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​32歳エリート部長、魔法少女になりました☆
第三話 美少年アイドル育成計画

 煌びやかな内装のクラブで、艶やかに着飾ったホステスに挟まれて御堂は内心うんざりしていた。それを決して表情に出さないように努めていたが、向かいに座った大隈には目ざとく見抜かれたようだ。MGN社の専務である大隈は両脇にクラブナンバー1とナンバー2の美人を侍らせながら御堂に言った。

 

「御堂君、こういうところは嫌いか?」

「いえ、十分に楽しませていただいています」

「そうか、それならいい」

「うれしー、御堂さん、もっと飲んで!」

「ユミちゃん、僕より御堂君の方が好みかい?」

「やだぁ、大隈さんたら。どっちもカッコよくて選べない~♡」

 

 きゃあきゃあと歓声があがる。ユミと呼ばれた隣のホステスが豊かな胸を押し付けるようにして御堂にしなだれかかってくる。御堂はさりげなさを装って、身体の位置をずらした。一刻も早く、この騒がしくて鬱陶しい場から解放されたい。だが、それは御堂の意思ではどうにもならないことだ。

 大隈は御堂直属の上司で、御堂を部長へと引き立ててくれた、いわば恩人だ。そんな大隈はこうして高級クラブで遊ぶことが好きで、時たま御堂を誘ってくる。正直、クラブで女性にもてはやされることに御堂はなんの興味もなかったが、大隈に誘われれば無下に断るわけにもいかない。

 こうして他愛のないおしゃべりに付き合って、大隈がようやく席を立ったころには、すっかり夜も更けていた。大隈はアルコールでおぼつかない足をママに肩を支えられながら、どうにかビルの出口までたどり着いた。御堂たちを接待していたホステスも見送りについてきて、いかにもクラブで遊んできましたといわんばかりのご一行様になっている。

 早々にタクシーを捕まえて、大隈を帰らせようと思った時だった。ホステスたちの間から黄色い歓声があがった。

 

「あら秋紀ちゃんじゃない」

「あ、大隈さん! ユミちゃんにママも!」

「おお、秋紀ちゃんか」

 

 声の方を振り返れば一人の少年が大隈とホステスたちに駆け寄ってきていた。華奢な体躯とすらりとした手足、赤いノースリーブのパーカーに白いスキニージーンズを穿いている。大きくてつぶらな瞳と整った顔立ちは美少女と見紛うかのようだ。その少年は大隈の腕に手を絡めて、拗ねたような声を出す。

 

「またキャバクラ行ってたの?」

「ああ、連れていって欲しかったのか?」

 

 だらしなく脂(やに)下がった顔で大隈は秋紀と呼ばれた少年に返事をする。クスクスとクラブのママが笑った。

 

「秋紀ちゃんはもうちょっと大人になったらね。そしたらお姉さんたちがたっぷり遊んであげる」

「ケチ! 今、遊んでよ」

 

 ホステスたちにも秋紀は人気のようで、たちまち秋紀を取り囲むようにして輪ができた。御堂はその輪から一歩離れたところで大隈に尋ねた。

 

「大隈専務、こちらは?」

「ああ、秋紀ちゃんだよ。ほら、今はやりのなんだっけ、なんとかチューバーで人気の」

「マイチューバーだよ!」

 

 秋紀がすかさず訂正を入れた。ホステスの一人が自分の携帯を取り出して、画面を御堂に見せた。それは有名な動画投稿サイト『マイチューブ』で目の前にいる秋紀の顔写真とともに『アキちゃんねる』というチャンネル名が表示されていた。

 

「秋紀ちゃん、最近流行りのマイチューバーなのよ。チャンネル登録者数もすごい増えてるのよね」

 

 どうやら、秋紀は個人で動画配信をしているマイチューバーのようで、それが男女を問わず人気を博しているようだった。ざっと動画タイトルを見るに、単にゲームやらで遊んでいるのを実況中継しているだけのようだが、その程度でなぜ人気なのか御堂には到底理解不能だ。

 秋紀は大隈の腕にしがみつくようにして甘えた声を出した。

 

「大隈さん、僕のチャンネル登録してくれた?」

「もちろんだよ。この前のライブ配信もよかったよ」

「ありがとー! 大隈さん、この後暇? 一緒に遊ばない?」

「大隈専務、タクシーが」

 

 御堂は秋紀と大隈の間に割って入った。秋紀を無視するようにして、大隈にさりげなくタクシーに乗るように促す。大隈は「ああ」と我に返り、アルコールに火照った顔を秋紀に向けた。

 

「僕はもう帰らないと、妻に怒られるからな。それじゃあ、秋紀ちゃん、またね!」

「つまんないの~」

「次は、おいしいお店にでも連れて行ってあげるから」

「約束だよ!」

 

 拗ねた顔を見せる秋紀を背に、大隈はふらつきながらタクシーに乗った。御堂は運転手に大隈の自宅住所を告げる。

 タクシーが発車するのを見届けて、御堂はようやく肩の荷が降りたかのように、深々と溜息をついた。一緒に見送っていたホステスたちにも「では、これで」と礼儀正しく挨拶をする。大隈の行きつけのクラブのホステスだ。邪険にはできない。

 

「御堂さんもまた来てね~! 秋紀ちゃんもまた!」

「ママ、ユミちゃんまたねー!」

 

 ホステスの女性たちが名残惜しそうに御堂と秋紀に手を振り、クラブへと戻っていく。御堂と秋紀は、二人、歓楽街の真ん中に取り残された。

 御堂は頭から足まで値踏みするかのように不躾な視線を秋紀に向ける。

 

「君、歳はいくつだ?」

「僕の歳? そんなに気になる?」

 

 大きな眸が御堂に向けられる。生意気そうな顔つきは、子どものような愛らしさを残し、しなやかな体つきと相まってまるで猫のようだ。御堂に向けられた顔は、自分が可愛いと当然信じて疑っていない表情だ。

 

「御堂さんて言うんだ。大隈さんの部下?」

「……君は大隈専務とどういう知り合いだ?」

「たまたまこの近くの店で知り合ったんだよ。そんなに気になる?」

 

 御堂は冷ややかに秋紀を見下ろした。だが、秋紀はそんな御堂の様子を意に介さず、御堂に向けてにっこり微笑んでみせる。

 

「これから一緒に飲みに行く? 御堂さん、カッコいいから付き合ってあげてもいいよ」

 

 御堂の腕に腕を絡めて上目遣いに御堂を見つめてくる。相当、自分に自信があるのだろう。御堂が秋紀の誘いを断る可能性など、端から念頭にないかのようだ。

 御堂はそんな秋紀を鼻で笑うと、秋紀の腕のいささか乱暴に振り払った。

 

「悪いが、子どもの面倒をみる趣味はないのでな」

「な……っ」

 

 秋紀が言葉を詰まらせる。そんな秋紀の不意を突いて、秋紀のスキニージーンズのポケットに入れられている財布を引き抜いた。

 

