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禁忌の果実(御堂ver.)

 会社から克哉の部屋に帰宅した御堂は、リビングの電気を付けるなり、おや、と気が付いた。
 部屋の角に置かれている観葉植物、ベンジャミンの葉の先が茶色く枯れている。
 よくよく近寄って見てみると、葉全体だけでなく木肌も活気をなくし、萎れているようだ。
 克哉がこの鉢に水やりをしているのはよく見かけていた。だとすると、置かれている環境が悪いのだろうか。角部屋で二面から採光出来る造りになっているこの部屋で、日の光を浴びすぎて葉が焼けたのかもしれない。
 かといって、背丈近くある大きなそれを自分一人で勝手に動かすのも躊躇われた。
 後で克哉に伝えておこう、そう頭の中にメモして踵を返そうとしたとき、鉢の傍に置かれているアンプルに気が付いた。
 手に取ってみてみれば、中には紅色の液体が入っている。ラベリングされていないが、植物用の活力剤によく似ている。実際、植物の脇に置かれているという事はそうなのだろう。特に深く考えることもなく、アンプルのキャップを取り、その鉢に突き刺すと、御堂はリビングを後にした。

 バスルームでシャワーを浴び、汗を流す。バスローブを羽織り帯を締めた。克哉の仕事が上がるまでは、もう少しかかりそうだ。喉の渇きを覚えて、キッチンに向かおうとリビングに足を踏み入れた。
「なんだ、これは」
 一面の緑。あまりの光景に、思わず言葉が零れた。
 そのリビングは既に見知ったリビングでなかった。御堂がシャワーを浴びている僅かな時間に大きく様相を変えていた。部屋の床から天井まで、隙間なく緑の蔓に覆われている。窓も天井も家具も覆われ、蔓の間から漏れ出る照明の光と御堂が開けた扉から挿し込む廊下の光がその異様な空間を照らしている。
 ずずっと音がする方向に目を向ければ、壁が蠢いている。よく目を凝らせば、蔓がずるずると生き物のように這っていた。それは植物というより、生き物、むしろ触手というほうが相応しい動きと形だ。
 足元に目を落とせば、つま先まで触手が迫っていた。
 恐怖に襲われ、一歩足を引こうとしたとき、伸びてきた触手に足首を絡めとられた。バランスを崩し、後ろ向きに倒れる。後頭部を床にぶつける、と覚悟したが、幸か不幸か這っている触手に身体を掬い取られ、頭を打ち付けることはなかった。部屋の中に引きずり込まれる。
「やめろっ!」
 体勢を立て直そうにも、次から次に触手が身体に絡みついてくる。四肢を拘束される形になり、腰元や腕に巻き付いた触手が身体を持ち上げた。手足をばたつかせて暴れれば暴れる程、きつく巻き付いてくる。もがいているうちに帯がほどけ、バスローブが肌蹴て素肌がさらけ出された。
「くっ……うっ、離せっ!」
 その植物ともなんとも分からない生物に言葉が通じるとは思わなかったが、精一杯声を上げて拒絶を示すと、赤子の手首ほどもある触手が口の中に侵入してきた。
「んんっ!」
 口内を蹂躙しようとする触手を噛み切ろうと思い切り歯を立てる。
 ぶつりとその触手の表面が裂けた感触があり、そこからトロリとした樹液のような液体が染みだしてきた。その樹液の甘ったるく強い芳香が鼻に抜ける。果実のような甘酸っぱい液体を吐き出そうにも、口を塞がれて吐き出せずそのまま飲み込んだ。それは強烈なアルコールのように、喉を灼きながら胃に落ちていく。カッと全身が熱くなった。
