
A Shower of Love
気怠い身体から意識を切り離して、ゆるりと眠りに溶かしていく。
「御堂さん」
あともう少しで、深い眠りに陥る、といった時に、自分の名を呼ぶ声とともに上掛けが剝がされた。
じっとりと濡れた肌を清廉な部屋の空気が撫でる。薄っすらと目を開いた。
素肌の上にバスローブを纏った克哉が自分の顔を覗き込んでいた。眼鏡越しの淡い虹彩と視線がぶつかる。
「このままだと風邪を引く。シャワーを浴びましょう」
「後で……いい」
会話するのも億劫だ。
直前まで克哉と激しいセックスをしていた。
身体は中も外もぐっしょりと濡れそぼっている。髪の毛も湿って、肌にべったりと張り付いていた。
その嫌な感触に意識を向けないようにして、ベッドに沈み込む。
そんな御堂の額に指を添わせて、瞼にかかる髪の毛を梳きつつ克哉は言った。
「俺が手伝いますから」
「なおさら、嫌だ」
「じゃあ、御堂さんはこのまま寝てていい。俺が後始末します」
「断る」
克哉の眼差しが御堂の裸の股間に落ちた。
その視線を感じて、内股の筋肉が小さく引き攣れた。
途端に自分が下腹部の奥に抱えているものの存在を思い出す。腹部が波打ち、奥深い粘膜に包まれた克哉の体液が、たぷんと揺れたように感じた。
不快感に眉を寄せる。
このまま何もかも放り出して眠りにつきたかったのに、克哉のせいで台無しだ。
とはいえ、このまま眠りについたら朝の惨状は途轍もないことになっているだろう。それを思うと、急激に意識が引き上げられた。
渋々、ベッドのマットに手をついて、重い身体を起こした。すかさず、背に克哉の手が添えられる。
その克哉の気遣いを無視して、床に両足を下ろし、自力で立ち上がろうとしたところで、膝に力が入らずよろめいた。
慌てた克哉に腰を支えられる。
克哉に何度も穿たれた下半身は痺れて、今でも何か挿れられているような錯覚を引き起こす。
「ひとりじゃ危なっかしいな」
「誰の、せいだ」
「俺のせいなので、俺が責任を取ります」
眦を吊り上げて睨む御堂を無視して、克哉は御堂を無理やり抱きかかえ上げると、そのままバスルームへと連れ込んだ。
「降ろせ!」
「分かりましたから、暴れないでください」
バスチェアへと降ろされる。
バスルームは直前に克哉が使ったのだろう。室内の空気は温められていた。
克哉はシャワーからお湯を出すと、纏っていたバスローブをさっと脱いでドアから脱衣所に向けて放り投げた。
「なぜ、お前まで裸になる必要があるんだ?」
「なぜって、湯が跳ねますし」
「後は私ひとりで十分だ」
「そう言わずに」
克哉はシャワーのお湯の温度を確かめると、御堂のうなじにあてた。強い水圧のお湯が肌を叩き、清めていく。
ざあっという水音と湯気がバスルームに立ち込める。
克哉は手際よく丁寧に、御堂の全身をくまなくシャワーで洗い流した。
これはこれで、悪くない。
心地よさに目を細めて、克哉に身を任していると、克哉がシャワーをいったんフックに戻した。
「御堂さん、立てますか?」
「あ、ああ」
身体が温まり、再び湧いてきた眠気にぼうっとした意識のまま、腕を掴まれて立ち上がる。
バスルームから出るのだろうか、と思いきやタイルの壁に両手を突かされて、背後に尻を突き出す体勢を取らされた。
克哉が何をしようとしているのか悟って、慌てた。
「佐伯っ!」
「遠慮しなくていい」
「違うっ!」
遠慮ではなくて、自己防衛だ。
思わず抗議の声を上げたが、返事代わりにシャワーのお湯が尻の狭間に当てられる。
「ぃ、……あっ!」
綻んでいる後孔に克哉の指が入り込んできた。同時に、指を伝ってシャワーのお湯が流れ込んでいく。
「な、中に……、や、抜けっ」
「力を入れるな。……そう、それでいい」
