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Just Two of Us

「お待ちしておりました。御堂様」
 ホテルのフロントで名前を告げると、夜10時近くのチェックインにも関わらず、シワひとつないスーツに身を包んだフロント係に完璧な笑顔で迎えられる。一泊二日の出張のために、今夜は定宿のこのホテルに宿泊する予定だった。先方から誘われた会食を終えてからチェックインしたため、こんな遅い時間になってしまったのだ。
 フロント係は手慣れた仕草でキーボードを叩き、モニター画面にさっと目を走らせ、カードキーを私に差し出した。
「本日よりご一泊のご予定でお伺いしております。どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
 カードキーを受け取った私はわずかに目を眇めた。普段と違うカードキーの色合いとデザインだ。そして、刻印されている部屋番号も、普段利用しているフロアよりも上層階だ。
「ご案内いたします。お荷物は?」
「いや、結構だ。それより、レジストレーションカードは?」
 フロントの言葉を遮る。チェックインの手続きをしたのに、レジストレーションカードの記入をしていない。
「先にご到着されたお連れ様からいただいております」
「連れ…?シングルで予約したはずだが」
 フロント係が若干困惑した表情で、再びモニター画面を確認した。
「いえ、後からお一人様追加されツインルームへとご変更を承っておりますが」
「変更?私は覚えがないが」
 だが、そんなことをする人物には心当たりがある。フロントから告げられた同室者の名前は予想通りだった。
 フロントに手間を取らせたことを詫び、エレベーターに向かった。
――それにしても、連絡もなく何のつもりだ?
 訝りつつも、カードキーをエレベーターの操作盤にかざして、階数ボタンを押す。特定の部屋の宿泊者しか立ち入ることが出来ないエグゼクティブフロアだ。
 ゆったりとした間隔で並んでいるドアの部屋番号を確認して、ドアを開けた。
 適度な明るさの照明が、豪勢な広い室内を照らす。スイートルームだ。
「佐伯」
 部屋の奥に向かって声をかけた。ごそごそと音がして、佐伯が顔を出す。既にスーツのジャケットは脱いで、ネクタイを緩めたワイシャツ姿だ。
「ああ、御堂さん。お帰りなさい。俺も今しがた着いたところです」
 ごく当たり前のように現れ、しれっとした態度の佐伯は、ごく自然な動作で私の身体に手を回して抱き寄せる。一見、ハグの様なフランクさだが、ハグよりも甘く特別な意図が含まれていた。
 佐伯が身にまとうフレグランスに汗の匂いが混ざり、鼻腔をくすぐる。その抱擁に抗って上体を反らせ、人目につかないよう部屋のドアを閉めた。腕に力を込めて更に強く引き寄せようとする佐伯の胸を手で押しとどめ、私はため息をついた。
「なんのつもりだ?会社はどうした?」
「もちろん、業務を終えてから来ましたよ。おかげで遅くなりました」
「明日はどうするんだ?」
 ここから会社まで、新幹線を使っても3時間以上はかかる。
「明日はここから出社しますよ。6時台の新幹線に乗れば間に合う」
「それで、何しに来たんだ。私の予約を勝手に変更して」
 佐伯は驚いたように目を開いた。
「何って、あなたに会いに来たに決まっている」
「私に?…明日には戻るのに?」
「今日だからこそ意味がある」
「なぜ?」
 やれやれ、と佐伯は肩を竦めて見せた。
「明日は貴方の誕生日でしょう」
「誕生日?」