「泥棒! 返してよ!!」

 

 秋紀が御堂の手から財布を取り戻そうと手を伸ばす。その手を避けるようにして財布を頭上に掲げ、さっと財布の中から一枚のカードを引き抜いた。学生証だ。

 

「成条学園 須原秋紀……。やはり、高校生か」

 

 それだけ確認すると、学生証を財布の中に戻して秋紀に財布を返してやる。

 

「有名私立高の学生がこんなところで何している?」

「放っておいてよ!」

 

 御堂の手からふんだくるようにして財布を取り戻すと、秋紀はきっと眦を吊り上げて御堂を睨みつけた。

 

「今度、大隈さんに会ったら言いつけてやるから!」

「馬鹿な子だ」

 

 秋紀は脅しのつもりで言ったのだろう。だが、御堂がまったく意に介さない様子に怯んだようだった。

 

「専務は君が子どもだから構ってあげているだけだ。君ごときのために動くと思うのか?」

「ぅ……っ」

 

 御堂の容赦のない言葉に、秋紀は鼻白んだ。だが、すぐに、怒りで顔を赤くして言い放つ。

 

「僕が一言いえば、あんたなんかすぐにこの街から放り出されるんだから」

「自分では何もできない無力な子どもだと告白しているようにしか聞こえないが?」

「え……」

 

 秋紀はこの歓楽街で多くの人間と交友関係を結んでいるのだろう。それが秋紀を増長させているのだ。秋紀を取り巻く人間たちが秋紀のために動いてくれる保証などないのに。

 

「君は所詮ガキだ。愚かで無知な子どもに過ぎない。マイチューブや歓楽街でチヤホヤされてアイドル気分になっているのだろうが、君の若さと容姿がもてはやされているに過ぎない。それを自分の実力だと勘違いしているのか? ……さっさと家に帰りたまえ。私は子どもを相手にするほど寛容な大人ではない」

「子ども扱いしないでよ!」

 

 秋紀は両手の拳を強く握りしめ、戦慄かせた。

 

「僕は自分の好きなように生きているだけだ! それをあんたたちが、僕に近づきたくて言い寄ってくるんだろ!」

 

 感情に任せて言い返してくる秋紀を、ふん、と御堂は露骨に見下す態度で言った。

 

「火遊びして一人前になったつもりか? だから、ガキだと言うんだ。君はすがることができる相手を探しているだけだ。自分で自分の責任も取れないくせに、主張だけは一人前だな。ほら、火傷する前に家に帰れ」

 

 言葉を失った秋紀がぐっと唇を噛みしめる。涙をためた眸で御堂を無言のまま睨み続けた。その顔を見て、御堂の胸がチクリと痛んだ。

 少々言い過ぎたかもしれない。大隈の夜遊びに付き合わされた腹いせを八つ当たりしてしまった自覚はあった。

 ……と反省しかけたところで、秋紀が叫んだ。

 

「オジサンのくせに、ムカつく……! もう二度と来るな、オジサン!」

「私がオジサンだと!?」

 

 秋紀はそれだけ言い捨てるとパッと身を翻して御堂の前から走り去っていった。その後姿を唖然として見遣る。

 御堂はまだ三十二歳だ。日本人男性の平均寿命が八十歳を超えていることを考えると、御堂はその半分にも到達していない。それなのに、オジサン呼ばわりされるなど、甚だ心外だ。

 だから、子どもは嫌いなんだ。特に何の苦労もしていなさそうな小生意気な態度の子どもは大嫌いだ。

 

「かわいい子でやんすね。気が強そうですけど」

 

 耳元で羽音がして、鬼畜妖精が現れる。御堂の肩にちょこんと座ろうとするのを、御堂は手で、しっしっと振り払った。

 

「こんなところに出てくるな。見られたらどうする」

「あっしのことが見えるのは御堂の旦那だけでやんすから!」

「それなら私に話しかけるな。変人だと思われるだろう」

 

 さっさとタクシーを捕まえて自宅へ帰ろう。御堂は気持ちを切り替えて、まとわりついてくる鬼畜妖精を無視すると歓楽街を大通りへと向けて歩き出した。

 

 

 

 ――なんなんだよ。

 

 秋紀は行き場のないむしゃくしゃした気持ちを抱えながら夜の歓楽街を歩いていた。

 大抵の大人は秋紀を可愛がってくれる。男でも、女でも。それなのに、さっきの男……。

 御堂の顔を思い出すと、イライラが沸き上がって頭を掻きむしりたくなる。

 家に帰れと言われたが、家に帰っても無人の暗い部屋が待っているだけだ。

 学校にまともに行かず、夜の歓楽街で時間を浪費する。そんな日々が良いとは秋紀も思ってはいない。だから、自分だけの何かを探して、動画配信を始めてみたのだ。

 そろそろマイチューブの動画の更新をしないといけないが、とてもそんな気持ちにならない。

 うつむきながら速足で歓楽街を歩いていると、不意に肩に手を回された。

 

「君、一人? どこ行くの?」

 

 中年男性が、馴れ馴れしく秋紀の肩を抱き寄せてくる。アルコール臭い息がかかった。秋紀は冷ややかに言う。

 

「オジサン、息、臭いよ。あっち行って」

「ん、なんだと!?」

 

 冷たくあしらわれた男の顔が一気に真っ赤になる。

 

「ガキのくせに、えらそうに!」

「痛いっ!」

 

 肩をぐいと掴まれて秋紀は声をあげた。男が怒りに任せて手を振り上げた。

 どうしよう、血の気が引いた。痛みを覚悟してぎゅっと目をつむる。その時だった。

 「ぐあっ」と悲鳴が上がる。恐る恐る目を開けてみれば、男の背後に見知った顔があった。スーツ姿の若い男は中年男の腕を背後に捩じり上げている。

 

「克哉さん……っ!」

「俺の連れに何か用か?」

「いててて……っ、別に何もしてないよ!」

 

 佐伯が捩じり上げていた手を離すと、男は慌てて秋紀たちの前から走り去っていった。

 秋紀は佐伯の腕に強くしがみつく。

 

「克哉さん、怖かった!」

「もう大丈夫だ」

 

 安堵に涙が出てきそうになるが、佐伯の前だ。秋紀は強がって、頬を膨らませてむくれてみせる。

 

「聞いてよ、今日、散々だったんだからぁ。今のオジサンの前にも、嫌なオジサンに説教された。偉そうにして、ほんとムカつく」

「そうか、それは災難だったな」

 

 微笑を浮かべる佐伯の横顔はいつみてもカッコよくて、秋紀は見惚れてしまう。佐伯ならきっと秋紀のことを分かってくれる、そんな安心感があるから、秋紀は克哉と並んで歩きながら、今日の出来事をぶつぶつ語りだした。佐伯は黙ったまま、秋紀の話に耳を傾ける。

 

「大人たちって本当に偉そうで嫌い。歳取っているだけで自分たちの方が僕よりも偉いと思ってるんだから。リーマンなんて上司にへこへこしているだけのくせに」

 

