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摘花

「御堂さん、今日は今までとは違う趣向を用意しましたよ」

 

 相対する男は、眼鏡のレンズの向こうからどこまでも冷ややかな眼差しを投げかけてきた。

 かけられた言葉に返事をせず、ありったけの憎悪を込めて睨み返したが、御堂の憎しみなどどこ吹く風の様子で、男の唇の端には薄い笑みが浮かんでいる。

 薄暗い小部屋で御堂は椅子に座らされていた。座らされている、と言っても、簡素な木の椅子に御堂はスーツ姿のまま拘束されていて、立ち上がることさえ叶わない。そして、向かい合ったビロード張りの瀟洒なアンティーク調の椅子に佐伯克哉が足を組んで鷹揚に座っている。

 それぞれの椅子に腰かける姿の差が、そのまま二人の立場の差を表していた。

 それでも、決して怯えを悟られぬように声に力を持たせて言った。

 

「佐伯、とっとと私を帰せ。貴様らの茶番に付き合う気はない」

「やだなあ、御堂さん。今夜の主役を帰すわけにはいきません」

「主役……だと?」

 

 主役という言葉に怖気が這いあがった。このよどんだ空気、どこからか漂う甘酸っぱい香り。ここがどこであるか、御堂の記憶の深いところに刻み付けられている。ここは、クラブR。御堂を性奴隷として扱い、恥辱と苦痛を与え続ける場所だ。

 佐伯がゆっくりと立ち上がった。たちまち、恐怖が湧きあがり全身が震えだす。今夜は何をされるのか、佐伯に叩き込まれた屈辱は御堂を震え上がらせるのに十分だった。だが、佐伯に膝を折るのは、どうあっても許容しがたい。だが、あからさまな抵抗は佐伯の嗜虐心を煽るだけだ。

 逡巡と拒絶の狭間で呻くように言った。

 

「また、私に……男たちの相手をさせる気か」

「男? いいや、今日はオスの相手ですね」

「何?」

 

 にこやかに返す佐伯に聞き返そうとしたが、それ以上の言葉を発する前に、佐伯は自分の背後にむかって「R!」と鋭く呼んだ。すぐに「ここに」と佐伯の後ろの扉が開いて、闇が人型に浮かび上がり、黒衣の男が姿を現した。Mr. Rと名乗った男だ。

 

「御堂を舞台に」

「かしこまりました」

「待てっ! 佐伯っ!」

「御堂、今日のショーを楽しみにしているぞ」

 

 佐伯は薄い笑みを張り付かせたままそう一言告げて立ち上がり、小部屋から出ていった。代わりに、Mr. Rが御堂に歩みを寄せる。

 

「私に近づくな!」

 

 鋭い声で威嚇するも、Mr. Rは動じることなく、御堂の首に首輪を嵌めて鎖をつないだ。どうあっても陽が沈むように、どうあがいてもショーは始まるのだ。抗いも空しく、御堂は舞台へと引きずられていった。

 舞台の中央で突き飛ばされた。肩を硬い床につく。起き上がろうとしたところで、複数の男たちに取り押さえられてジャケットを引き剥がされた。そのまま頭を押さえつけられて、膝と肘をついて四つん這いになる格好になる。立ち上がろうともがいているうちに両手に手錠をかけられて、その手錠を床から出ている突起に繋がれた。さらに足を無理やり開かされて、金属のバーで両太ももを固定された。腰を突き上げるような四つん這いの体勢で動けなくなった。

 舞台の緞帳はまだ上がっていない。今は下準備の段階なのだろう。だが、こんな屈辱的な格好をさせられて、どんな趣向が用意されているのか、想像すらできない。

 

「放せっ」

「いい格好ですよ、御堂さん」

 

 カツカツと硬質な音が響いて御堂の視界に磨かれた革靴が入り込んだ。佐伯だ。

 佐伯はゆっくりとした足取りで御堂の周囲をぐるりと一周すると、御堂の背後に回り込んだ。腰を掴むと、手早くベルトを外して、御堂のアンダーごとスラックスを太腿のところまでずり落とした。

