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萌芽

 

 照明が照り付ける。熱を持った光ではなかったが、緊張に肌がじっとりと汗を刷く。

 舞台のせり出した中央部分に御堂は両手を吊り上げられる形で吊るされていた。両足の爪先で辛うじて立つことが出来る高さだ。

目には目隠しをされているので、周囲を確認することは出来ないが、目の前観客席からの視線を痛いほどに感じる。裸同然の格好で吊り下げられて、羞恥に顔が赤くなる。

 しかも単なる裸ではない。両乳首には白金のピアスがぶら下がっているし、股間は面積の狭いエナメルが辛うじて目隠しをする程度だ。

 そのあられもない姿をじろじろと眺められる。客たちは今夜のショーの主役であり、自分たちに供されるであろう御堂を品定めするのに余念がない。粘ついた視線を注いでくる。

 性奴隷に堕ちた身の上とはいえ、大勢の観客の前で晒し者になるのは嫌だった。佐伯には自分が持つ矜持と体裁を徹底的に砕かれてきたが、それでも、未だに躊躇う気持ちが残るのはかつての自分自身の残滓によるものだろうか。そして、佐伯はそんな御堂の反応を面白がっている節がある。恥じらい嫌がる姿もまた、嗜虐心を煽るからだろう。

 今夜、佐伯の思惑通りに事が進めば、御堂はこの客たちに舞台上で犯されることになる。

 このクラブRは地上にあるいかがわしい施設とは一線を画す。客たちの望みを具現化するのだ。客が犯したいと思えば奴隷を犯し、虐げたいと思えば奴隷を鞭打ち嬲る。客たちはクラブRの奴隷を通じて、自らの欲望を満たしていく。

 そして、今回、客たちの欲望を受け止めるのは御堂だ。他の奴隷たちが行う舞台を目にしたことはあった。拘束され、縛り上げられて、体の隅々まで、そして、反応の一つ一つを鑑賞されながら犯される。複数の人間に組み伏せられて白濁に塗れながらも、客に奉仕を続けなくてはいけない。泣いて許しを請おうと抗おうと、客が飽きるまで際限ない凌辱の宴が行われるのだ。

 

「……ッ」

 

 吊られた体勢の苦しさに爪先がよろめく。ふらついた矢先に手首の枷に体重がかかり、御堂は声にならない呻き声を上げた。

 いつまでこの状態置かれるのだろう。胸の内に不安が立ち込めたころ、ステージの空気が変わった。観客たちがざわめき、そして息を詰めた。

 磨かれた板張りの舞台を、革靴のかつかつという硬質な足音が自分に近づいてくる。

 視界が封じられていても、それが誰だか分かった。佐伯だ。

 佐伯が御堂の隣に立った。びりびりと神経を揺さぶる人ならざる気配に、全身の毛がそそけ立った。耳元で囁かれる。

 

「御堂分かっているな? イったらお前の負けだ」

 

 確認する声に微かにうなずく。これは、ショーではあるが、佐伯と御堂の間で取り交わされた賭けでもある。ショーが始まる前に、佐伯が御堂に持ち掛けたのだ。

 

『そんなに客に犯されるのが嫌か?』

 

 ショーに出されることを告げられて、言葉にせずに顔を曇らせた御堂に、佐伯がからかう口調で問う。ハッと息を呑んで顔を上げた。冷酷な淡い虹彩がレンズ越しに御堂を見据える。

 

『賭けをしようか御堂。客の相手が嫌なら、俺が相手をしてやる。舞台の上だがな。俺を相手にイかなければ、お前の希望通り、客の相手を免除してやる』

『……』

『ハンデを付けてやる。俺はお前に挿れないし、お前のペニスも触らない。これでどうだ』

 

 佐伯は自分が負ける勝負はしない。だから、御堂の勝ち目はないに等しいだろう。だが、それでも、この誘いを断れば、御堂は問答無用に客に供される。

 一筋の希望に縋りつくように、御堂は深く頷いた。佐伯が喉で嗤った

 

「さあ、始めようか」

 

 観客の興奮の高まりを前に、一言、宣言した佐伯が御堂の背後に回った。それだけで、身体の中心を淫靡な疼きが走り抜けた。

 

「つ……ぅッ……!」

 

 佐伯が乳首のリングに指をかけた。きつく引っ張られて痛みに呻き声を上げた。佐伯が指を動かすたびに、シャリン、と左右のリングを繋ぐ白金の鎖が揺れて音を立てる。

 背後の佐伯がニヤリと笑い、さらに指に力を籠める。

 

「く、ふ……痛い、やめて、くれ……」

 

 涙交じりの声で背後に感じる佐伯に向かって哀願するも、佐伯は相手を徹底的に痛めつける行為を好むことは、身に染みて分かっている。

 与えられる屈辱と苦痛を快楽に変換するよう躾けられて、身体も従順に反応するようになっているが、それでもこの後どれほど傷つけられるのだろうかと思うと、恐怖に心が竦む。

 佐伯が捩じる動作を加えた。交互に片方の乳首を嬲られて、乳首は真っ赤に腫れ上がり鋭い痛みとじんじんとした痺れるような鈍い痛みが合わさって、そこに火が点いたみたいだ。

 

「ぅ、あ、ああっ!! や、め……っ! くあっ」

「いい声だ。もっと悲鳴を上げろ。客を愉しませろ」

 

 こんな調子で追い詰められれば、乳首がちぎれてしまいそうだ。限界を超える痛みに、いくら射精を免れても、身体は耐えきれぬほどのダメージを負うだろう。

 