 そこまで言い捨てて秋紀はハッと気づいたように佐伯の顔を見た。

 

「克哉さんは違うよ! 克哉さんは他の大人と違って優しいし、かっこいいし……」

 

 佐伯に気に入られようと媚を売る秋紀の態度があからさまで、佐伯は唇の端で小さく笑った。そして、スーツのポケットから何やら取り出して、秋紀の手に握らせた。

 

「秋紀、これをあげよう」

「これは……眼鏡?」

「ああ、秋紀は見た目が幼くて可愛いからな。だから、ほかの大人たちに侮(あなど)られるんだ。この眼鏡でイメチェンすればいい」

 

 佐伯の言葉に秋紀はぱっと顔を輝かせた。大事そうに渡された眼鏡を握り込む。

 

「わー、克哉さん優しい! 大好き!」

「秋紀、お前を馬鹿にする大人たちを見返してやれ。お前の力で」

 

 佐伯は喉で低く嗤った。佐伯の眼鏡の銀のフレームが光を反射して鈍く光る。

 

「俺がお前に力を与えよう。誰にも負けない力を」

 

 佐伯は秋紀の耳元で小さく囁いた。ぞくりとした痺れが秋紀の背筋を走り抜けた。

 

 

 

「ああっ!」

 

 ようやく歓楽街を抜けたところで、御堂の傍らで飛んでいた鬼畜妖精が声を上げた。無視し続けるつもりだったのに、突然叫ばれた声に反応してしまう。

 

「どうした、騒がしい」

「怪人が出たでやんす! しかもこの近くでやんすよ!」

「ふうん」

 

 極小サイズのスマートフォンを取り出して情報を検索する鬼畜妖精の姿を傍目に、御堂は気のない返事をした。

 

「興味ないでやんすか?」

「興味ないな。まったく興味ない」

 

 頼まれもしないのに勝手に怪人情報を知らせてくる鬼畜妖精に、うんざりとした顔で返す。だが、鬼畜妖精は御堂の言葉を右から左に聞き流してさらに続けた。

 

「怪人になったのは、どうやら、先ほど会った男の子でやんすよ。須原秋紀」

「ほう。怪人になるとは、ついに非行も落ちるところまで落ちたか」

「冷たいでやんすね……」

「私とは何ら関係のない人間がどうなろうと知ったことではない」

「もしかして、オジサン、て言われたことを根にもってやんすか?」

 

 ちらりと御堂の顔を窺ってくる鬼畜妖精にムスっとしながら答える。

 

「……年端もいかない青臭い子どもに何を言われようとも、私が気にするわけないだろう」

「でやんすよね~」

 

 と鬼畜妖精は大きくうなずきながら、言葉を続けた。

 

「とはいえ、オジサンはひどいでやんすよね。いくら三十路(みそじ)だろうと、服装や言葉遣いが同世代より落ち着いていようと、オジサンはないでやんす。オジサンは……ぐへっ」

 

 鬼畜妖精の言葉が言い終わるよりも早く、御堂の手が鬼畜妖精を掴む。握力を強めながら、御堂が口を開いた。

 

「何か、言ったか?」

「……い、いえ。何も言ってないでやんす!」

「ふん」

 

 手を開くと、慌てて鬼畜妖精が飛び立つ。御堂の手からどうにか逃れた鬼畜妖精は、安全な距離を取って、スマートフォンの情報を読み上げた。

 

「須原秋紀、成条高校二年生。両親は不仲で離婚協議中。親は家に帰ってこないので一人暮らし状態。秋紀はお金だけ与えられて放っておかれているみたいでやんす。夜の街で遊び始めたのも、両親が家に寄り付かなくなった時期からでやんすね。こうして夜の街に出てくるのも寂しいからでやんすかね……」

「それがどうした? 両親が不仲な家庭などいくらでもある。だが、その子どもたち全員が非行に走るわけではないだろう」

 

 冷たく言い放つ御堂に、鬼畜妖精は大仰にため息を吐いて見せた。

 

「あ~、この子が怪人になって問題が起きたら、この子の怪人になる前の状況とか調べられるでやんすよね、きっと」

 

 ぴくりと御堂の眉が動いた。

 

「MGN社の専務と淫行していたとか話題になったら、みんなどう思うでやんすかね」

「大隈専務があの子と淫行だと? 馬鹿を言うな。食事とかに付き合っただけだろう」

 

 とは言いつつも、不安はぬぐえない。大隈と秋紀は親子ほどの歳の差がある二人だ。単に可愛がっているだけかと思っていたが、本当のところはどうなのだろうか。あんな未成年と淫行などあったりしたら目も当てられない。

 

「……それに、職務外でのプライベートなことは関係ないだろう」

「そうでやんすかね~。MGN社の評判がた落ちになったりしないでやんすかね~」

「これくらいのことで会社の評判は揺るぐものか!」

 

 鬼畜妖精は意地の悪い視線を御堂に向けてくる。

 

「ま、建て前はそうでも、世間一般はどう思うでやんすかね。大隈専務もクビになるかも……」

「大隈専務が失脚……」

 

 御堂の頭が目まぐるしく回転しだした。大隈が失脚することが自分にとって利益となるのか不利益となるのか。専務のポストが空くことによって、自分がそこに収まることができるのだろうか。逆に、御堂を快く思わない一派がそのポストを取ったらどうなるか。御堂の明晰な頭脳はありとあらゆる可能性を瞬時に計算し、答えを出した。

 

「……今、大隈専務に失脚されては困る」

 

 苦渋の声を絞り出した。専務の椅子が空席となる絶好のチャンスであるのに、自分の実力ではまだそのチャンスをものにできない。もっと実績を積まねばダメだ。それに今、大隈という後ろ盾を失うことは、御堂にとってデメリットの方が大きい。それだけではない、MGN社の対外的なイメージが失墜するとなったら、多大なる不利益をもたらされるかもしれない。

 

「それなら、早く怪人を元に戻すでやんす」

「くそっ、あの子の好きにはさせておけん」

 

 悪態を吐きながら、御堂は鬼畜妖精に先導されて、歓楽街へと踵を返した。

 

 

 

「ここですよ」

 

 と鬼畜妖精に言われて御堂は歓楽街の裏路地を、物陰から恐る恐るのぞき込んだ。

 そこには秋紀がいた。

 秋紀は先ほどまでの姿とは打って変わって、赤いレザーの首輪にエナメルのコルセットとビキニパンツというみだりがましい姿をしていた。両手首に巻き付く赤いエナメルは手枷のようで、同じ材質の真っ赤なハイヒールのブーツを履いている。そして、顔には見慣れぬ眼鏡がかかっていた。

 

 ――あれがキチク眼鏡か。

 