 陽の浴びることのない白い臀部が剥き出しになる。その輪郭を佐伯の大きな手が撫でまわした。その手の感触に怖気が込み上げるが、同時にぞわぞわとした皮膚の下に何か蠢くような得も言われぬ体感が産まれてくる。それに意識をむけないようにして身体を硬くした。

 

「私に、触るな……っ!」

「相変わらずの反応だな。あんたがその意地をどこまで通すことが出来るのか、楽しみだ」

「……っ、ひあっ!」

 

 不意に尻の狭間にとろみのある冷たい液体が垂らされた。たっぷりと垂らされた液体に塗れた指が、御堂の窄まりの襞をなぞり、中に入り込んでくる。

 

「ぁぁっ、よせ……っ」

「今日の相手は、あんたにはちょっと辛いかもしれないからな。事前にしっかり準備をしてやる」

 

 不穏な言葉をつぶやきながら、佐伯の指が御堂のアヌスを懐柔していく。二本目の指が入り込み御堂のアヌスを歪めた。その隙間から、尻を濡らした液体をさらに注がれていく。くぷり、と御堂の窮屈な穴が液体を呑み込むたびに、次から次へとつぎ足されて、下腹の奥に流れ込んでくる液体の不快さに御堂は眉を顰めた。だが、すぐに肌がじわりと熱をもってきた。同時に疼きが下腹部を重くする。何か媚薬のようなものを使われたことを感覚的に理解した。

 

「んぐ……、こ、れは……」

「媚薬と、ある種のフェロモンだな。相手の発情を誘発する」

 

 佐伯の言葉を理解するより前に、事務的な動きで御堂の中を掻きまわしていた指が引き抜かれた。中途半端な熱を与えられ、抜かれる指の切なさに、思わず上げようとした声を喉で押し殺す。

 佐伯が小さく笑って、宣言した。

 

「さあ、ショーの始まりだ」

 

 何かが回転するような振動が響き、重い緞帳が引き上げられていく。同時に御堂は歓声と拍手に包まれた。真上から眩しいほどの光が降り注ぐ。尻を掲げた身動きの取れない恥ずかしい体勢にスポットライトが当てられているのだ。

 

「やめろっ!」

 

 発作的に叫んだが、御堂の抵抗は客を喜ばせるだけだ。観客の視線が御堂に集中し、肌が燃え上がる。こんなことは決して望んでいないのに、見られていると思うだけで淫らな感覚が御堂の全身の毛をそそけ立たせた。

 これからどうなるのだろう。

 客たちの前で佐伯に犯されるのだろうか。

 それとも、この客たちに犯されるのだろうか。

 全ての感覚を研ぎ澄まし、周囲を窺う御堂は不意に場違いな異臭を感じた。汗や尿を煮詰めたような、不快極まりない獣じみた匂いが次第に濃くなっていく。それは背後から漂うようで、御堂は不自由な体勢のまま肩越しにその臭いの主を探した。すると、舞台の袖からなにやら蠢く肉の塊が姿を現した。フガフガと鼻息荒く、太い胴回りの肉が動くたびに重たげに揺れる。のっそりと蹄の音を鳴らしながら舞台に上がってくるピンク色の獣を見て、御堂はヒッと鋭く息を吸った。

 

――豚?

 

 そう、それはまさしく豚だった。短い脚はたるんだ肉に埋まり、その背丈は御堂の腰までもないだろう。だが、肉付きの良い図体は太く、体重は御堂の倍以上ありそうだ。ピンク色の肉そのままの肌には細かな毛が生えて、垂れ下がる耳と御堂に向けられる顔は醜く緩んだ口許からは、だらしなくよだれが垂れている。

 舞台の傍らにMr. Rが立って客に向かって世にも恐ろしい口上を述べ始めた。

 

「さあ、お客様。ようこそクラブRへ。今宵のショーは高貴な人間の男と醜い豚の交わりをご覧に入れましょう」

 

 Mr. Rの抑揚がかった声が客席に向けられると一斉に歓声が沸いた。

 そして、そのMr. Rの言葉は御堂に氷水を浴びせたような戦慄を走らせた。

 

――私が、豚と……?

