top of page
Out of Control

「そろそろ、今までのプレイでは満足できないんじゃないですか」

 

 その日、御堂の部屋に帰ってきた克哉は、ネクタイのノットに指をかけながら、拘束された御堂を見下ろして、そう言った。

 平然とした顔で馬鹿げたことを言い放つ克哉に、激しい怒りが湧いた。

 動けない状態で体内に淫具を埋め込まれ、勝手に達さないようにペニスを戒められて、朝からずっと放っておかれたのだ。

 憤怒に頬を染めながら克哉を睨み返したが、克哉はそんな御堂に気付かぬ体で、スーツのジャケットを脱いでハンガーにかけた。

 どうせ吊るしの安物であろうに、ジャケットの肩の位置がずれないように、ハンガーに合わせて丁寧に微調整するその仕草がいちいち癇に障る。克哉もそれを分かっているから、監禁して動けぬよう拘束した御堂の前で、スーツを着て、スーツを脱ぐのだ。

 シャツとスラックスの姿になると、克哉は御堂に歩みを寄せた。ゆっくりと屈んで、視線の高さを御堂に合わせた。

 

「マンネリ化して御堂さんに飽きられるのも嫌ですからね」

 

 含みを持たせた物言いに、今度は何をされるのか、と恐怖が背筋を這い上がっていく。だが、その怯えをおくびにも出さないように、克哉から視線を外さず睨み続けた。

 克哉の手が、御堂の開かれた脚の間に伸びた。

 

「ん、……くあっ」

 

 克哉は御堂の後ろからバイブをずるりと抜き取ると、ローションを塗した指を代わりに挿しこんだ。長時間異物を咥えこまされていたアヌスは痺れたように感覚を失っていたが、それでも克哉が指を動かせば、粘膜が蠢いてキュウッと克哉の指を締め付ける。

 

「く、ぅ……、抜け……っ」

 

 克哉は探るように指をくねらせ捩じりながら深く呑み込ませていくと、くちゅくちゅとローションを塗りこむように指を前後させた。卑猥な指の動きに、戒められているペニスがさらに重たくなった。放つことを許されず溜まり続ける欲望に、指を抜かれる感触にさえ、身体が物欲しそうにビクンと跳ねた。

 

「御堂さんのここがあまり緩くなりすぎるとお互い楽しめませんから、今日は細めのものにしましたが、丁度良い締まり具合ですね」

 

 自分の選択とその結果に、克哉が満足げに呟いた。

 今朝、挿入されたバイブは確かに昨日のものより一回り細めだった。自身を責め苛むバイブが日に日に太くなっていくことに恐怖を覚えていた御堂としては、ほんの少し安堵を覚えたのだが、それは決して御堂を慮った理由ではないと知る。

 

「この下衆が……っ!」

「そろそろ、欲しくなってきたでしょう?」

「誰が…っ、よせっ、触るなっ!」

「拘束を解いてあげるんですよ」

 

 憤りを嵩ませる御堂に、克哉は素知らぬ素振りで御堂の足を拘束していた金属のバーを外し、壁に繋ぎ止めていた鎖を解いた。克哉の手が剥き出しの肩を掴んだ。

 手錠でひとまとめにされた両手で克哉の胸を押し返し、暴れようとしたが、あっさりと押さえつけられて仰向けに転がされた。大きく脚を開かされて、その上に克哉が覆い被さっていく。

 

「来るなっ! やめろっ!」

「……またそれか。挿れられれば、すぐによがり狂うのにな」

 

 拒絶の言葉を軽く聞き流して克哉は、スラックスの前から漲った性器を取り出した。その切っ先が狙いを定める。克哉が猛禽類を思わせる鋭い双眸を御堂に向けた。獲物を目の前にしたような、残虐な笑みを口元に刷く。

 散々バイブに嬲られた窄まりに、息を呑むような重圧がかかった。

 

「く、あ、……ぁああああっ!」

 

 埋め込まれていたバイブとは比較にならない、灼熱の熱さの硬い凶器が埋め込まれていく。克哉が腰を沈めるたびに、ズンッと埋め込まれていく衝撃に、御堂は声を上げ続けた。克哉を呑み込まされるアヌスの皮膚は伸びきって、その下の媚肉が薄く透けるようだ。