 御堂はごくりとつばを呑み込んだ。よく見れば秋紀の足元には何人もの男が転がっていた。男たちは、秋紀に伸されたかのように、ぐったりと這いつくばっている。スーツ姿の者も入れば、カジュアルな格好の者もいた。秋紀がブーツの踵部分で一人の男の股間を踏みつけた。男が情けない悲鳴を上げる。

 

「ほら、もっと良い声で鳴いてよ。こんなんじゃ動画配信出来ないよ」

 

 ぐりぐりと男の股間に体重をかける。男がひしゃげたような声で大きな悲鳴を上げた。それを秋紀は楽しそうにスマートフォンを取り出して撮影しだす。

 見た目は小悪魔的なセクシーさだが、やっていることは悪魔的所業だ。

 

「なんだあれは……」

 

 呆然と呟く声に鬼畜妖精が応えた。

 

「チューバ―型怪人でやんす」

「チューバ―型? なんだそれは」

「新しいタイプの怪人でやんすね~。マイチューバー特化型怪人でやんす」

「はあ?」

 

 意味が分からず聞き返した御堂に、鬼畜妖精はやれやれといったように肩を竦めた。

 

「知らないでやんすか? マイチューバーと言えば、今や、子供が将来就きたい職業でランキング入りしてくらいの人気でやんすよ。となれば、当然、怪人世界も影響されるわけで……」

「なんだ、それは。馬鹿馬鹿しい」

「だけど放っておけないでやんす。さあ、御堂の旦那、変身して! 戦うでやんすよ!」

「気は進まないが……」

 

 子ども相手に戦うのも気が進まないし、何といっても、魔法少女に変身すること自体が嫌なのだ。とはいえ、生身で怪人を倒せるとは思えない。どんな力を持っているかも分からない相手だ。

 あたりはすでに鬼畜妖精が結界を張ったのか、夜の歓楽街だというのにほかの人間の存在は皆無だ。秋紀の足元の男たちも呻くばかりで到底、正常な意識があるとは思えない。御堂はひとつ息を吐いて、不承不承、覚悟を決めると鬼畜妖精に言った。

 

「例の魔法スティックを出せ」

「いつもの場所でやんす!」

「いつもの……」

 

 もしやと思ってスーツのポケットに手を入れると、やはり、そこにエネマグラがあった。

 御堂は毎朝、スーツのジャケットの袖を通すたびに、ポケットに潜んでいるエネマグラを忌々しく思いながら捨てている。毎日毎日処分しても、なぜか必ずこのエネマグラは御堂のスーツのポケットに戻っているのだ。そういえば、似たような怪談を聞いたことがあった。捨てても捨てても持ち主のところに戻ってくる呪いの人形。となるとこれは……。

 

「呪いのエネマグラか!」

「違うでやんす! 魔法スティックでやんす!」

 

 鬼畜妖精が心外だと言わんばかりに訂正してくる。

 何の因果で魔法少女に選ばれてしまったのか、自分が選ばれしエリートであることは自覚しているが、魔法少女は願い下げだ。心の中で恨みつらみを吐きながら、仕方なしに御堂はエネマグラ型魔法スティックを掲げて言った。

 

「エネマキュア!」

 

 とたんにエネマグラが激しく輝きだした。御堂のスーツが消失し、裸体が露になる。その次の刹那、エネマグラからあふれ出す光が花吹雪のように舞い散り、御堂を包み込んだ。魔法少女のコスチュームが御堂の引き締まった肢体を覆っていく。身体の線を浮き立たせる薄い布が肌を覆い、純白のショーツが股間を隠す。闇を映しとったかのような御堂の黒髪と眸は目が覚めるような鮮やかな紫色に染め上げられる。両足と両手は白いレザーのブーツとグローブが装着され、伸ばした手には大きくなったエネマグラ型魔法スティックが吸い付くように収まる。成熟した大人の男の身体に、愛らしい魔法少女のコスチューム、アンバランスであるのに、そこから匂い立つ色香に誰もが目を奪われてしまう。

 御堂は秋紀の前にすたっと降り立った。魔法スティックをビシッと秋紀へと向ける。

 

「魔法少女エネマキュア、参上!」

 

 凛とした声が歓楽街の淀んだ空気を切り裂いた。

 突如とした現れた魔法少女に、秋紀が驚いた顔を向けた。視線が合うなり、たちまち恥ずかしくなる。あまりの羞恥に小声で鬼畜妖精に向けて言った。

 

「この登場シーンどうにかならんのか。もう少し地味にしろ」

「これはもう様式美でやんすから、どうにもならないでやんす~」

 

 やはりこの鬼畜妖精は役立たずだ。御堂は怒りを噛み殺しながら秋紀へと向き直り、言った。

 

「須原秋紀、貴様の非行三昧はもう捨て置けん。さっさとその眼鏡を捨てて、反省文でも書け」

「あはっ! 噂には聞いていたけど、魔法少女エネマキュアって本当にいるんだ」

 

 愛らしい顔が、蠱惑的に笑いだした。レンズの奥の秋紀の眸は血のように赤く染まっている。その眸が大きく瞬く。

 

「だけど、今までみたいに簡単に勝てるなんて思わないでね」

「なんだと?」

 

 幼さが残る顔立ち同様に、秋紀の身体もまた未成熟なものだった。華奢な体躯に細い四肢。御堂とは圧倒的な対格差がある。それでも、今までの怪人とは何かしら違う。そんな嫌な直観が御堂の頭を過(よぎ)る。

 秋紀が御堂を指さした。そして、ふふ、と余裕の笑みを浮かべる。

 

「僕、すごい力をもらっちゃったんだから」

「すごい力だと?」

 

 秋紀が、御堂に向けていた指を頭上へと向けた。天を指さし、詠唱する。

 

「全にして一、一にして全。扉にして鍵となり、時空を超越する無限なる領域よ。開け<異界の門>! 来たれ<クラブR>!」

「な……っ!?」

 

 秋紀の指先が赤く光る。どぉんと空気が振動した。次の瞬間、秋紀を中心に地面に血のように赤い魔法陣が描かれ、地面からビルの壁へと縦横無尽に広がっていく。禍々しい光景と不穏な予感に御堂は一歩足を引こうとしたが、あっという間に足元を這うように広がった魔法陣に御堂は取り囲まれていた。

 

「なんだ、これは……」

 

 鬼畜妖精が御堂の横で焦ったような声を出した。

 

「旦那、やばいでやんす! クラブRが召喚されるでやんす! 早く逃げて……っ」

「クラブR? ――うあああぁっ!」

 

 御堂の足元の地面が崩壊した。瞬く間に御堂は魔法陣の中に呑み込まれていった。そして、次の刹那には御堂も鬼畜妖精も、そして秋紀の姿もそこになく、薄暗い路地と何人もの男たちがそのままの姿で残されていた。

 

 

 