 

 そうこうしている間に豚が一歩一歩御堂に近づいてくる。落ちくぼんだ小さな黒い目は感情を宿さずに御堂を真ん中に見据えている。

 佐伯のことだ。自分に対して酷い恥辱を与えるのは間違いないと思っていたが、まさか、こんな醜悪な家畜の相手をさせるなどとは夢にも思っていなかった。

 御堂は息を詰めながら必死で豚から遠ざかろうとした。だが、床に繋がれた手錠はジャラジャラと不快な金属音を鳴らすだけでまったく動かず、秘所を露わにされた下肢は体勢を変えることさえ叶わない。近寄る豚の鼻息が御堂の尻を撫でた。その湿った感触に思わず悲鳴を上げた。

 

「佐伯っ! やめろおおぉっ! 豚は嫌だっ!!」

 

 佐伯は御堂の視線の先で片手に乗馬鞭を持ち、もう片手はズボンのポケットに突っ込んで、悠然と突っ立っている。調教師の役回りなのだろう。必死の御堂の悲鳴を耳にし、佐伯は御堂の前に片膝をついて上体を屈めた。乗馬鞭の先で御堂の顎を掬う。

 

「御堂、あんたは普段、目下の人間を蔑んできただろう? 人を人とも思わぬように扱って、なんとも思わなかっただろう? たまには自分がそのように扱われてみたらどうだ?」

「私は、……こんな、ことを他の人間に強いたことはないっ」

 

 確かに、御堂は能力のない人間を侮蔑していた。自分の視界にそんな人間がいること自体が許せなかったし、無能な人間を積極的に排除してきた。それに対して、後悔をしたことも反省をしたこともない。だが、佐伯が御堂に行おうとは、御堂が行ったことの報いにしては度が過ぎている。人間ではない、獣と、それも普段食用にしている家畜と交尾させようとしているのだ。

 理解を超えた事態に、これが現実だと認識することが出来ない。豚の方を見ないようにして、佐伯になりふり構わず訴えた。

 

「佐伯、早くあの豚を遠ざけてくれっ! こんなのは質の悪い冗談だ」

「冗談? 冗談かどうか、豚をよく見てみろ、御堂。アレはあんたを見て盛っているぞ」

 

 そう言われて、恐る恐る豚の方を振り向いて、瞳孔が開ききった。豚の後ろ脚の間にぶら下がる巨大な陰嚢とその手前にある黒い棒状の影。それは紛れもない豚の性器で、存在感を主張するように漲っている。そしてそれは御堂が見知った人間のものとは全く形を異にしていた。亀頭にあたる先端の隆起はないが、ネジのようにらせん状のペニスは伸ばせば、人間のものよりも格段に長くなるだろう。本来なら豚のペニスは細いはずだが、御堂が目にしているそのペニスは子どもの手首ほどの太さがあり、先端からぬらつく液体がだらだらと床に垂れていた。この豚は人間を犯すように特別に創り出された豚であったが、御堂はそんなことを知る由もない。

 ここにはメス豚はいない。明らかに御堂に対して欲情しているのだ。佐伯が喉で笑った。

 

「あんたの尻に塗った液体。あれは、媚薬とメス豚のフェロモンが混ぜられているんだ。あの豚はあんたと交尾する気なんだよ」

「嫌だぁっ! 近寄るなっ!!」

 

