top of page
螺旋迷宮

「ただいま帰りました」
 御堂の部屋の玄関の扉を開けて、克哉は声をかけた。返事はない。
 そのまま御堂を拘束している部屋に向かって、その姿を確認した。
 手足を拘束され、ギャグボールを噛まされた、朝そのままの姿で御堂は克哉の帰りを待っていた。閉じることを許さない股間からは黒々としたバイブが顔を覗かせ、そのペニスは屹立したまま革ベルトで拘束されて射精を封じられている。口に咥えさせているギャグから空気が漏れる音が聞こえていた。俯いたままの御堂に克哉は声をかけた。
「御堂さん」
 後頭部に回されたギャグのベルトを掴んで、顔を上げさせた。薄目が開かれ克哉の方に向けられる。克哉の姿を確認し、忌々し気にその双眸が眇められた。
「お帰り、の一言もないのは寂しいですね」
 克哉は御堂の元に屈んで唾液で濡れそぼっているギャグを外した。口の中に溜まっていた唾液がその顔と身体に滴りおちていく。
「はあっ……あ」
 長時間、ギャグによって壊れそうなくらい顎を開かされ、口内の粘膜を圧迫されていた口は、そう簡単には閉じられない。満足に声も出せず、開きっぱなしになっている唇の輪を指先でなぞり、口の中に指を挿れる。歯列を超えてその舌先に触れると、反射で舌が引っ込められた。噛みつこうにも顎がいう事を聞かず、口の中を弄ばれる嫌悪感に御堂の顔が歪められた。
 だが、その一方で克哉に口内を嬲られて、堪えきれずに御堂のペニスが戦慄いた。赤黒く色が変わるほど張りつめているその器官が、解放を求めて震える。
 克哉は御堂の口から指を抜くと、ペニスの先端の小孔をなぞった。ひっきりなしに溢れている蜜を亀頭に擦り付ける。それだけで、御堂の呼吸が淫らに跳ね上がる。克哉は笑みを浮かべた。
「イきたいんだろう?」
 頭上に拘束していた手を外し、足を開いたまま固定しているバーを外す。
 手足の拘束が外れたものの、その四肢は重力に従って垂れ下がったままだ。長時間同じ姿勢で固定されていたため、筋肉が強張り満足に動かせないのだ。
「――っ!」
 克哉は御堂の背を軽く押した。支えを失ったその身体は抵抗できずに前に倒れ、床に這った姿勢になる。かろうじて顔を背けて、床にしたたかに顔が打ち付けられるのを避けたが、体勢を立て直せずに這いつくばったままだ。
「無様だな」
 床に四肢を投げ出した状態でもがこうとする御堂に侮蔑の声を投げかけた。
 満足に動けるようになるまでまだ時間がかかるだろう。
「ああっ…」
 克哉は御堂の腰の下にクッションを入れて、高く掲げさせた。双丘から突き出ているバイブを乱暴に引き抜くと、御堂の身体が痙攣したように引き攣った。そして、御堂は床に爪を立てた。次に何が起こるのか分かっているのだ。
 バイブを抜かれ、緩んだままの後孔。その粘膜は腫れぼったく柘榴色に染まっている。
 克哉はスラックスの前を軽く寛げるとそこに自身をあてがった。遠慮なく突き入れる。
 熱く潤んだ粘膜が克哉に絡みついてくる。突き上げるたびに、御堂の不規則な吐息が漏れた。身体が揺さぶられ、床板に立てた爪から、乾いた音が立つ。
「はっ……ふぁっ…あっ」
 御堂の反応を気にせず腰を打ち付けた。肉がぶつかる高い音が室内に響く。
 開きっぱなしの口から、喘ぎとも呻きともつかない声交じりの呼吸が吐き出された。今までなら唇に痕が残るほど噛みしめて声を殺そうとするが、閉じることが出来ない口から涎とともに声が漏れる。唇にこれ以上噛み痕を付けないためのギャグでもあった。
 克哉は、さっさと用を足すような無造作な所作で、御堂の中に欲望を排泄した。こうやって物のように扱われることが、御堂の心を一番挫くことは分かっている。
「次は御堂さんの番ですね」
「やめ……っ」
 多少動くようになった口から、言葉のような空気が漏れた。顔が力なく振られる。
「出したいんでしょう?」
 構わず克哉は御堂の前方に手を伸ばした。びくり、とその身体が震える。亀頭の下から根元まで、何重にも巻かれた革ベルトを一つずつ外していく。その度に、身体が小さく痙攣した。
「あぁーーっ」