 御堂はまぶしさに目を覚ました。

 今どこにいるのか分からなくなり、周囲を見渡して絶句した。そこはスタジオとしか言いようのない部屋だった。真っ白な天井と壁。部屋の四方には大きなライトが設置されて、御堂を照らしている。そして、御堂は部屋の真ん中の大きなベッドに拘束されていた。両手をまとめて頭上に戒められ、首には首輪。太ももにもベルトが巻かれて、そこから伸びた鎖が御堂の首輪につなげられている。その鎖が短いせいで、御堂は大きくM字開脚した体勢になってしまっていた。

 

「なんだ、これはっ!?」

 

 拘束を振りほどこうと四肢をばたつかせるが御堂を戒める拘束はまったくびくともしない。その時、頭の中に声が響いた。鬼畜妖精だ。

 

「旦那、大丈夫でやんすか?」

「大丈夫なものか! どうにかしろ!」

「旦那は今クラブRに囚われたでやんすよ。あっしは魔法スティックと一緒に弾き飛ばされたでやんす」

「クラブR? このスタジオのことか?」

「スタジオになっているでやんすか。クラブRは、怪人の欲望を具現化した異空間でやんす」

 

 その異空間に御堂は取り込まれてしまったらしい。

 

「いいから早く助けに来い!」

「今頑張って向かっているでやんす! もうちょっとそこで頑張ってくれでやんす~」

「おいっ!」

 

 まったく頼りにならない声が頭の中に響き、ぷつりと途切れた。

 その時だった。スタジオに一人の人影が現れた。秋紀だ。エナメルのコルセット姿のまま、妙に明るいテンションの声を上げながら、さっそうと御堂の方に歩み寄っていく。

 

「はーい、『アキちゃんねる』を見てる皆さんこんにちは! アキでーす!」

「おい……っ!」

 

 秋紀は御堂を無視して、明後日の方向に手を振る。秋紀が手を振るその先を見て、御堂は言葉を失った。御堂と秋紀にはいくつものカメラのレンズが向けられていた。自動で動いているのか、秋紀の動きに合わせてレンズが動く。そして、天井から吊り下げられている大型モニターには秋紀が映り、『ライブ配信中』の文字が点滅していた。そしてその横にある数字は視聴者の数だろうか。まだ、二桁の数だったが次第に数を増やしている。血の気がすうと引いた。

 

「まさか、動画配信中なのか……?」

 

 秋紀はカメラに向けて話を進める。

 

「今日はなんと特別ゲストに来てもらっちゃいましたー!」

 

 いくつものカメラが一斉に御堂の顔へと向けられた。

 

「魔法少女エネマキュアちゃんでーす!」

「よせっ!」

 

 御堂の顔がアップで映る。とっさに御堂は顔を背けたが、モニターには御堂が大写しになった。

 

「エネマキュアちゃん、ようこそ!」

 

 秋紀が天真爛漫さそのままのような笑顔を向ける。御堂は羞恥と憤怒に顔を赤くしながら吐き捨てた。

 

「ふざけるな! こんな茶番、直ちにやめろっ!」

「エネマキュアちゃんは初めてのライブ配信で照れてるみたいだね~☆」

 

 どうにか拘束を解こうと激しく暴れるが鎖がガチャガチャと不愉快な音を立てるだけでどうにもならない。秋紀はそんな御堂の様子を見ながらにっこりと笑った。

 

「今日はみんなと一緒に、エネマキュアちゃんのいろんな秘密暴いちゃおうね♪」

「馬鹿、よせっ!」

「まず、エネマキュアちゃんの自己紹介から。エネマキュアちゃんて歳いくつ?」

「やめろっ! 私を映すなっ!」

「エネマキュアちゃん、歳は言いたくないのかな~? もしかして、結構な歳だったりする?」

 

 秋紀の細く白い指がすうと御堂の頬を撫でた。秋紀の爪には真っ赤なマニキュアが塗られていて、妖しい色気を醸し出している。

 

「お肌すべすべだね。こっちはどうかな~?」

「私に触るなっ」

 

 秋紀の指が御堂の胸元のコスチュームにかかった。あ、と思ったのもつかの間、そのままびりっと破られる。

 

「あれ、エネマキュアちゃん、おっぱいないね☆ でも、チクビ、きれいなピンク色だ♪」

「っ、やめ……、ふぁっ!?」

 

 秋紀の指に乳首をきつくつねられる。途端に、ビクンと大げさなくらい身体が跳ねた。エネマキュアに変身した身体は、感度が高まってしまうのだ。秋紀が指の力を弱めて揉みこんでくると、じんじんとした疼きが乳首に宿される。あっという間に御堂の乳首は赤く尖った。

 

「みんな、エネマキュアちゃんのおっぱいどうしたい?」

「やめ……、ひっ、うあ、んんっ」

 

 秋紀が御堂の乳首を弄びながら、カメラに向かって尋ねた。その次の瞬間、モニター画面に多くのコメントがあふれ出した。

 

「そっかー☆ みんなエネマキュアちゃんのおっぱいもっといじって欲しいって♡ じゃあ、これ使ってみようか」

「くあ、よせ……っ、あっ、ふあっ」

 

 秋紀はニップルクリップを御堂の前に掲げた。それを御堂の尖りきった両乳首に挟む。思ったほどの痛みはなかったが、秋紀が手元のコントローラーのスイッチを入れた途端、ニップルクリップが震えだす。クリップで摘まみ上げられた乳首を絶妙な加減で刺激され、その刺激から逃げようと身体を捩じるが、クリップはしっかりと乳首に噛みついたまま離れようとしない。

 

「くぅっ、んあっ、は……っ、ぁあっ」

「エネマキュアちゃん、チクビいじられるの好きなんだ~☆ あれれ? エネマキュアちゃん、ここ、大きくなってきてるよ?」

「ひあ? 触るな……んぁあっ!」

 

 秋紀の手が御堂の股間に伸びた。魔法少女の白いショーツに覆われた股間は、形を持ち出したペニスのせいで大きくせり出している。

 

「あれ~? ここに恥ずかしい染みが出来ちゃってるよ?」

「ヒッ、ぁあっ」

 

 秋紀の指がショーツの上から亀頭の先端部をなぞり上げた。にちゃ、と濡れた音が立ち、先走りで濡れた布が亀頭に擦りつけられる。

 

「この布の中どうなってるか、みんな見たい~!?」

「止めろっ!」

 

 たまらずに叫んだが、秋紀の言葉に、モニター画面のコメントが一斉に溢れかえる。どのコメントも「脱がせろ」やら「見せろ」やら煽り立てるコメントばかりだ。

 

「じゃあ、エネマキュアちゃんの大事なところ、見てみよう☆」

 

 秋紀の尖った赤い爪が御堂のショーツを破った。猛ったペニスが窮屈な空間から解き放たれる。

 秋紀が「わあ」と歓声をあげた。

 

「エネマキュアちゃんのおち〇ぽ、すごい立派~! 形もきれいだし、太さもしっかりあるよね。ほら、見て。この血管すごいびくびくしてる!」

 

 慣れた手つきで根元から先端に向かって何度も撫で上げ、亀頭の張り出しを指の輪で弾く。そうして、張り詰めた亀頭を強く指の腹で擦られると、あっという間にこれ以上ないくらいに弓なりに反りかえった。