 最早、佐伯の言葉は聞こえていなかった。豚の鼻面が御堂の開かれた尻の間に突っ込まれたのだ。フグッ、ブヒィと豚の鳴き声が尻に直接打ち付けられる。豚の醜悪な顔の肉が、御堂の尻たぶに押し付けられた。御堂のアヌスの匂いを嗅ぎまわり、熱い鼻息を吹きかける。豚の息はどんどん荒くなっていって、興奮が高まっていることが分かった。その時、濡れた肉厚の舌が御堂のアヌスの周囲をべろべろ舐め始めた。

 

「ひあっ、あっ、よせっ! やめろっ!」

 

 べちゃべちゃと生臭い唾液が淫猥な音を立てた。御堂のアヌスかに注がれた液体を美味しそうに舐めて啜っている。すぐに舐めるだけじゃ物足りなくなったのか、御堂のアヌスに舌を突っ込みだした。人間の舌とは比べ物にならないほどの肉厚で長い舌が、御堂のアヌスをほじり始める。熱いぬらぬらした粘膜が御堂のアヌスをこじ開けつつ入り込んでくる。豚の舌が前後してじゅぷじゅぷと空気を潰す音を響かせる。それはまさしく豚の舌に犯されている状況だったが、媚薬で過敏になった粘膜は豚の舌に強く擦られ抉られて、痺れるような刺激を生み出していった。

 豚から逃げようと、腰をさらに浮き上がらせるが、豚は執拗に御堂のアヌスを狙い続ける。豚に舐められる度に尻が揺らめいて、それが豚を誘うような卑猥な腰の動きになって、観客たちの失笑を買ってしまっていることに御堂は気付いていない。

 豚に嬲られる様を間近で逐一見ていた佐伯が、喉を低く震わせた。

 

「御堂、豚に愛撫されて感じているのか」

「な……っ、これは、違うッ!」

「じゃあ、これはなんだ?」

「ふぁっ、あ、やめ……っ」

 

 佐伯が鞭の先を御堂のペニスの先端に触れさせた。豚の舌に散々アヌスをしゃぶられて、ほじられて、御堂のペニスは触れられてもいないのに、硬く勃起していた。佐伯が鞭の先で御堂のペニスをなぞるとぶるっと震えたペニスから透明な先走りが滴り落ちた。「違う、違う」と首を振った。豚に舐められて欲情するなどあり得ない。だが、御堂の身体は、豚によって快楽を感じていることを露骨に示していた。

 御堂の発情を察したのか、豚が一層激しく御堂の尻を貪り始めた。豚の熱い鼻息が御堂の肌を灼き、硬い舌が心得たように御堂の感じるところを抉り抜いていく。舌が抽送するたびに、粘り気のある唾液が泡を弾けさせながら御堂の内腿を伝い落ちていった。生き物ならではの熱、こすれ合う粘膜、巧みで強い動きに、悦楽が積み上がっていく。

 

「や……っ、んあっ、こんな……よせっ、豚、ごときにっ。あ、……ぁっ、あああああっ!!」

 

 決して弛むことのない責めに、ついに快楽がスパークした。醜悪な豚に極みへと追いやられる。御堂は背を反らせて、びゅくっと大量の精液を迸らせた。どっと観客がざわめく。

 ぜえぜえ、と呼吸を荒げた。愉悦の波が引いてくると、舌を噛み切りたいほどの恥辱に襲われた。豚にイかされた瞬間を多くの客に見られたのだ。

 

「派出なイきっぷりだったな」

 

 侮蔑の言葉を投げかける佐伯に涙に濡れた眸で射殺さんばかりに睨み付けた。佐伯に対する憎しみと怒りを途切れさせた瞬間に、自分自身の存在が膝から崩れ落ちてしまいそうだった。

 そして御堂が絶頂を迎えたことに満足したのか、豚はあっさりと御堂の尻から顔を離した。御堂の開かされた脚の間に顔を突っ込み床に散った御堂の精液をベロリと美味しそうに舐めとっていく。