 性器の根元を戒めていた最後のベルトが外されると、はしたない喘ぎ声と共に、御堂は身体を反らせ逐情した。溜まっていた精液がだらだらと床に滴り落ちる。
「全部出し切りましょうね」
「う……っ」
 克哉は、残った精液を搾り取るように御堂の性器を扱き始めた。同時に緩んだままの後孔に抜いていたバイブを突き立てた。電源を切ったままのバイブを前後に抽挿する。先ほど克哉が放った精液が、中で掻きまわされ濡れ音を立てる。御堂の身体がその度に震え、性器からは精液が混じった液体がひっきりなしに滴っていった。
 注いでは搾り取る。
 監禁してから繰り返し行っているこの行為に身体は順応しているのに、心はそうでもないらしい。
 克哉から逃れようと、身体を捩り、力の入らない四肢をばたつかせる御堂を嗤った。
「蛙みたいだな」
 その言葉に御堂の身体が強張り、その横顔が紅潮した。激しい屈辱を感じているのは明らかだ。その顔を見てみたくなり、克哉は御堂を仰向けにした。
「なんだ泣いているのか。泣くほどよかったのか?」
 その双眸の眦から涙が溢れ頬を伝っていた。それでも、その眼差しは激しい憎悪を燃やして克哉を睨んでいる。
「……てやる」
「何だ?」
 御堂の口から掠れた声が漏れた。その唇が震え、何か言葉を紡ごうとしている。克哉は耳を近づけた。
「殺してやる…!」
 はっきりと告げられたその言葉に克哉は目を細めた。一日ぶりに言葉が聞けた、と思ったらこの言葉だ。だが、怒りはない。むしろ、愉悦さえ込みあがる。
「悔しいか?見下していた男にイかされて」
「っ――!」
 御堂のペニスをこれ見よがしに握って擦り上げ、バイブを出し挿れする。
 御堂は顔を更に紅潮させながら、歯を噛みしめ、声を漏らさぬように喉を押し殺す。
「相変わらず強情だな……。俺の下に堕ちてくれば、もっと気持ちよくしてやるぞ」
「…勝手に…言ってろっ」
「ふうん」
「くぅっ!」
 克哉は御堂の尻の下にクッションを再び入れると、バイブを引き摺りだした。綻んだままの後孔から克哉の白い精液が糸を引く。
 シャワーを浴びさせようと思ったが、その前に徹底的に汚してもいいかもしれない。
 御堂の両下肢を割った。克哉は自らのペニスを軽く擦り、硬さを持たせると再びそこにあてがった。
「ああっ!」
 軽く腰を押すといとも容易く中に呑み込まれていく。充血して腫れぼったくなった粘膜は柔らかく克哉自身を包み込み蠕動を始めた。クッションで上げさせた腰は克哉との結合をより深くする。
 御堂は、多少動くようになった腕で、自分を組み伏せる克哉の胸を押して除けようとしたが、その力は筋力を失い弱い。そのなけなしの抵抗を克哉は嗤った。
 中を捏ねるように掻きまわし、深く突き上げる。同時に、精液と涎に塗れた御堂のペニスを軽く握り扱き始めた。そこはすぐに反応しだし、白濁混じりの粘液を滴らせる。
「うっ……ふっ、…ああっ」
 奥を抉る度に、喘ぎ声混じりの息が吐き出される。そして、濡れた眸から次々と雫が伝う。
 克哉の胸を押していた片手が外れ、御堂は自身の濡れた顔を腕で覆い、その顔を克哉から背けた。
 まだ、羞恥と反抗心、そして矜持が残っているのか、と克哉は感心し、同時に苛立ちも感じた。
 この頑固な矜持のせいで、未だに御堂は克哉に屈せずにいるのだ。
 克哉は御堂の両手首を掴み、頭上の床に縫いつけた。御堂は身体を一層強張らせながらも、顔を背けたままだ。
「俺に顔を見せろ。…屈辱に染まったその顔を」
 腰を使いながら、低い声で御堂に囁く。御堂の眸が一瞬揺れて、克哉の方に向けられた。その眼差しは克哉を射殺すかのように強い光を湛えている。
 監禁してからも態度を一切変えようとしない御堂に克哉は舌打ちし、一層深く最奥を抉った。御堂は、掠れた悲鳴とともに、何度目かの絶頂を迎える。
 脱力し、穿たれるままに揺れる身体を弄ぶ。
 快楽と苦痛と絶望。あとどれ位与えれば、この男は克哉の下に堕ちてくるのだろう。
 ゴールは間近のはずだ。
…いや、果たしてゴールに近付いているのだろうか。
 出口が見えない迷宮に囚われているような一抹の不安が生じたが、克哉はそれを鬱屈した昏い感情とともに嗤い飛ばし、欲望を遂げるために更に激しく腰を打ち付けた。

bottom of page