楽を徹底的にその身体に刻み込む必要がある」

「……」

 

 この男も中世に生まれついていたなら嬉々として魔女狩りを行っていたのではないか。そう感じさせる冷徹な炎を、佐伯はレンズ越しの眸に揺らめかせている

 

「悪魔については未知の部分が多い。だが、悪魔と契約し、取り憑かれた人間についてはいくつか分かっていることがある」

 

 佐伯の口元が歪に歪む。

 

「欲深くなる一方で、快楽に溺れやすくなる。そもそも人間が感じることができる苦痛は限界があるが、快楽は違う。感じる快楽に限りはないし、抗うこともできない」

 

 そう言って、佐伯は懐から何かを取り出した。佐伯が手に取ったものを目にして御堂は青ざめる。

 それは、銀色の細長い金属棒だった。先端は球が連なる形で柄の部分は十字架になっている。その金属棒の用途に気づき御堂は青ざめる。佐伯は、冷たい笑みを深めた。

 

「そうだ、ブジーだ」

 

 そう言って、佐伯は人差し指と中指の間に御堂のペニスを挟むようにして持つと親指で亀頭を押して尿道口を開かせる。

 

「あんたのここも快楽器官に変えてやるよ」

「それは……っ、やめろっ」

「その反応を見る限りは使われるのは初めてか?」

 

 佐伯は笑いながら、ブジーの先端を御堂に触れさせた。尿道口を金属の先端でつつかれるとその冷たさとおぞましさに腰がガクガクと震える。小孔を濡らす蜜をくちゅくちゅとかき回すようにして先端が奥へと潜り込んだ。

 

「ひ、ぁ、あああああっ!」

 

 液体しか通らない細い路(みち)を金属の棒が容赦なく嬲る。

 剥き出しの神経を嬲られるような苛烈な苦痛に御堂は緊縛された身体を仰け反らせた。

 御堂がどれほど苦悶の声をあげようと、佐伯はその悲鳴を楽しむようにしてさらに深くブジーを沈ませる。ロザリオでも嬲られたが、それよりももっと奥深いところまで、ブジーは侵入してくる。

 そしてその先端が、ある一点に到達したとき、御堂は今までに感じたことのないような衝撃に襲われた。

 

「―――っ、は……っ、ぁ―――っ!」

 

 呼吸さえ忘れるような鋭い感覚が御堂を貫く。手足の先が突っ張り、びくびくと痙攣した。射精を伴う快楽とはまた違う、底なし沼に引きずり込まれるような苦しみと隣り合わせの官能だ。

 

「ここが前立腺だ。直接刺激されると格別だろう?」

 

 あまりの感覚に呼吸の仕方さえ忘れる。佐伯が何かを言っているのは聞こえても、言葉は脳を素通りしていく。

 いつ終わるかも分からない責め苦。絶頂のてっぺんにつなぎ止められているかのような苦しいほどの快楽によがり続ける。

 佐伯は御堂の反応を見極めながら柄の部分をトントンと軽く叩いたり、くるりとブジーを回転させたりした。

 

「あ、そこ……っ、よせっ、だ、だめ……っ、くるっ、あ、また、ひあああっ」

 

 繊細な動きでさえもおそろしいほどの快楽に増幅され、御堂を呑み込んだ。

 喘ぎ続ける口の端からは唾液が滴り、額に幾多もの汗の粒が浮き出る。身体が燃え立つように熱くなる一方で皮膚は粟立つ程の寒気に襲われていた。

 

「随分と悦(よ)さそうじゃないか」

 

 佐伯はようやくブジーをいじる手を止めた。そして、悪戯っぽい目つきで御堂の顔を覗き込む。

 

「ここに直接聖なる気を流し込まれたらどうなると思う?」

「まさか……」

 

 佐伯の言葉に血の気が引いた。ブジーで擦りあげられるだけでも腰が砕けるほどの衝撃があるのだ。これほど敏感な器官を直接聖なる気で嬲られたとしたら一体どうなるのか。

 

「よせ……っ、そこは……っ」

「俺に懇願してみるか? 態度次第では考えてやらなくもないぞ」

「―――ッ」

 

 佐伯の言葉にぐらりと揺れた。

 思わず口から哀願の言葉が漏れそうになるが、唇を噛みしめて呑み込んだ。代わりに憎悪を燃やした視線を返す。

 

「下賎な人間ごときが……っ」

「やはり強情だな」

 

 佐伯は小さく肩を竦め、唇を歪めたまま、口の中で何かを呟いた。それが祈りの文句であることは聞こえずとも分かった。青白い聖気が佐伯の身体を包み込み、佐伯は指先でくい、と柄の十字に軽く触れた。

 次の瞬間、下腹の奥で何かが爆ぜた。

 

「っ、ぁああああああ――っ」

 

 直後、焼け火箸でペニスを貫かれたような痛みと衝撃が御堂を貫いた。視界が眩み、白い喉を反るようにして絶叫を上げる。全身がガクガクと震えて拘束を引きちぎる勢いで身悶えた。