「う……っ、んっ」
 触手は御堂の身体を隈なく探っているようで、全身を撫でるように這いまわる。その表面は毛羽立ちのように産毛が生えており、熱くなった肌はそれに敏感に反応し、触手が触れるたびに触覚が刺激されぞわぞわとした感触が生み出された。
 細めの触手が御堂の胸のあたりを這いまわる。乳首の周りに円を描くように這うと、ぎゅっと乳首を括りだすように締め付けた。そして、その先端の尖りを触手が突いて弄る。触手の固い産毛がチクチクと乳首を甚振り、痛痒さに身を捩るが、触手にしっかりと身体を絡めとられて逃れることが出来ない。
 乳首への執拗な刺激が神経を伝って下腹部に伝わった。性器が次第に質量を持って勃ち上がってくる。
「んふっ」
 喉から甘い音が漏れた。身体がひどく熱く、疼いていた。
 その時、ぬるりとした感触の触手が双丘の狭間にぬらつきながら入り込んできた。慌てて足を閉じようとしたが、太腿や足首に絡まった触手に引っ張られ、逆に両足を左右に拡げられてしまった。無防備になった股間に大小の触手が何本も伸びてくる。
「ふっ……、ん、うっ」
 数本の細い触手が奥の窄まりの周囲を撫でた。樹液に塗れているのか、どろりとした粘液を擦りつけつつ徐々に内部に侵入してこようとする。
「ん、んんっ!」
 必死に力を込めて拒もうとするが、細い一本が中に入り込むとそれに巻き付くようにして何本も侵入してきた。何本もの触手が巻き付き、捻じれ、太さを増して、後孔を拡げつつ貫かれる。
 同時に、細い触手が数本、ペニスの根元に巻き付いた。強弱を付けて締め付けながら、その先端へと這い上がってくる。ぬるぬるとしたそれは、先端の小孔に辿りつくと、そこの粘膜を探るように周囲をなぞった。
「ん――っ!」
 ただでさえ、刺激に敏感になっているところに尿道口を弄られ、身体を仰け反った。触手の刺激に反応して、先端から蜜が溢れだし、ペニスと巻き付いた触手を濡らして滴っていく。
 その時、つぷん、と一本の触手が蜜に満ちた先端に潜り込んだ。そのまま粘膜を擦りつつ茎の中枢を遡っていく。痛いはずなのに、その痛みがむず痒さとともに苛烈な刺激として電撃のように脊髄を走る。また、ペニスに絡みつく触手も蠢いて尿道の中の触手を締め付け、相乗的に快楽を増感していく。
「ふっ…んんっ……くうっ!」
 ペニスからの刺激に翻弄されていると後孔から侵入した触手が前立腺を擦り上げた。その強烈な感触にびくんと身体が跳ねた。すると、それに反応したのか、触手は前立腺を集中的に擦り上げてくる。
 たまらず腰を揺すると、触手が抽挿するかのようにずるずると後孔を出入りする。それに合わせるように、ペニスを取り巻く触手も蠢いた。堪らないほどの悦楽がうねり、より刺激を求めて腰を淫らに揺らしてしまう。呼吸が短くなり、塞がれた口の隙間から喘ぎが漏れた。傍から見れば、得体のしれない触手に御堂から積極的に快楽をねだっているようにしか見えないだろう。
「ふあっ、んっ、っ」
 一気に登り詰めるように射精感が高まるが、触手にペニスの出口を塞がれ、根元を戒められ、射精ギリギリのところで留め置かれる。その苦しさに涙が溢れた。
 その時だった。
「御堂さん?」
 部屋の入り口から克哉の声が聞こえた。欲情に潤んだ眸を向ければ、克哉が会社帰りのスーツ姿のまま、リビングの入り口に立っていた。淫らな姿の御堂を視界におさめて、その瞳孔が僅かに開く。
「んんっ!」
――佐伯っ!