 そんな豚を目にして嫌悪に塗れながらも、豚の責めが終わったことに胸を撫でおろしたその時だった。Mr. Rが場違いなほど朗々とした声でアナウンスをした。

 

「忌まわしい豚によって絶頂を迎える人間の男、もはや、メス豚同然でしょう。豚もかの男が自分にふさわしいと番と認めたようです。さあ、これからが本番です。皆様、とくとご覧ください」

「な……っ!」

 

 御堂の精液を余すことなく舐めとった豚が御堂に覆いかぶさった。上質なシャツの生地に蹄が食い込む。御堂の肩甲骨の間をぺろりと舐めると、全身の毛がそそけ立った。御堂のアヌスに、熱い肉の先端が触れた。

 

「よせっ、やめさせてくれっ、お願いだ! 佐伯っ!! も…っ、無理だっ、許してくれっ。お前の……言うことを、聞くからっ」

 

 これから起こることの恐怖に必死になって佐伯に許しを請うた。もう、なりふり構ってなどいられなかった。男に犯されることだって断じて受け容れられることではなかった。それが獣に犯されるのだ。それも、醜い豚に。佐伯の靴を舐めろ、と言われても、今だったら従ってしまうだろう。それくらい、嫌悪と恐怖に襲われていた。だが、全身全霊の懇願にも関わらず、返ってきたのは冷ややかな眼差しだけだった。

 

「御堂、言っただろう? 俺はお前を従わせたいのではない。お前を壊したいんだ」

「佐伯……っ!」

 

 告げられた言葉がもたらす絶望に頭の芯が冷たく痺れて、身体の力が抜けた。その瞬間、御堂のアヌスにぐにゅっと豚のペニスが潜り込んできた。豚は短い後ろ足を踏ん張って伸ばして、腰をせり出してくる。ずるずると豚の長いペニスが御堂のアヌスを貫いてくる。

 

「ぐあ、あああああっ!」

 

 細かく前後しながら長いペニスが御堂の体内への奥深くへと侵入してくる。激しい嫌悪と衝撃に、抑えきれない悲鳴が迸った。豚の太いペニスを御堂のアヌスがいっぱいに広がって、どんどん呑み込まされていく。豚の舌によって執拗に嬲られたアヌスは柔らかく綻んで、豚のペニスを根元まで咥えこんだ。獣の柔毛が尻たぶにぴったりと押し付けられる。圧し掛かる豚の重みに呻く以上に、豚に犯されるという信じがたい現実に打ちのめされた。

 豚が耳元でフガフガ鳴いた。悪臭としか言いようのない吐息が吹きかけられる。そうして、豚は腰を動かしだした。粘膜をめくりながらずにゅっとペニスが引きずられて、勢いよく押し込まれる。

 内臓を押し上げられるかのような圧迫感に御堂は呼吸を上ずらせた。肉の交わりを味わうかのように腰を振っていた豚だが、突き入れられるたびにらせん状のペニスが伸びて、奥の粘膜をこじ拓いて進んでいく。まるで身体を串刺しにされるかのようだ。今まで誰も受け容れたことのない最奥を豚に蹂躙されていく。そしてそれは、未知の感覚を御堂にもたらした。擦られる粘膜が熱く疼いていく。それは媚薬の効果かもしれない。粘膜を灼熱に炙られているかのように、苦痛でしかなかった豚との交わりが御堂に歪んだ悦楽を与えていた。

 

「はあっ! 嫌だ……っ、もうっ、豚にイかされ、たくないっ」

 

 本能に従ってカクカクと腰を振り立てる豚が腰遣いの激しさを増していく。体内の深いところを掻きまわされながら、御堂のペニスからは半透明のとろみのある液体がとろとろと滴り落ちている。

 全身の骨が軋むほどの強い抉りこみと引き抜きに、抗う気持ちをとっくに挫かれていた。人間の男相手とは違う、獣の交わりに翻弄される。肉と肉が打ち合う音が舞台中に響き渡り、観客たちからぎらついた眼差しを向けられていることさえ忘れてしまう。