 そう言われて思い当った。すっかり忘れてはいたが、確かに明日は私の誕生日だ。
「…だが、なぜ今日なんだ?」
「誰よりも早く、あなたの誕生日のお祝いをしたくて」
 さらりと言われたその台詞に、言葉が詰まった。
 三十を過ぎて、誕生日を祝うという歳でもない。歳を重ねることに感慨も湧かず、誕生日自体も仕事のスケジュールに忙殺されて意識の奥底に仕舞われていた。
 誕生日を祝うなんて、まるで恋人同士だ。ふと思って、自分と克哉の関係が恋人同士であることを改めて認識してしまう。
 顔が紅潮しそうになり、それを見られたくなくてふいと顔を逸らした。
「俺とあんたが一緒に過ごす初めての誕生日だ。だからどうしても、ね」
 ふっ、と佐伯の顔に優しい笑みが浮かんだ。
「本当は、もっと色々とお膳立てをして演出をしたかったんだが、あんたはあんたでお構いなしに出張予定を入れてしまうし」
「君が…そんなことを考えていたとは、知らなかったんだ」
 ついつい言い訳口調になってしまう。佐伯の好意が素直にうれしかったが、それをそのまま口にするのは照れ臭かった。
「…それにしてもスイートルームをとって、12時間も滞在しないとは。君は酔狂だな」
「それを、贅沢、と言うんだ。たまにはいいだろう。もちろん、明日も夜の予定は空けているよな」
 身体に回された手に力を込められる。今度は身体の力を抜いて、素直に佐伯に身体を寄せた。柔らかく唇を重ねられ、滑り込んできた佐伯の濡れた舌に自分の舌を絡めとられる。しばしの間、押し付けられた唇の柔らかい感触、口内をくすぐる尖った舌先の刺激を目を閉じて味わった。より深く口づけをしようと角度を変えようとしたところで、顔を離された。
 すっと引き抜かれたその舌を追いかけそうになり目を開くと、間近で悪戯っぽく微笑んだ佐伯に顔を覗きこまれ、心臓が跳ねる。
「御堂さん、ジャケットを」
「あ、…ああ」
 佐伯が甲斐甲斐しく私のジャケットを脱がしハンガーにかける。その長い指先がネクタイのノットにかかり、衣擦れの音とともにネクタイを引き抜かれる。
「何か飲みますか?備え付けのミニバーもあるし、シャンパンも」
 佐伯が私に手を差し出す。素直にその手を取って部屋の中にエスコートされた。
 広く豪勢な家具に彩られたリビング。そのセンターテーブルにはアイスペールで冷やされたシャンパンと二脚のシャンパングラス並んでいた。
「ドン・ペリニヨンか」
 佐伯らしい、如何にも、な選択だ。思わず、くすり、と笑みがこぼれる。その笑みを克哉に見咎められる。
「お気に召しませんでした?」
「まさか」
 シャンパンクーラーからドン・ペリニヨンを手に取る。エレガントな曲線を描くモスグリーンのボディ。ラベルの中央に一つ星を抱き、中には煌めく琥珀色の液体を閉じ込めている。
「ドン・ペリニヨンの生産者モエ・エ・シャンドン社の2代目は、かのナポレオンと友人関係にあり、ナポレオン御用達のシャンパンを生産していた。まさしく『皇帝のシャンパン』だ。最もプライドの高いシャンパンとも言われている」
「あなたに相応しいな」
 そう言いながら、佐伯は私の前に畏まって跪き恭しくその手を取った。その手首には以前、佐伯にプレゼントされた腕時計が、曇り一つないクリスタルを輝かせて時を刻んでいる。
「さて、閣下。何をお望みですか」
「…そうだな。では、シャンパンを」
「仰せのままに」
 にっと佐伯が笑みを浮かべ、私の手の甲に音を立てて口づけをした。

 結局、冷えたシャンパンもそこそこに互いの熱を求めあった。