 神聖なる気がペニスを貫き、内臓を抉り抜いていく。同時に下半身がどろどろと溶けていくかのような異様な感覚が御堂を呑み込んだ。反射的に下腹に力が入り、アヌスを犯す聖杭を食い締めてしまい、前と後ろを同時に犯されるようなさらなる苦痛が襲いかかる。

 まばたきを忘れて見開いた目から次々と涙が零れた。感じることができる苦痛には限界がある。だが、これは限界すれすれの苦痛だ。

 佐伯は御堂の反応に満足したようで、優しげな口調で声をかけた。

 

「可哀想に。辛かっただろう?」

 

 自分が御堂を痛めつけた張本人でありながら、さも労る素振りでブジーから手を離すと、御堂の萎えてしまったペニスを根元から擦りあげた。

 

「ひ、ぁ……っ」

 

 巧みな手つきでペニスを扱かれる。それだけで、先ほどの苦痛が一転、甘く淫らな感覚へと塗り替えられていった。ブジーで貫かれながらも、御堂のペニスはみるみるうちに佐伯の手の中で硬くなっていく。佐伯はペニスを愛撫しながら、アヌスを埋めている聖杭を前後に抽送しだした。後ろを抉られれば佐伯に陵辱された記憶がすぐさま蘇る。だが、それは同時に甘く爛れた快感をも呼び起こした。

 

「っ、あ……も…やめ…っ、は、ああっ」

 

 あっという間に射精感が高まるが、精路は金属棒で塞がれたままだ。出したいのに出せない苦痛が御堂を苛む。

 

「御堂、選ばせてやる。もう一度あの苦痛を味わいたいか? それともこのままイかせて欲しいか?」

 

 佐伯の指がブジーに触れた。ごく軽く触れられただけなのに、先ほどの熾烈な苦痛を呼び起こされて御堂は緊張に身体を強張らせた。

 これ以上嬲られたらこの身体がもたないかもしれない。

 めくるめく苦痛と快楽を味わわされて思考はぐずぐずに溶けきっている。涙に濡れた視界に佐伯の怜悧な顔が映り込んだ。

 度重なる責め苦で頭の中には靄がかかっていたが、素早く計算を走らせる。

 佐伯が求めているのは御堂の服従だ。それならば、佐伯が欲しがるものを与えてやれば満足するのではないか。その上でこの男が隙を見せるのを待ち構えれば良い。

 御堂は必死の形相をして、なりふり構わぬ態度で言う。

 

「もうやめてくれっ、何でも言うことを聞くから……っ!」

 

 御堂の言葉に佐伯はレンズの奥の目をわずかに見開いた。御堂の真意を透かし見るように目を覗き込み、尋ねる。

 

「ほう? 本気で言っているのか?」

「ああ……、貴様に従うから……」

 

 御堂はまっすぐに佐伯を見返して、懇願する口調で言った。張り詰めた緊張が重い沈黙としてのしかかる。

 佐伯はしばしの間考え込む仕草を見せて、御堂へ向ける表情を緩めた。

 

「御堂孝典、あんたを信用しよう」

 

 ようやく許される、と安堵の息を吐いたのも、つかの間、佐伯は悪意を滴らせるような笑みを浮かべた。

 

「というとでも思ったか。悪魔の言葉は信用できない」

「な……っ」

 

 驚愕に目を見開く御堂の目の前で、佐伯は続けざまに聖なる文言を呟いた。くいっとブジーを押し込まれると同時に電撃のような聖気がブジーを伝って御堂を貫く。

 

「あ、ああああああっ!!!」

 

 御堂の口から悲鳴が迸った。急所に流れ込む聖気は容赦なく御堂を直撃し、神経を灼き尽くしていく。荒れ狂う感覚に視界に火花が散る。痙攣したように背筋を仰け反らせた。

 

「ほら、お待ちかねの快楽だ」

 

 失神寸前の御堂から佐伯はブジーを引き抜くと代わりに聖杭を突き入れた。ぐりっと前立腺を擦りあげられて、灼熱のような苦痛は絶頂前の切迫感に取って代わられた。

 

「ぁ、やめ……イ……っ、やだ、あ、イク……っ!!」

 

 腰が勝手に跳ね上がり、背骨がたわんだ。ぐちゃぐちゃにかき回された意識の中でおぞましい苦痛が甘苦しい快楽へと変換されていく。

 奔流がペニスの中心を駆け上がり、御堂は望まぬ絶頂を迎えてしまう。ビクビクとペニスが震え、おびただしい量の白濁がペニスから噴き出し自らに降り注ぐ。頭の中が真っ白になり、意識が粉々に砕け散る中で佐伯の声が聞こえた。

 

「言ったろう? 徹底的に苦痛と快楽を刻みつけると」

 

 低い笑い声が耳の奥に木霊したが、今度こそ御堂は意識を手放した。

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