 

「ふぁ、ぁああ、よせ……っ! やだ……っ、んあ、あ、ひゃぁっ」

 

 秋紀が御堂のペニスを持って様々な角度からカメラに見せつける。いちいち説明口調なのは視聴者に伝えるためだろう。御堂の張り詰めた性器がカメラを通して、見知らぬ大勢の人間に鑑賞されている。それを思うだけで、ぞわぞわとした痺れが身体を駆け抜けた。

 

「ねえねえ、エネマキュアちゃん。これ、どれくらい使いこんでるの? まさかDTってことはないよね?」

「そんなこと言えるかっ! ……ひぅあっ、は……ぁ」

「ふうん。言えないんだ?」

「ひっ!? ふぁ、あああっ」

 

 秋紀の細い指が御堂の先端の切れ込みを強く擦り上げた。秋紀の指が上下するたびに、苛烈な快楽の波が御堂の全身を駆け巡る。

 

「そんな気持ちよさそうな声を上げて。エネマキュアちゃんのおかげで、視聴者いっぱい増えてるよ♡」

「んあ……?」

 

 秋紀が自分たちに向けられたモニター画面を指さした。そこには御堂の股間と御堂がみっともなく喘ぐ姿が大写しされている。それだけではなった。画面の右上にはこの恥ずかしい生配信の視聴者数が表示されている。その数はとどまることを知らずに、どんどん数を増していってた。

 

「エネマキュアちゃんのおち〇ぽのおかげだね☆」

 

 卑猥な言葉を繰り返しながら、秋紀が御堂のペニスを扱く速度を早くする。巧みな手淫にしびれるような疼きが下腹部に流れ込んでいく。

 

「先っぽ、エッチなお汁出てきてるよ? 舐めてあげる♪」

「ぁあっ、あ、」

 

 先端の割れ目に、秋紀がチュッと音を立てて口づけをする。にじみ出る先走りを吸い上げると、尖らせた舌を小孔にねじ入れてきた。

 

「ひっ、あ……、やめ……っ、いっ、やはぁあああっんんっ」

 

 根元を指で刺激されながら亀頭を吸い上げられ、あっという間に燃え上がるような悦楽に包まれる。こうして射精寸前まで追い込まれたペニスから秋紀は口を離した。

 

「すごい、びくびく震えてる~。これ、出したい?」

 

 そう問われて、思わず大きくうなずいた。だが、御堂を見つめる秋紀の唇がいびつに吊り上がる。

 

「でも、だーめ! せっかくだから、もっと一緒にいいことしよう☆」

 

 そう言って、秋紀はカメラへと顔を向けた。両手を前に出し、愛らしいポーズを作って、宣言する。

 

「エネマキュアちゃん、後ろだけでイけるかチャレンジ!」

「何!? やだ、あ、ひあ……んっ!」

 

 秋紀がどこから用意したのかローションを手に持つと、御堂の股間へと振りかけた。ひんやりとしたローションが熱くなったペニスを伝うのが気持ちいい。たっぷりとそそり立つペニスを濡らし、ローションはアヌスへと到達した。

 秋紀がローションを置き、両手で御堂の尻肉を掴み、股間を大きくさらけ出す。

 

「ここがエネマキュアちゃんのお尻の穴です。さあ、みんなに見てもらおうね♡ ほら、くぱぁっ!」

「あぁっ!? やだっ、よせっ! ん――ッ、ふぁっ」

 

 秋紀の指が御堂のアヌスの縁にかかり、容赦なく拡げられた。中の熟れきった赤い粘膜がモニター画面に大写しになる。視聴者コメントが一斉に「クパァ♡」で埋め尽くされた。見るに堪えない卑猥なコメントがモニター画面に溢れかえる。

 大勢の視聴者に、自分でさえ見ることのない身体の内側を覗き込まれている。あまりの恥ずかしさに死にたくなるが、もちろんこれくらいでは済まなかった。

 

「じゃあ、エネマキュアちゃん、これ入れてみようか☆」

「んあっ? や……っ、はぁっ、んんんっ」

 

 秋紀が取り出したのは卵型のローターだった。ローションにまみれたローターは御堂のアヌスに押し当てられると、ぬぷりと容易く中に潜り込んだ。

 

「一個じゃ足りないよね~! もっと入れてみよう♪」

「ああっ、も……、そんな…、ぁああっ」

 

 同じ卵型のローターを二個三個と入れられる。四個目のローターが御堂の中に押し込まれたときは、へその裏まで異物感がせり上がってきていた。

 

「スイッチオンッ☆」

「はあっ! や…ッ、んあっ、あ、あああっ!」

 

 秋紀がローターのスイッチを入れた。腹の深いところでローターが蠢きだす。ローター同士がぶつかり合い、不規則に動きながら、御堂に絶え間ない刺激を与え続けた。そのローターの一つが前立腺を抉った。

 

「ひゃあああん!」

 

 ゴリゴリと気持ちいところを抉られて、がくがくと膝が震える。苦しかったはずなのに、快楽の波紋が次々と弾け、御堂の肉体はこれまでになく熱くなっていった。あられもない声をあげて、刺激から逃れようと腰を淫らに振り立てる。

 

「気持ちよさそうだね、エネマキュアちゃん。でももっと気持ちよくならないとイけないよねっ☆」

 

 といいながら、秋紀が次に手にしたのはアナルパールだった。

 つぷん、つぷんとアナルパールの玉が御堂の中に収まっていく。玉は次第に大きくなっていき、御堂のアヌスが目いっぱい引き延ばされて根元の大きな玉が押し込まれると、御堂は苦しさに喘ぐことしかできなくなった。

 そして、秋紀は容赦なく、アナルパールのスイッチも入れる。

 

「ふぁ!? ひぐぅ、はぁぁぁあああんっ! やめ……、ヒッ、くぁあ、あ」

 

 アナルパールがぐねぐねとうねりだし、御堂の体内のローターをかき回し始めた。熱く熟れきった肉襞をローターとアナルパールがぐりぐりとこすり上げ、気を失いそうなほどの狂おしい快感に御堂は我を忘れて声を上げ続けた。一切触れられていない御堂のペニスは壊れたように先走りを垂らし続けている。

 発情しきった身体の中からも外からも鮮烈極まりない快楽を与え続けられて、もはや我慢できない域まで追い込まれる。

 悦楽に潤む眸でモニター画面を見れば、この配信をリアルタイムで視聴する人間の数は数千人となっていて、とどまることを知らずに増え続けている。

 こんな痴態を無数の人間に見られるなんて、屈辱しかないのに、それを思うだけでもねじくれた快楽が御堂をいっそう善がらせてしまう。

 

「もうそろそろイっちゃいそう?」

「嫌だ……あ、んっ、イきたくない……っ、ぁあっ、も……、くふぅっっ!」

 