抵抗しようとしたところで、上体をぐっと屈めた克哉に耳元で低い声で囁かれる。甘さを滲ませた声に唆されて、抗う意思をくじかれていく。
克哉の指によってアヌスを開かれ、そこに温かなシャワーが注がれた。感覚を取り戻せてない下腹部の奥がじんわりと温まり、粘膜が蠕動する。
体内で克哉の指が蠢く。注がれたお湯は克哉が掻き出した白濁と混ざって、開いた足の間にびちゃびちゃと派手な音を立てて滴り落ちた。
「あ……、やだ……ふ、」
排泄行為を見られているようで、羞恥に頭が白んでいくが、克哉はねちっこく中をいじり続ける。次第に、シャワーとは別の熱が、身体の芯に灯りだした。
「佐伯……っ、もう……やめ…ろ」
「もう、我慢できませんか?」
背後で克哉が含み笑いをする。アヌスから指が引き抜かれて、シャワーが止められた。
これで解放されるとホッとしたのもつかの間、克哉の手が御堂の前に回されて、淫らに立ち上がってしまった性器を握りこまれた。ヌルヌルした先端を克哉が指の腹で擦るように往復する。
「やっ、――ぁ」
「あれほど出したのに、まだ足りないんですね」
粘ついた声で意地悪く言う。
顔を真っ赤にして、足元に視線を落とした。御堂の素足の間に克哉の足が入り込む。足の付け根に克哉の熱く張りつめた屹立が押し付けられた。そこから、克哉の狂暴な欲望を感じ取って、ひくりと喉を上下させた。
「さ、え……」
「俺も、足りないんですよ。あなたが」
声を深めて囁きながら、克哉が御堂に体を密着させた。濡れた肌に克哉の乾いた肌が重なり合う。
淫靡な期待と不安に心臓が乱れ打ち出す。克哉が御堂の腰を突かんで、更に後ろに突き出させた。
「く……、ふ、ああっ!」
アヌスに強烈な圧迫感が生じた。綻んだアヌスが大きく広がって、灼熱の硬い肉塊を吞み込んでいく。上擦った声がバスルームの中に反響した。
散々抱かれて感覚を失った下腹部に、苦しいほどの圧とそれを追いかける熱い疼きが、柔らかな粘膜をどんどん敏感に研ぎ澄ましていく。克哉をもっと深くへ引き込もうと、中が蠢きだした。
「いいぞ。絡みついてくる」
亀頭の張り出しを捻じ込んで、少しの間動きを止めていた克哉は、御堂の身体が克哉を受け入れる体勢を整えたことを感じとって、おもむろに腰を動かし始めた。
「く……、ふ、……はっ」
しなやかで強い腰遣いで突き上げられる。その度に浮き上がりそうになる身体を克哉に覆い被さられる形で押さえつけられた。
背中に克哉の荒い鼓動を刻まれる。
一突きごとに、呼吸が跳ねて快楽がせり上がってくる。
克哉の手が御堂の竿を扱き始めた。
身体の内外からどうしようもない刺激を与えられていく。タイルに突いた手の爪を立てて、すっかり熱くなった額をぐっと押し付けた。だが、堪えようにも堪えられない。
「ひ……っ、――くぅ、あああっ!」
克哉に付け根まで深く穿たれ、中を激しく抉られて、視界に閃光が弾けた。激しい絶頂に攫われる。
びくびくとペニスが戦慄き、先端から白濁を噴き上げた。飛び散った精液が正面のタイルをまだらに染める。
「派手に、イったな」
「もう、抜け……っ」
ぎゅっと中が引き絞られて、御堂が呑み込まれた極みの激しさを克哉に伝えた。
「もうちょっと、我慢してください」
「あ、……うぅ」
克哉のペニスは御堂の中で硬く張りつめたままだ。克哉は律動を再開させ、絶頂後の過敏すぎる粘膜を拡げて擦りあげていく。
バスルーム内に肌を打ち付ける湿った音が響きわたる。
「やめっ、……ふぁっ、か、つや」
次から次へと絶え間なく湧き上がる悦楽に、果てのない絶頂の中に囚われた。
四肢を引き攣らせて翻弄されていると、下腹部の奥から別種の感覚が沸き起こって来た。射精後のペニスがヒクヒクと震える。
――これは……?