 何度挿入されても慣れることはない。御堂の血の気を失った顔が、苦痛にさらに色を失った。より奥へと潜り込んでいく肉塊を拒もうと下腹に力を込めるが、その抵抗さえ克哉の快楽を煽るようだ。せり上がる圧迫感と苦痛に、身体をずり上げて逃げようとしたが、克哉の手が斟酌ない残酷な強さでもって御堂の腰を掴んで引き寄せた。

 着実に克哉のペニスを含まされていく。竿の半ばまで突き入れると、克哉は腰をスライドさせ始めた。真っ赤に熟れた粘膜がめくり上がり、克哉のペニスに巻き付いて中へと引き込もうとする。

 

「あ…、ああ…っ、んあっ」

 

 次第に滑らかでリズミカルになる動きに、肉体の苦しさに混じってある種の疼きが込み上げてきた。克哉が喉をククッ、短く鳴らして笑った。

 

「随分と気持ちよさそうな声を出しますね。俺の味を覚えましたか?」

「違っ! うあああっ! そこは……、はっ、や…だっ、くあっ」

 

 克哉の言葉を否定しようと首を振ったところで、克哉が抉る角度を変えた。途端に電撃のような痺れが身体の中心部を駆け抜けていく。

 言葉では否定しても、身体は克哉に馴染んでいく。

 克哉は御堂の腰を抱え、身体を折りたたむようにしてつながりを深めた。苦しい体勢と高まる圧迫感に喘ぐ。

 

「ぐ、う、う……ん、っ、ああっ」

 

 呼吸を荒げた克哉が抽送の激しさを増していく。それに引きずられて、御堂の苦悶に歪んでいた顔が淫蕩に解け始め、絶頂へと昇り詰めていく。拒絶と悦楽が縒り合わさって、どろりとした陶酔が沸き起こる。

 

「苦し……ぃっ!」

 

 尿道がヒクつき、射精の欲求が高まっていく。

 克哉が指を伸ばして、御堂のペニスの根元を戒める革のベルトを外した。そうして、御堂のペニスを握りこむと同時に、体重をかけて、体中の骨がたわむほどの重さで御堂を一息に貫いた。質量を持った肉の杭が身体の最奥にめり込んだ。

 

「や、はっ、……ん、あああああっ!」

 

 内臓が軋み、ひしゃげるような衝撃。たっぷりと溜めこんでいた白濁が噴出した。

 屈辱に塗れた射精を克哉によって導かれる。克哉が搾り取るようにペニスを扱く。その度にビュクッと白濁が克哉の指を濡らして滴り落ちた。

 男であることを否定されるが如く、体内を深く犯されて迎える絶頂は、抗いようがない。

 この恥辱の絶頂から抜け出そうと、身体の力を抜いた時だった。克哉がレンズ越しの鋭い眼差しを御堂に向けた。

 

「まだまだこれからですよ、御堂さん」

「ぐ……、ぅう…っ? くああっ!」

 

 灼けつくような刺激をペニスに与えられて御堂は目を剥いた。射精後の過敏なペニスを克哉は指を絡めて上下に扱き続けている。脈打つ筋を辿られ、亀頭の張り出しを弾かれる。ぱっくり開いた鈴口を指の腹で強く擦りあげられ、鋭い刺激に悲鳴を上げた。

 達したペニスを刺激され続けるのは、これまでとは全く次元の違う責め苦だ。萎えることを許されずに漲ったペニスに、自身の限界を超えた熱い奔流が流れ込んでいく。

 

「イき続けろよ」

 

 克哉が律動を再開した。まだ達してない硬いままのペニスを激しく突き立てられた。

 神経がスパークし、目の前に火花が散る。今までとは違う何かが精路を鉄砲水の勢いで駆け上り、シャワーのように噴き上がった。

 

「っ、ぁああっ! よせっ、や、とまらな、いっ!!」

 

 ガクガクと全身が震えだし、宙を蹴る足先が突っ張って爪先がギュッと丸まる。

 激烈な感覚に堪えようにも堪えきれない。顎を反らせて、ヒッ、とイきむ度に、ビュルッ、ビュルッ、と透明な体液がペニスの頂から迸る。

 

「初めてでこんなに潮を吹くなんて、才能があるんじゃないですか?」

 