 射精の瞬間が近づいている。それでもどうにか、込み上げてくるものを堪えようとして、内腿が震えた。だが、力を籠めるほど、異物にきゅっと粘膜が絡みつき、さらに強く刺激を感じてしまう。

 

「じゃあ、お手伝いしてあげる☆」

 

 親切なそぶりで言いながら秋紀がいくつものコントローラーを次から次へといじくった。乳首のクリップやローターがさらに強くなり、狂おしい愉悦となって御堂に襲い掛かった。

 

「ひぃああああんんっ!」

 

 悲鳴のような声をあげて、腰を高く突き上げた次の瞬間、天井を向いてそそり立っていたペニスがびゅくりと震えた。びゅるっと音をたてる勢いで、精液が迸る。何度かに分けて噴き出した精液は、そのあとも、ペニスの脈動に合わせてダラダラとこぼれ続けた。

 

「ぁ……あ……」

 

 あまりにも苛烈な絶頂に頭の芯が焼き切れてしまったかのようだ。

 そんな御堂を前に、秋紀が意地悪な声を出す。

 

「子どもにこんなにイかされて、エネマキュアちゃんは悪い大人だね! お仕置きしないと☆」

 

 そう言って秋紀は御堂の顔の上を跨ぐように四つん這いになった。

 秋紀のコルセットの上からのぞくピンク色の可憐な乳首はとがり切っている。白肌はなまめかしく紅潮し、秋紀もまた御堂の痴態に発情しているのだと知る。

 

「僕もエネマキュアちゃんのせいでエッチな気分になっちゃった♡ エネマキュアちゃん、責任取ってよ!」

 

 そう言いながら、秋紀が自分のビキニパンツをずらした。ぷるんと秋紀のペニスが弾み出る。御堂のよりも細身のペニスは色も桜色で、色味の強い先端には透明な雫が滲んでいる。

 

「僕のおち〇ぽ、舐めて♡」

 

 シックスティナインのような体勢で、秋紀のペニスを口元に押し付けられる。絶頂に朦朧とした意識で口を薄く開くと、秋紀のペニスがねじ込まれる。

 

「ん……っ、ふぁっ」

「ぁ……♡ エネマキュアちゃん、気持ちいい♡」

 

 半ば無意識に秋紀のペニスに舌を絡めてちゅぱちゅぱと音を立てながら吸い上げる。秋紀が気持ちよさそうに腰を揺らめかして、御堂の口腔内を犯してくる。

 

「ふぁ……っ、んあ? はぁああっ」

 

 無心に秋紀のペニスをしゃぶっていると、射精後の敏感になっている御堂のペニスに秋紀の指がはい回った。裏筋から陰嚢までを撫でおろし、亀頭の根元を擦り上げる。明らかに射精を促す動きだ。

 

「も……無理っ、触るな……ふぁっ」

「エネマキュアちゃんはしっかり僕のしゃぶってて!」

「んふぅっ、はあっ、あっ、んんん」

「ん……っ、エネマキュアちゃん、一緒に気持ち良くなろ……っ♡」

 

 秋紀を制止しようと上げた声は、すぐに秋紀のペニスを口内深くねじ込まれて塞がれる。

 御堂から与えられる口淫に秋紀は可憐な身体を身もだえさせながら御堂のペニスを扱き続けた。視聴者のことも忘れて、二人して快楽の波に呑み込まれていく。

 赤いエナメルのボンデージ姿の秋紀と、可憐な魔法少女の衣装をはだけさせた御堂。その二人が淫らに絡む姿に、モニター画面に映る視聴者の数はとどまることを知らず、おびただしい数のコメントが読みとることができないほどのスピードで流れていく。

 痛いほど張り詰めた勃起の奥から、熱く煮えたぎった何かがこみあげてきた。

 

「んあっ、身体が、変……っ、や、出る……っ、んはぁっ、らめっ、ぁ、ああああっ」

 

 今までとは違う熱が精路を鉄砲水の勢いで駆け上り、シャワーのように噴き上がった。

 ガクガクと全身が震えだし、宙を蹴る足先が突っ張って爪先がギュッと丸まる。

 激烈な感覚に堪えようにも堪えきれない。喉を反らせて、ヒッ、とイきむ度に、ビュルッ、ビュルッ、と透明な体液がペニスの頂から噴き出した。

 

「わぁ! すごーい! エネマキュアちゃん潮吹いてる♡」

「っ、ぁああっ! よせっ、や、とまらな、いっ!!」

「あ、あんっ、僕もイっちゃうっ!」

 

 口の中にあった秋紀のペニスが跳ねた。熱い飛沫が口の中から顔までかかる。

 秋紀の精液を浴びながらも、御堂の潮吹きは止まらなかった。びしゃびしゃと聞くに堪えない音を立てながら、透明な液体は御堂の顔や胸をしとどに濡らしていった。

 たっぷり放った秋紀が、ようやくモニターに目を向けた。そこにある数字を確認するなり、歓声をあげて、うれしそうに手を叩いた。

 

「わあすごい! 視聴者数一万人突破してる! みんな高評価とチャンネル登録よろしくね☆」

「ん……ぁ、あ……」

 

 秋紀の精液と自分の放った体液に塗れた顔がモニターにアップされる。こんなはしたない姿を一万人もの人間の前に晒されたのか、と思うと憤死レベルなのに、あまりにも気持ちよすぎてそんなことどうでもよくなってくる。秋紀がゆるりと御堂のペニスを扱いた。そのたびにぴゅるっと精路に残った残滓が吐き出される。

 その時、頭の中でなじんだ声が響いた。

 

「御堂の旦那、しっかりして!」

 

 鬼畜妖精の声だった。

 

「やっとここまで魔法スティックを持って来たでやんすよ! ほら、早く、必殺技使って! エネマスプラッシュと叫ぶでやんす!」

 

 朦朧とした意識のまま、鬼畜妖精が告げた必殺技を復唱する。

 

「エ……エネマスプラッシュッ!!」

 

 叫んだ声にエネマグラ型魔法スティックが応えた。時空を超えて御堂の前に届けられた魔法スティックは燦然と輝きだす。

 

「何!?」

 

 秋紀が驚いた声を上げた瞬間、凝縮された光が弾けた。光は無数の針となって五月雨のように降り注ぐ。それだけではなかった。光の針はあちらこちらで跳ね返り、そして標的を見つけたかのように四方八方へと飛散した。

 

「きゃあっ!」

 

 秋紀が光の針に貫かれて悲鳴を上げる。秋紀だけではなかった。御堂の痴態を映していたモニターもカメラもすべてを光の針が貫き、砕く。そして、光はその先へと輝線を描いていく。

 無数の光に見渡す世界が白く灼けた。パリィンと何かが割れる音がして、視界に亀裂が走る。光の針に貫かれた空間が瞬く間に崩壊し始めたのだ。

 

「クラブRが崩壊するでやんす!」

 