 こんなおぞましい交わりなど、到底許しがたいのに、御堂の身体はこの醜悪な獣に屈服しようとしていた。

 豚の腰の動きが切迫して小刻みなものになる。豚のペニスは伸びきって、御堂の腹の中をみっちり埋めている。張りつめた豚のペニスが大きく引き抜かれて、御堂の奥深いところに突き立てられた。内臓に響く衝撃。気付いたら御堂は絶頂を極めていた。同時に粘膜に締め付けられた豚のペニスがぶるっと震えて、咆哮と共に強烈な射精が始まった。それは、どっどっと音が響くかのように、大量な精液が御堂の腸内に注がれていく。それに呼応するように、御堂のペニスもびゅくびゅくと射精し続ける。熾烈な悦楽に脳が煮えたぎって、理性が溶け去ってしまった。

 

「や……っ、はあっ、くふっ、あ、……あああっ!」

「豚に犯されてイくなんて、本当にメス豚だな」

 

 佐伯が呟いた言葉に我に返って涙がこぼれた。だが、恥辱に塗れた顔はすぐに苦悶に呻くことになった。豚の射精が終わらないのだ。撃ち込まれた重たい精液が体内を埋め尽くしていくかのようだ。人間とは比較にならない圧倒的な量の汚濁が吐き出されていく。ぱんぱんになった腹からあふれ出そうにも、豚のペニスがみっちりと栓をして下腹が不自然に膨張していく。膨らんでいく腹の苦しさに、額から脂汗が浮き出ては滴った。

 おぞましい獣姦を見せつけられて、観客は固唾を呑んで御堂と豚の交わりを見守っている。ようやく豚が射精を終えて、腰を退いた。ずるずると体内から長いペニスが引きずり出されていく。やっと忌まわしい交尾が終わると思った寸前、豚のペニスがふたたび跳ねて、どろりとした液体を吐き出しながら交わりを解いた。

 豚は満足げに鼻を鳴らして、舞台の袖に引っ込んでいく。後に残されたのは、はだけたシャツの狭間から妊婦のように腹を膨らませて這いつくばった御堂だけだ。

 

「くるし……」

 

 ぱんぱんに張った腹の苦しさに御堂は喘いだ。大量の浣腸液を注がれたかのようだ。観客がいることも忘れて、体内に撃ち込まれた豚の精液を出してしまいたい。だが、溢れ落ちてもおかしくない量なのに、なぜか一滴も零れ落ちる気配がなかった。

 脂汗をだらだら流して煩悶する御堂に佐伯が労わるかのような声で話しかけてきた。

 

「苦しいか、御堂?」

「ぅ……」

 

 素直に頷いた。一刻も早くこの苦しさから解き放って欲しい。佐伯は男たちに銘じて、御堂の手の拘束を外した。床に崩れ落ちたところで、仰向けにさせられた。脚を開脚させるバーはそのままなので、客に向けて豚に蹂躙されたアヌスを晒す格好になる。観客の視線が痛いほどに突き刺さり、尻たぶがぎゅっと強張った。

 

「御堂、豚は交尾した相手を確実に孕ませるために、射精の最後にゼリー状の粘液を出す。それが穴を蓋して豚の精液をせき止める」

「く……、ぁ……っ」

「楽になりたければ、自分でほじくって精液を掻き出せ。このままだと、逆流して口から出てくるかもしれないな」

 

 可笑しげに言う佐伯の言葉に慄然とした。腹の中にたっぷりと注入された精液は出口を求めて渦巻いている。どろどろとしたマグマのような精液が腹の中でタプタプと波打っている。腹が張り裂けそうな苦痛に気持ち悪さが込み上げてきた。排泄口から注がれた精液を口から吐き出すなど、絶対に嫌だ。客たちから好奇の視線を浴びていることも忘れて、御堂は自分のアヌスに指を這わせた。