 嘲笑しながらも克哉は御堂のペニスを扱き続ける。噴き出す潮の勢いは衰えることなく、失禁したかのような、おびただしい量の体液が、頭上まで飛んで全身や床に飛沫を散らしていった。

 克哉がぶるっと腰を震わせた。深く咥えこんだ克哉のペニスが激しく脈動し、精液を撃ち込んでいく。それさえも、更なる絶頂への呼び水となり、御堂は背を激しく反らせ、頤を真上に突き出すように仰け反った。

 

「ぅああっ、あ、や……っ、こ、われ…るっ! あ、やあああっ!」

 

 引くことのない波のように極みに攫われ続ける。降りることのできない強烈な絶頂に全身を灼き尽くされていく。身体をバラバラにされていくような、快感をはるかに超えた苦痛に弱々しい呻きを漏らした。底のない深淵に堕ちていく恐怖に、克哉の胸を押し返そうとした手は、縋りつくように克哉のシャツをきつく握り締めている。酸素を求めて呼吸を荒げ、喘いだ唇が細かく引き攣れた。

 それは数十秒という短い時間であったのに、果てのない、永遠にも似た圧倒的な体感だった。噴き出していた体液が勢いを失って途切れるとともに、御堂の身体から力が抜けて、克哉に穿たれている腰だけを残して、四肢が床に崩れ落ちた。

 ゼエゼエと乱れた呼吸が室内に響く。克哉が腰を引いてつながりを解くと、浮いていた御堂の腰が力なくへたり落ちた。

 涙に濡れてぼやけた視界が、徐々に光を取り戻し焦点を結ぶ。視界の真ん中に克哉の顔があった。眼鏡越しの眸に凍てついた情念を揺らめかせて。

 

「随分と派手な潮吹きだったな」

 

 そう言って、克哉は御堂に顔を寄せた。

 

「どうですか、御堂さん。俺に従う気になりましたか? あなたの態度次第では優しく扱ってやってもいい。」

 

 それは柔らかい口調でありながらも、粘ついたような声で言い含めてくる。

 答えを求めて視線を力なく彷徨わせた。薄暗い闇の中に、克哉の眼鏡のレンズが鈍く光った。

 抗う気力など欠片も残っていない。だが、こうまで追い詰められてプライドを打ち砕かれてもまだ、この男にだけは屈したくなかった。

 これはもう、生存本能なのかもしれない。この男の元に堕ちた時、御堂は死ぬのだ。この男への頑なな拒絶は生への衝動なのだ。

 ありったけの憎しみを駆り立てて、光を失いかけた眸に憎悪の炎を燃やし、克哉を睨み付けた。

 

「誰が、お前なんかに……っ」

「ふん、それなら続行だ」

「や、めろ……っ、ぅあっ、……はあっ!」

 

 両脚を抱え込まれて、克哉が体重をかけて伸し掛かってきた。

 弱り切った御堂の抵抗などものともせずに、肉を押し潰していく。克哉の勃起が、勢いそのままに媚肉にはまり込む。

 すると途端に身体は克哉に反応する。貫通された身体はあさましく克哉に媚びて、克哉のペニスに肉襞を絡みつかせて食い締める。肉が打ち付けられる度に、結合部から白濁が押し出されて、御堂が放った体液と混ざりあう。

 

「んあっ、や……め、ひぁっ、あ、ああっ」

 

 鼻にかかったような上擦った声が漏れた。克哉は唇の端を吊り上げて、手を緩めずに御堂を責め抜いていく。

 克哉を恐れる以上に、自分の身体が恐ろしかった。どんなに克哉に手ひどく扱われても、先行する苦痛に疼きがせめぎ合いだし、次第にめくるめく快楽が全てを支配していくのだ。体内を擦られ、抉られるたびに、肉襞の一枚一枚か甘美な電流が湧きあがり、爛れたような快楽の渦に巻き込まれていく。制御のきかない身体は、克哉が与える責め苦と悦楽に容易く屈してしまう。

 

「朝まで、まだたっぷりと時間はありますよ」

 

 狂気じみた輝きを放つ双眸に射すくめられて、御堂はすぐそこの闇に潜む被虐の快楽に、ぞっと身体を戦慄かせた。

 

 

 

END

bottom of page