 不自由な声で必死に叫ぶと、克哉が御堂の方に足を踏み出した。危ないっ、と叫ぶ前に、克哉を避けるように触手が蠢き、克哉の前に道を開いた。驚きに目を見張る。克哉はゆっくりと、しかし悠然とした足取りで御堂の方に歩み寄った。
 克哉は触手に吊り上げられている御堂の口元の触手を払いのけた。ずるっと、口から蔓が引き抜かれる。樹液に噎せながら新鮮な酸素を身体に取り込んだ。克哉のひんやりとした手が頬に添えられた。
「大丈夫ですか?御堂さん」
「佐伯…っ!」
 目の前の克哉は尋常ではない状況を目の当たりにしても、何故か至って冷静だ。その克哉の態度に疑問が生じたが、安堵に身体の力が抜ける。
 克哉に助けを求めようとしたとき、ずるっと、後ろを穿ったままの触手が中を深く抉った。途端に、堪えていた悦楽が奔流となって御堂を襲った。身体を引き攣らせて大きく仰け反る。克哉の口角が僅かに上がったように見えた。
「あっ、ああっ!」
「どうして欲しいんです?」
「イきたいっ……イかせてくれっ」
 助けを求めるはずだった言葉が、欲望の開放を求める言葉に置き換わっていた。
 克哉の視線が御堂の下半身へとながれた。緑色のぬるぬるとした触手にペニスも後孔も犯されているあられもない姿を見られて、含羞に顔が燃える。
 克哉の手が御堂の下半身に伸びて、ペニスに巻き付いている触手の上から握り込んで軽く擦り上げた。それだけで、言いようのない快楽が全身を駆け巡り身体がビクビクと跳ねる。
「くう、あっ!」
「つらそうですね」
 自ら御堂を追いあげながらも、その克哉の声はいたわりを感じる程優しい。
 なぜそんなに平然としていられるだろう。だが、それを冷静に考える余裕はなかった。
「さ…えきっ!苦しいんだっ……どうにか、してくれっ」
「まったく、一人でこんなに愉しんで。でも、俺が来るまでイくのを我慢してくれたんでしょう?やはりあなたは可愛い人だ」
「ちがっ……ああ――っ」
 克哉に腰を引き寄せられ、後孔の触手をずるりと引き抜かれた。粘膜を擦られ捲られ、引き摺りだされる感覚に、目の前が真っ白になった。
 荒い息を吐いて、身体の内外を炙る悦楽の焔に耐えていると、後孔に触手とは違う硬く熱い屹立の先端をあてがわれた。
「すぐに俺のを挿れてあげますから」
「佐伯っ!いやだっ。……やめっ」
 必死に首を左右に振る。佐伯の両手が御堂の腰を掴んだ。触手は佐伯の意に沿うように、御堂の身体の位置をいいところに調整する。
「そんなに心配しないでください。“これ”はあなたに危害を与えたりしない」
 嘘だ。“これ”に十分ひどい目に遭わされている。それに、今問題にしているのは克哉の行動だ。
 克哉の言葉に対する反論が次から次へと湧いて出るが、それらは唇に辿りつく前に喘ぎに変換されてしまう。
「あっ!……ぅっ、あ」
 両足がびくんと跳ねて足を広げている触手が揺れた。克哉の猛った器官が御堂の中に押し込まれる。触手に解された蕾は触手の粘液もあわさりぐずぐずに蕩けて、容易く克哉のペニスを呑み込んでいく。
 克哉がゆるやかに腰を使い始めると、触手に吊られている身体は抽挿する度にぐらりと大きく揺れて、克哉のペニスをより深く咥えさせられる。触手に内も外も戒められている自分のペニスが痛いほどに張りつめ、解放を求めて震えた。
「いっ…イきたい、佐伯っ」
「あなたは焦らされれば焦らされるほど淫らになる。…今の貴方も最高だ」
 克哉が顔を近づけた。
「愛していますよ、孝典さん」
 耳元で囁かれる低い声が快感をせり上げる。
「佐、伯っ。お願いだ…イかせてっ」
「ほら、御堂さんも言ってください」
 それどころではないのに。
 意地が悪い克哉の返事に潤む目を向けて縋るも、克哉は御堂にお構いなしに腰を使い続ける。堪えきれなくなって、身体を慄かせながら克哉に哀願した。
「克哉っ、愛している!だから…イかせて、くれっ」
 克哉が甘やかな光を湛えた双眸を御堂に向けた。御堂に覆いかぶさるようにして、喘いで開いたままの唇を塞がれ、口内に残されていた樹液を舐めとられる。こんな異様な状況の中で、その仕草は場違いなほどに甘く優しい。
「んっ、んふっ」
 深いキスを交わしながら、克哉の手が御堂の下半身に伸びた。御堂のペニスを戒めている触手を指で摘まむと、力任せに引き剥がした。
「んっ!あ――っ!」
 尿道を埋めていた触手をずるっと引き出され、喉を仰け反り顎を引き攣らせて、悲鳴を上げた。次の瞬間、堰き止められていた精液が激しい絶頂を伴って迸る。
 長く深い快楽の沼にずり落ちていく。身体が跳ねて悶えた。
 中の粘膜が収斂して絞られ、克哉が苦味を含ませた音を喉から漏らして、御堂の奥深くに熱い粘液を流し込んだ。
「う……、あ、」
 絶頂の余韻に打ち震えていると再び克哉に唇を塞がれた。求められるがままに気だるげに唾液を啜り舌を舐めると、克哉が抽挿を再開した。
 身体の中の克哉のペニスは萎えずに硬いままだ。驚き、逃れようと身を捩ると、克哉が唇を離して微笑を浮かべた。
「あなたもまだ満足してないでしょう」
 ほら、と御堂のペニスを握って軽く擦る。視線を落とすと、射精をした直後にも関わらず、自分のペニスが再び淫らな角度に勃ち上がっていた。信じられずに驚愕の視線を克哉に向けた。
「な……、どうして…?」
「御堂さん、この樹液を飲んだでしょう。媚薬の効果があるそうですよ」
――なぜ、そんなことを知っているんだ?