 

「は……ぁっ、んんっ」

 

 蹂躙されて綻んだアヌスに指を潜り込ませれば、爪の先にぶよぶよとした弾力のある粘液が触れた。これが御堂の腹に栓をしているのだ。指を深く含ませようと腰を浮かせる。そうして、爪の先で粘液を引っ掻いて掻き出そうとした。不自然に盛り上がった腹の苦しさに、全身が紅潮する。眉間に深い皺を刻みながら、苦悶に胸を荒げながら粘液を掻き出していく。ぬちゅぬちゅと粘ついた音が足の間から響く。しかし、粘ついたそれはまどろっこしいほどの速度でしか掻き出せず、早く楽になりたいと、焦れば焦るほどアヌスを弄る自分の指の動きに倒錯した悦楽と破裂しそうな切迫感が嵩んでいく。

 このままだと、佐伯の言うように口から豚の精液を吐き出すことになる。立ち込める絶望に、「ぁ…、ぁっ」と声にならない嗚咽を漏らした。そんな御堂を見下ろしながら佐伯が声をかけた。

 

「手伝ってやろうか?」

「さえ……」

 

 思わず縋りつくような眼差しを向けたが、佐伯の口元に浮かんだ酷薄な笑みを見て言葉を失った。この男は御堂を助けてやろうとは微塵たりとも考えていないのだ。

 佐伯の磨かれた革靴がゆっくりと持ち上がる。その足は御堂の剥き出しの腹の上に乗った。

 

「よせっ! やめろっ、佐伯っ!!」

「さっさとひり出せよ」

「ぐ……やめ、ひぁっ、ああああああっ!!!」

 

 斟酌ない強さで佐伯の革靴が腹にめり込んでいく。その足を押しとどめようと両手で掴んだが、汗に濡れた手は革靴の表面を滑るだけだ。ぐっと、体重をかけられて、圧が限界まで高まり、堰は決壊した。

 ブッシャアアアアァァァァッ!!

 豚のどろりとした大量の精液が鉄砲水の勢いでアヌスへと駆け下り、栓をしていたゼリー状の粘液ごと噴き上がった。白濁した液体が派手な勢いで開かされた尻の狭間からシャワーのように噴き上がった。

 

「ひあああっ! な……っ、止まら…な……っ! あ、あああっ!!」

 

 散々御堂を苦しめた腹の中の汚濁を一息に出し切っていく快感。苛烈な強制排泄に意識が焼き切れるような快楽が駆け抜けた。ガクガクと全身が震え、御堂を底なしの被虐の絶頂へと追いやった。天を衝くように勃起したペニスから、びゅっびゅっと白濁を噴出した。観客の感嘆したざわめきが聞こえたが、それすらどうでもよかった。灼熱の悦楽に自分自身が焼き尽くされていく。淫蕩に蕩けただらしのない顔をしているのだろう。大きく開ききった口の中で、苦しそうに舌が喘いだ。

 そんな御堂を前に佐伯は呆れたように呟いた。

 

「あんたは尻からも射精するんだな」

「……ぁ」

 

 全てを出し切ろうと白い顎を仰け反らせていきむたびに、ペニスからもアヌスからも精液が迸る。御堂の脚の間にはおびただしい量の汚濁の溜まりが広がっていった。

 どれほどの時間だっただろう。噴き出した大量の豚の精液が勢いを失って途切れると、御堂の四肢から力が抜けて、その眸から光が失われていった。

 闇へと呑み込まれていく意識の中で、佐伯の眼鏡の向こうにある狂気じみた光がこちらをじっと見つめているのを見た。

 大勢の人間がいる空間の中で、そこには自分と佐伯の存在しか感じられなかった。そう、すべてはこの男との戦いなのだ。

 

「佐伯……」

 

 掠れた声は佐伯に届くことなく、濁った闇の中に立ち消えていった。

 

 

END

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