 鬼畜妖精が叫ぶ声が聞こえた瞬間、視界が暗転した。

 ふっ、とあたりが暗くなった。

 身体に重力がかかる。

 気が付けば御堂は元居た歓楽街の裏路地に立っていた。激しい絶頂の余韻はいまだ身体の中にくすぶっていて、がくりとその場に足をつく。

 

「今のは……?」

 

 今まで使ったことのない技だった。エネマフラッシュとは比較にならないほどの魔力を使ったような実感がある。

 隣でパタパタと羽音がして、鬼畜妖精が姿を現した。

 

「エネマスプラッシュ、超広域魔法でやんす。キチク眼鏡の魔力をどこまでも追尾して攻撃する必殺技でやんす」

 

 鬼畜妖精が御堂に向けてウインクする。

 

「あの中継を見ていた人間すべて、エネマキュアの記憶は消去されたでやんすよ」

 

 その言葉に胸を撫でおろす一方で、御堂は秋紀の姿を探した。

 

「あの子は……?」

 

 あたりを見渡せば御堂の視線の先の暗い路地に、秋紀が倒れていた。赤いエナメルのコルセット姿ではなく、ノースリーブのパーカーにジーンズといった、秋紀の元々の服装そのままだ。

 伏せられた顔には眼鏡がかかっていた。その眼鏡にピシリとひびが入る。そして、あっという間に粉々に砕け散った。

 

「さ、勝ったでやんすから、さっさと退散するでやんす!」

「おい、ちょっと待て」

 

 御堂の制止も聞かず、鬼畜妖精の光る鱗粉が二人を包み込み、この場から存在を消し去った。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 佐伯は、突如としてパソコンのスクリーンから襲い掛かる光を、両腕で顔を覆い、防いだ。薄暗い部屋の中が閃光で包まれる。その光は次第に薄れ、佐伯はゆっくりと腕を下げた。

 辛うじてダメージの直撃は免れたが、パソコンのスクリーンは白く焼けて、パソコン本体からは焦げ臭い煙が上がっている。これではもう、使い物にならないだろう。

 このパソコンもキチク眼鏡の魔力がかかっていた。異世界であるクラブRとこの世界をつなぐ中継サーバーの役割を果たしていた。だから、魔法少女の攻撃をもろに食らったのだ。

 その時だった。部屋の片隅から声がかかった。

 

「我が王、お怪我は?」

「問題ない」

 

 部屋の薄闇がゆらりと形を成し、一人の男が現れた。Mr.Rだ。佐伯は平然と返し、デスクの前の椅子から立ち上がった。デスクの上にはパソコンだった残骸がいまだぶすぶすと煙を上げている。そのパソコンに触れようとしたところで、Mr.Rが克哉を押しとどめた。

 

「それにはまだ魔法少女の魔力が残っています。後始末は私めが……」

「ああ」

 

 Mr.Rが人差し指を立てた。そこにふっと息を吐きかけると、その吐息は闇色に染まり、佐伯のデスクの上を覆いつくした。そのまま、すっと色を失い、パソコンごと掻き消えていく。

 その一連の様を佐伯は眼鏡のブリッジを押し上げながら見届けた。あの光を受け止めた腕が鈍く痛む。

 それは、あまりにも強大な魔力だった。

 正直、あの魔法少女に、そこまでのポテンシャルがあるとは想像もしていなかった。

 秋紀のキチク眼鏡、そしてそれを操る佐伯の力を辿り、魔法少女の光はここまでたどり着いた。だが、あの必殺技にトレーサー(追跡子)を仕込む余裕はなかったとみえる。トレーサーが仕込まれていたら、この部屋の位置も、佐伯の正体もバレていたかもしれない。

 

「面白いじゃないか」

 

 敵がいた方がゲームは楽しめるのだ。簡単すぎてつまらないゲームなど飽き飽きしている。魔法少女エネマキュアとやらはゲームの参加資格を満たした。

 

「さあ、ゲームの始まりだ」

 

 佐伯は唇の端を吊り上げて嗤いだした。

 Mr.Rもまた、そんな佐伯を目にして密やかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 そして、翌日。

 

「では、彼のことをよろしく頼む」

 

 MGN社の執務室。御堂は、そう言って電話を切った。

 

「今のは、誰でやんすか?」

 

 電話を切るなり、蝙蝠の翼がはためき、御堂のデスクの上に鬼畜妖精が降り立った。先ほどの御堂の電話を盗み聞きしていたらしい。御堂は鬼畜妖精を一瞥し、言った。

 

「知り合いの芸能事務所の役員だ。タレントの育成にも力を入れている。マイチューバーにも注目していて、須原秋紀の話をしたら興味を持った。彼さえ良ければ、彼の事務所所属タレントとなってサポートしてもらえる。それに……」

 

 と御堂は一拍おいて言った。

 

「子どもには保護者が必要だろう。近くで見守ってやる大人がいるべきだ」

「へ~~、意外と優しいでやんすね」

「優しい? 心外だな。当然のリスク管理だ。彼が何かしら問題を起こしてわが社と私に累が及ぶのは避けたいからな」

 

 ふんと鼻を鳴らす。

 

「本来ならば、専務自身が自覚を持ってもらいたいものだが」

 

 大仰にため息を吐いてみせる。今回は大隈を守るため御堂が事態の収拾に動いたが、この調子で実績を積み重ねていけば、近いうちに専務の椅子は御堂のものになるだろう。となれば、大隈は目の上のたんこぶだ。今回は幸いだったが、次、同じようなチャンスが巡ってくれば、御堂は怪人側を応援するかもしれない。

 不意に、御堂は怪人となった秋紀の姿を思い出した。

 キチク眼鏡をかけた秋紀は「すごい力をもらっちゃった」と言っていた。もらったということは、秋紀に力を与えた誰かがいるということだ。それは、誰なのか。

 今まで御堂が出会った怪人たちがつけていたキチク眼鏡、それはどこから来たのか。誰かが与えたものだろうか。意図的に怪人を作っている者がいるのだろうか。

 そう考えかけて、御堂は慌てて自分の思考を振り払った。

 魔法少女なんて御堂は微塵も認めてはいないのだ。だから、これ以上余計なことに頭を突っ込んではいけない。知りすぎることは危険だ。その世界に引き込まれてしまう。世の中にはいろいろな誘惑がある。その誘惑に乗るべきか否か、その線引きをきっちり引けるのはエリート必須のスキルだ。エリートたるものはリスク管理をきっちりするものだ。

 鬼畜妖精が執務室にかかる壁掛け時計を見て声をあげた。

 

「あ、御堂の旦那、もうすぐキクチ八課とのミーティングの時間でやんす」

「そうか、分かった」

 

 御堂はちらりと腕時計を確認し、椅子から立ち上がった。

 

 ――キクチ八課か。

 

 キクチ八課の一人の社員を思い浮かべた。ミーティングにはきっとあの男が来ているはずだ。

 どこか気持ちが浮き立つのを自覚しながら、御堂は執務室を後にした。

 

END

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