 この触手と克哉は関係があるのだろうか。快楽に揉まれながらも残された理性が疑問を提起する。それを確かめようと、口を開きかけた時、ぐるりと身体を返された。身体を穿ったままの克哉のペニスを軸に回転させられ、粘膜を大きく抉られた。
「ああっ!!」
「俺もあなたとキスしたときに、この樹液を飲んでしまいましたから。まだあなたが足りないんです」
 触手に引っ張られてうつ伏せにさせられ、腰を克哉の前に高く掲げた体勢にされる。触手は完全に克哉の意のままに動いているようだ。
「これなら、どんな体位でも出来そうだ」
 愉悦を含ませた声が背後から聞こえた。
「や、もう、やだ……っうあっ」
「前も弄ってあげますから」
 克哉は手近なところにあった触手を掴むと、御堂のペニスまで導いた。触手が御堂のペニスに絡みつき、再び尿道口を犯し始めた。大きな抽挿が始まる。思考が激しい淫蕩に溶かされ、喘ぐことしかできなくなる。
「はあっ!…ああ、くっ……んん」
 そのまま、ありとあらゆる体位と角度で克哉と触手に犯され、快楽を煽られた。
 茫洋とした意識の中でぼそりと克哉が呟く声が聞こえた。
「あの男もたまには粋な計らいをする」
 あの男…?誰だろう、と思いつつも、切羽詰まった欲望の開放を克哉に強請っている間に、些細な疑問は霧散した。



「御堂さん、起きてください。朝食、出来ていますよ」
 克哉に身体を揺り動かされる。うっすらと瞼を開けば、眩いほどの朝の光が網膜に差し込む。再び瞼を閉じようとして、昨夜の光景が脳裏に蘇った。一面緑色の部屋、身体に絡みつく無数の触手。ハッと跳ね起きた。
「佐伯っ!」
「どうしました?」
「あっ……いや……」
 何かに追い立てられるように克哉の名前を叫んだが、その瞬間、あれ程鮮明だった記憶がぼやけ、逃すまいとした意識の指先をすり抜けて忘却の沼へと溶け込んでいった。
 一瞬にして記憶が風化して消えてしまい、何かひどく淫靡な夢を見たようなすっきりとしない後味だけが残される。
「変な夢でも見ましたか?」
 クスリ、と克哉が優しい笑みを浮かべて御堂の顔を覗き込む。
「いや、何でもない」
 克哉の視線を避けるように顔を背けると、曖昧な思考を振り払うように首を振って、頭の中を切り替える。ベッドから起き上がって、リビングに向かう克哉の後を追った。
 リビングに足を踏み入れて、ふとした違和感に気付く。
「佐伯、あの観葉植物はどうした?ベンジャミンだったか」
 リビングの部屋の隅に置かれていたベンジャミンの鉢がなくなっていた。
「ああ、枯れたので捨てたんです」
 さりとて興味もないように克哉が返す。
「枯れた?」
「ええ。肥料をやりすぎたみたいで」
 どうぞ、と克哉に淹れたてのコーヒーを渡された。
 コーヒーの薫りを堪能しようとたっぷりと空気を取り込みつつコーヒーを口腔に含む。ほんのりと甘酸っぱい果実のような芳香が鼻腔を浸したが、すぐにコーヒーの苦みに紛れて消失した。

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