 とはいえ、せっかくのドン・ペリニヨンを、わずかグラス一杯で残してしまうのは心残りがある。舌の上で踊り、弾けながら喉を滑り落ちていく微細な泡と繊細な味わいは捨てがたい。シャンパンは開栓したその瞬間を味わう飲み物だ。明日にはその煌めきは色あせてしまう。
 しかし、そんなことを口にしたら佐伯に笑われるだろう。「だから、贅沢、なんだ」と。
 佐伯は私を抱く間、私がわずかでも彼以外のことに気をとられることを許さない。
 佐伯が漏らす吐息が色めいて熱を持つ。それを心地よく感じるのは、私がそれ以上に熱を孕んでいるからだろう。
 自身の誕生日をこれ程甘美に祝われるのは何年振りだろうか。一昨年は追い詰められ嬲られる中で、昨年はたった一人でもがいているうちに、気付けば誕生日が過ぎていた。
 同じ男に、嬲られ、捨てられ、愛された。
 来年はどうなのだろう。たった今、熱を分け合うこの恋人に祝ってもらえるのだろうか。
 身体の内と外の熱を灯され煽られながら、ふとした不安に襲われた。
「何を考えている?」
 気が逸れた私に気付いた佐伯が、その蒼い虹彩をぬらめかせながら顔を覗き込んでくる。
 何でもない、とかぶりを振った。慌てて雑念を振り払うが、佐伯の口の端がわずかに吊り上がる。
「正直に言わないと…」
 佐伯の手が私の顔に伸び、乱れた前髪を梳いて、長い指先でその睫毛を優しく触れる。そして、吸われて腫れぼったくなった唇を軽く弾き、顎から首筋へとなぞっていく。
 その指先は柔らかく淫靡な動きで、肌を滑り、産毛を立たせ、火を灯す。ぷくりと膨れた胸の尖った突起を摘みあげて指の腹でつぶされた。
「あ……っっ、んっ」
 自分の声とは思えない艶めかしい喘ぎが漏れる。だが、佐伯の指は私の胸を軽く舐ると、そのまま脇腹を掌でさすり滑り落ちていく。熱を持ち始めた突起をあっさりと手放され、切なげに息が漏れた。佐伯の手は私の胸から腹へと軽く撫でまわし、その肌の輪郭を楽しんでいる。そのもどかしさに身体を捩った。
「俺以外のことを考えていたのか?」
 私の耳殻に唇を這わせ、その鼓膜に熱い息を吹き込む。聴覚を淫猥に刺激されて、身体の奥まで振動が響く。
「ち、違う…そんなこと、ないっ」
「ふうん。……強情だな」
 佐伯の顔に悪辣な笑みが浮かぶ。ぞくり、と条件反射で身体が震えた。佐伯がこんな表情を浮かべる時は大抵良からぬことを考えている。嬲られている間、何度も目にした笑みだ。だが同時に身体の芯が甘く痺れるのは、今はこの笑みの向こうにある佐伯の真意を知っているからだ。
 佐伯は私の両手を頭上のシーツに縫い付けて、その動きを封じた。他方の手が下腹部に滑る。既に質量を増して勃ち上がった性器を優しく握られ擦られる。
「うっ…、あっ…」
 求めていた刺激を与えられ、悦びを含んだ喘ぎが零れた。その手がさらに竿から先端まで指を絡めて、より昂ぶらせられる。更なる刺激が欲しくて、佐伯の手に自らを強く押し付けようと腰を捩る。
だが、私の思いとは裏腹に、克哉の指は離れて、ペニスの下の双珠を柔らかく揉みしだき、更にその奥へと指を這わせて辿っていった。後孔へとたどり着いた指は、その縁をなぞり挿し込まれた。淫らに中を弄られ、下肢がわななき自然と開いてしまう。
「佐伯……っ」
 下腹部に熱がこもる。既に余裕はなかった。欲情を煽られ、濡れた眼で佐伯を見つめ、さらにその先を促す。
 その思いに応えるように、硬く張りつめた切っ先が後孔に擦りつけられる。だが、その屹立は浅いところを軽く嬲るだけで、それ以上先へは進もうとしない。徹底的に焦らされ、身悶える。
 誕生日、という割にはいつだってこの男は意地が悪い。佐伯を軽く睨み付けたが、極上の笑みで受け止められた。そして、甘い声で唆される。