「ふ……っ、くぅっ、……はあっ!」

 

 強く引っ張られて、引きちぎられる、と恐怖に息を詰めた瞬間、佐伯はピアスから手を離した。途端にじんわりとした疼くような余韻が乳首に広がる。

 

「ぁ……」

 

 思わず上げた切ない声に、背後の佐伯が喉で嗤う。

 今度は、繊細な指遣いで、直接乳首に触れてきた。羽でくすぐられるような細やかな愛撫。

 強弱をつけられて、乳首を揉まれる。散々甚振られて充血し、ずきずきと響くような痛みを孕んだ乳首を軽く摘ままれれば、鋭さと鈍さが合わさったような痺れが凝り過敏すぎる器官へと成り代わっている。

 男として意識したことのない乳首にピアスを通され、そこで感じるように叩き込んだのは克哉だ。

 克哉に触れられる度に凝った快感が下腹部に流れ込んでいく

 

「――ん、は……っ、……くぅ……ぁ」

 

 股間が窮屈になり、面積の狭い布地から、暗い色をした先端が顔を覗かせた。その頂にある狭い孔にはリング状のピアスが輝く。

 下着からはみ出た御堂の欲望に、観客席がどっと沸いた。

 多くの人間が御堂の痴態を楽しんでいる。目を背けたくなる事実を突きつけられて、いくら自分が観客たちの欲望を受け止める身の上とはいえ、その屈辱にはいまだに慣れることは出来ない。

 それでも与えられる屈辱に身体は悦ぶ。こんなことは嫌なのに、勃起した性器の先端から蜜が溢れて、金属のリングをぬらぬらと光らせる。

 熟れきって真っ赤な乳首に、克哉の指が食い込んで、中を貫通するピアスをコリコリといじられるたびに、新しい悦楽をそこに宿される。

 

「御堂、もっと乱れてみせろ」

「も……、やめ、て……っ」

 

 指で乳首を捏ねられながら、佐伯が首筋をねっとりと舐め上げていく。

 平らな胸を佐伯が大きな手で揉みこみつつ、親指で勃ち上がった乳首をピンと弾く。どうにもつらくて気持ちがいい。二つの乳首のピアスを繋ぐ白金の鎖が激しく揺れて、照明の光を散らして振りまく。

 射精感が込み上げて、腰が淫蕩に痺れていく。すっかり張りつめたペニスは小さな下着を押し下げて、根元まで晒されている。

 身体の奥底で嵐のような熱が激しく渦巻く。

 射精をしてしまえば、御堂の負けだ。その後は観客たちによる終わりのない凌辱が待っている。それは分かっているのに、体内にため込んだ快楽を解放したいという欲求に支配される。

 下肢を突っぱね力を入れる。歯を必死に食いしばる。

 

「イきそうか?」

 

 尋ねる声に返す余裕もない。

 佐伯は、唐突に興味をなくした体ですべての動きを止めた。

 昂らされるだけ、昂らされて、一切の刺激を絶たれたとたん、猛烈な疼きと物足りなさが込み上げてきた。

 淫らに勃ちあがったペニスは、蜜がしとどに零れて根元まで濡らしている。普段とは違う快楽の与えられ方に惑いつつも、積み重ねられた疼きはあと一つ刺激を与えられたら爆発してしまうだろう。

 制御できない感覚に頭がおかしくなりそうだ。

 

「佐伯……お願い、だから……」

 

 佐伯に触ってほしいのか、触ってほしくないのか自分でも分からなくなり、涙混じりに無意味な懇願をする。

 

「どうして、欲しいんだ?」

 

 低い声を耳に注がれて、御堂は観念した。

 

「イかせて……」

 

 背後の佐伯が吐息だけで嗤う。

 佐伯の指がピアスを繋ぐチェーンにかかる。耳朶に触れるくらい唇を寄せて、佐伯が一言告げる。

 

「御堂、愛しているぞ」

「く、あ、ああああっ!!」

 

 同時に、ピンとチェーンをきつく引っ張られて、乳首に針で刺したような鮮烈な痛みが走る。その瞬間、頭の中が真っ白になり、達していた。

 ピアスで穿たれた先端から、白濁が噴き出す。先端のピアスが射精の勢いを殺したため、精液はだらだらと竿を伝って滴り落ちた。

 観客が大きな歓声を上げる。胸を激しく上下させて荒い息を吐く。

 だらりと垂れ下がった頭を上げて、封じられた視界を佐伯の方に向けた。

 

「御堂、約束通り、客の相手をしろ」

「う……」

 

 冷淡な口調に唇を噛みしめる。

 勝負は終わった。御堂は負けた。

 佐伯の気配が離れて、代わりに観客席から複数の男たちが上がってくる。今から始まる行為に恐れおののき佐伯の名を呼んだ。

 

「佐伯……っ!」

「心配するな。お前の全ては俺が見届けてやる」

 

 投げかけられる声に、何故か背筋が甘く疼いた。御堂は今から大勢の男たちに犯され、汚され、無様な姿を晒すだろう。白濁に塗れ、恥辱に打ち震える。その姿を余すところなく、佐伯に見られるのだ。それを想像すると、倒錯した愉悦が込み上がってくる。

 複数の手が御堂の身体に伸びた。その感触に底知れぬ怖気だけでなく甘ったるい熱を感じて、御堂は淫らな吐息をこぼした。

 

END

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