かき回されて澱んだ思考が、はっと我を取り戻す。切羽詰まった欲求が急激に迫り来た。
「佐伯っ、やめろっ! 放せっ」
深く繋がっている克哉を振りほどこうと体を捩じるが、脱力しきった身体は容易に克哉に押さえつけられる。
「駄目だっ! お願いだからっ! ……くあっ」
必死の哀願が、克哉の大きな抽送に途切れ途切れになる。
克哉が極限まで張りつめた器官を、勢いよく御堂の最奥に突き入れた。内臓が激しく突き上げられ、どくり、と重い液体を体内に注がれる。
深く抉られる衝撃。身体が一瞬強張り、堪えていたものが弾けた。
「あ、あ――っ!」
克哉に握られた赤い先端から、生温かい液体が零れだして克哉の手を濡らす。
抑えようと腹部に力を入れるもわずかに勢いを削いだ程度で、それは堰を切ってとめどなく溢れ出した。
はじめはチロチロと細かな流れだったそれが、すぐに勢いを増して、滑らかな放物線を描く。身体の前のタイルの壁に打ち付けられて撥ねて飛び散った。
「孝典さん、……これって」
「見るな……っ!」
ごくりと唾を呑み込む気配ととともに、御堂の体内に自分の一部の残したまま、克哉が背後から覗き込んできた。
まだ収まりがつかず、握られたままのペニスから卑猥な水音を立てて、それは放たれていく。足の間に小さな流れを作って排水溝に向かって流れていった。
勢いが弱まり最後の一滴を零したところで、克哉が絞り出すようにペニスを扱いた。残滓が小孔からじわりと滲んで滴る。
もう、克哉の顔をまともに見返すことが出来ない。
こんな歳になってからの想像を絶する羞恥に、頭の中が焼き切れそうになり、嗚咽が漏れた。
その時、興奮がこもった吐息が御堂の耳を撫でた。
「たまらないな」
え、と耳を疑い、思わず聞き返そうとしたところで、果てたばかりの克哉のペニスが体の中でぶるりと震えた気がした。それはみるみる大きく育ってくる。欲情に息を詰めた克哉が御堂の腰を掴みなおした。
「このまま、もう一回だ」
「やめろっ! 無理だ!」
信じられない面持ちで悲鳴を上げるが、その声はすぐに喘ぎと肌と肌がぶつかる音に取って代わられた。
全身の筋肉と骨が軋んでいる。指ひとつ動かすのもつらい。
結局、あのままバスルームで更なる行為に及んで、体液に塗れた体を内も外も洗い直された。
バスローブをまとって、疲労困憊の体でどうにかベッドにたどり着いた御堂に、後ろからついてきた克哉が心配そうに呟いた。
「大丈夫か? 少しやり過ぎたな」
「佐伯、お前、自重しろ……!」
克哉が言っている“少しやり過ぎた”の部分は一体どこからを指しているのか、本当に反省しているのか甚だ怪しい。
叱りつけてやりたいが、排尿を見られた恥辱やら怒りやらに心がかき乱され、また、繰り返し迎えた絶頂のせいで、声に力が入らない。掠れ声がせいぜいだ。
それでも、御堂に申し訳なく思ったのだろう。克哉はしおらしく頭を下げてみせた。
「今度、俺のも見せるから」
「却下だ!」
御堂が求めているのは誠実な謝罪であって、決して見せ合いっこではない。
今度こそ、大声を絞り出して克哉を怒鳴りつけた。