「ねえ、御堂さん。何を考えていたんです?」
「それは…」
 満たされない欲求とプライドの狭間で揺れながら、縋るように佐伯に哀願の眼差しを向けた。だが、その想いを汲み取ってくれる気はさらさらないようだ。促すように自分を見つめる佐伯に、諦めて息を吐いた。
「…来年の今頃はどうしているのだろう、と考えただけだ」
 その言葉に、佐伯のレンズの奥の眼がしばたかれた。隠したつもりだったが、その言葉に秘められた不安を感じ取られたのだろう。まじまじと顔を覗きこまれ、気まずさと羞恥に顔を背けた。
「御堂さん。あなたはまだ分かっていないのか」
 ふう、とため息とともに低い美声が吹き込まれる。
「あなたは俺のものだ。だが、それ以前から俺はあなたのものだ」
「…?」
「あなたが俺のものになったのは、再会してからだ。だけど、俺はあなたに最初に会った時から、あなたのものだった。それに気付けなかっただけで」
 様々な記憶と感情が思い起こされたのだろう。佐伯の顔に複雑な表情がよぎったが、再び優しい笑みにとってかわられた。
「だから、あんたは俺を好きにすればいい。俺はあんたのものだ」
「私の好きにしていいのか?」
「もちろん」
 余裕の笑みを浮かべる佐伯に、どんな無理難題を吹っかけてやろうか、と脳細胞がめまぐるしく活性化した。だが、今は自分の欲求を叶えることの方が最優先事項だ。
「…なら、克哉。私にキスをしろ」
「その後は?」
「言わなくても分かるだろう…?」
「ええ。…愛してますよ、孝典さん」
 にやりと笑った佐伯とねっとりと濃いキスを交わしあう。体内に克哉の熱い屹立が突き入れられ、狂おしい蠕動が引き起こされる。硬くなっていた身体が徐々に解されていく。そして、私と同様に佐伯の身体が熱を持ち、その眦が淡い朱に染まっていく。
 佐伯に身体と心の隙間を全て埋められて充たされる。それは、溶け合うという言葉がしっくりくるほど熱く、疼く、時として痛みを伴う感覚をもたらす。
 佐伯も同じように私に充たされているのだろう。
 奪い合い、与え合い、分かち合う。
 その時だけは過去もなく未来もない。この世界に存在するのはたった二人のこの瞬間だけだ。
 先のことは分からない。約束なんて意味をなさない。
 それでも、交わし合うこの気持ちに、私は確かな永遠を感じた。


 カーテンの隙間から挿し込む薄く柔らかい朝の光。アラーム代わりの携帯の振動がベッドサイドテーブルをかち鳴らすが、数秒もしないうちに自分ではない誰かの手によって止められた。
――佐伯の携帯か。
 ぼんやりとした意識が覚醒と睡眠の狭間で彷徨っていると、褥を共にしていた恋人が、温もりだけ残してそっと静かにベッドから出ていく気配を感じた。
 昨夜は何度も極めさせられ、意識を失うような状態で眠りについた。
 瞼と身体が重く、わずかに表面に浮上させた意識だけで佐伯の動きを捉える。佐伯は私を起こさぬように気を遣いながら、電気を付けず音を立てず身支度を整えていく。
 徐々に日の光が満ちて部屋の中が明るくなっていった。そろそろ起きて佐伯を見送るかどうか眠気と闘っていると、身体の真横のベッドのマットレスが軋んだ。
 佐伯がベッドの縁に腰を掛けたのだ。目を閉じたままじっとしていると、触れるか触れないかの繊細な指先で、顔にかかっていた乱れた前髪を静かに払われる。そのまま私の顔をじっと伺う視線を感じる。
 何をする気なのだろう。
 好奇心に意識が引き上げられたが、そのまま静かに寝たふりを続けた。
 カシャリ。
 突如、無機質な機械音が静かな室内に響いた。
――シャッター音?
 ハッと瞼を開く。目の前に、佐伯のスマートフォンのレンズ、そして、しまった、というバツの悪そうな顔を一瞬浮かべた佐伯を視界に捉えた。
「何をした?」
 瞬時に状況を把握し、ベッドに手をついて重い身体を起こした。怒気を込めて佐伯を睨み付ける。佐伯は肩を竦めて、場を取り繕うように端正な笑みを浮かべて見せる。
「すみません。起こしてしまいましたね。シャッター音を消し忘れました」
「そういう問題ではない。今、私を撮っただろう」
「せっかくここまで来たので、自分用の手土産代わりに」
 悪びれずに平然と答える佐伯に怒りが募る。いくら恋人同士でもしていいことと悪いことがあるはずだ。この男はともすればその境界線を平然と踏み越えてこようとする。
「まさか、今までも、こんな盗撮じみた真似を…」
「いいえ。疑うならどうぞ、確認してください」
 ためらいなく佐伯が自分のスマートフォンを私に差し出した。そのスマートフォンを一瞥したものの受け取ることなく、視線を佐伯に戻した。
 詮索を好まない私の性格を彼は熟知している。だから、佐伯は堂々と差し出すのだ。たとえ、やましいことがあっても。そして私はいくらその中身が気になっても、自身の矜持が詮索を阻む。
「…君を信じる」
 その言葉に、佐伯の口角がわずかに上がった。彼が思った通りの反応を私が返したからだ。
とはいえ、これ以上追及しようとも思わなかった。朝から険悪な雰囲気をわざわざ作り出すこともない。
「この写真も消しますね」
 佐伯は小さくため息をついて、あからさまに肩を落とす。そんなしおらしい姿を目にして、私は考えを変えた。
「いや、消さなくていい。代わりに、私も君の写真が欲しい」
「…そういうことなら、喜んで」
 その言葉に佐伯が無邪気な笑みを浮かべた。思えば、私も佐伯の写真を一枚も持っていない。佐伯が私の写真を欲しがる気持ちも分からなくもない。
 嬉しそうに喜んでみせる佐伯を横目に、枕元に置いてあった自分のスマートフォンを手に取る。カメラを起動させたところで、さっと横から佐伯に取り上げられた。
「あっ…」
 佐伯は手慣れた操作で、カメラのモードをインカメラに、自分撮りモードに切り替えた。そしてベッドの上に深く乗り込み私の隣に密着した。肩に手を回して引き寄せ、顔を並べる。佐伯の伸びた手の先の液晶画面に二人の顔が並んで映る。
「これで撮ろう。笑って」
「待て!こんなのは…」
 慌てて顔を背ける。いくら首から上しか映っていないとはいえ、しっかりシャツを着こんでいる佐伯とは違い、こちらは裸で寝起きの状態だ。しかも、こんな風に二人で写るなんて、いい大人がすることではない。
 真横で佐伯が喉を鳴らして笑う。
「どうした?あなたの携帯だ。気に入らなければ後から消せばいい」
 消せるわけがないだろう。佐伯の写真も、二人で共に写る写真も持っていないのに。
 頬が紅潮する。戸惑いつつもレンズに顔を向けた。満面の笑みを浮かべた佐伯とは対照的な表情だったが、カシャリ、とシャッターが切れる。
「表情が硬いな。もう一枚」
 その言葉と同時に、肩に回されていた手が私の頬に添えられ、佐伯の方に顔を向かされる。そのまま唇を塞がれた。唖然としている間に、再びシャッター音がする。
「何を…!」
 慌てて液晶画面を確認すると、二人のキスシーンがしっかりと収められていた。しかも佐伯は余裕のカメラ目線だ。羞恥も怒りも通り越して、肩の力が抜けた。可笑しささえこみ上げてくる。同じくクスクスと笑いだした佐伯がじゃれるように頬を摺り寄せてきた。
「誕生日、おめでとう」
 どこまでも優しく甘い声が耳元で囁かれ、鼓膜をくすぐった。

――Happy Birthday Takanori Mido !  
Sep 29, 2015

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