
飼育
御堂を監禁しはじめて二か月あまり経った。今日も克哉は御堂がいる部屋に帰る。
「戻りました」
「貴様っ!」
克哉が帰ってくるなり、罵声が部屋の奥から浴びせられる。
――元気そうだ。
克哉はその声を聞いて笑みを浮かべた。御堂の顔を見に行く。
部屋のドアを開けた。その瞬間、蹴られた皿が飛んできた。
よける必要はなかった。大きく的を外れて、近くの壁に当たる。
御堂はこの部屋に獣のように拘束してある。裸にシャツ一枚、羽織らせている状態だ。
首輪をつけて、両手首を拘束した手錠は鎖で首輪につながれている。手はほとんど使えない。首輪につけた鎖は窓枠に括ってある。この部屋の中を動き回ることが出来ても、部屋から出ることは出来ない。
更に今日は目隠しをつけているせいか、機嫌が悪い。
「いい加減にしろっ!」
克哉の気配を感じ、御堂が怒りを喚き散らす。
与えていた水と食事の皿を見た。いずれもひっくり返されて無残な状態になっている。
「食事、食べなかったんですか」
克哉は御堂の怒鳴り声に反応せずに、優しい声をかけた。
食べようとしても手が使えない以上、犬のように這いつくばって食べざるを得ないのだが。プライドの高い御堂には我慢ならないのだろう。
「他人の親切は受け取るものですよ」
「これのどこが親切だっていうんだ!」
怒り狂う御堂に克哉は近づいた。その気配に御堂がひるむ。
「ああ、そうか。俺の会社での話が聞きたいんですね。あなたの地位と立場を得た俺が、あなた居なくなったMGNでどれだけ活躍しているか」
「ぐっ…」
御堂の顔がゆがむ。御堂の悔しがる顔見たさに、日々の会社での話を語って聞かせるのが日課になっていた。
御堂の体が落ち着きなく震える。
「そういえば、朝からトイレに行っていませんね。トイレに行きますか?」
御堂が黙り込んだ。図星だったようだ。
獣のように拘束されてこの部屋に監禁されている御堂は、食事も排泄も克哉に頼らなければいけない。特に排泄を克哉にゆだねなければならないことは御堂にとって一番の屈辱だろうし、2か月経った今でも抵抗する。
「どうします、今日は?大人しくトイレに行きますか?」
御堂が口惜しさに奥歯を噛みしめるのが見て取れる。
先日、トイレを嫌がって暴れた御堂にお仕置きとして尿管カテーテルを使って無理やり排尿させたのだ。
あの時の御堂の苦痛と屈辱と恥辱にまみれた顔は忘れられない。
御堂は最初はその鋭い痛みに悶えたものの、自分の意思に関係なく排尿させられ、そのまま尿道を内側からいじられる感触に反応し、浅ましい喘ぎ声をあげなから果てたのだ。
御堂にとっては最高の屈辱だったのだろう。
それからは、尿管カテーテルをちらつかせると大人しくなる。
「どうします?」
「…トイレに行く」
御堂からギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうだった。
克哉は優しく微笑んだ。窓枠につけていた首輪の鎖を外す。
そのまま鎖を手に巻き付けて、御堂を引っ張った。
アイマスクを付けられたままの御堂は、よろけながら克哉に引っ張られた方向についてくる。
そのまま排泄を済まさせ、食事をとらせた。御堂はおとなしく従う。
食後、シャワーを浴びさせた。アイマスクを取り、一度、片方ずつ手錠を外しシャツを脱がす。
シャワーを浴びさせ、再びシャツを着せようとした時だった。
御堂が克哉に思い切り体当たりをした。よろけた瞬間に御堂が玄関に向かって走り出す。咄嗟に手を伸ばし、首輪から伸びている鎖を掴んで引っ張った。
「ぐあっ!」
御堂が悲鳴を上げて、仰け反り倒れた。首輪を掴み、激しく咳き込む。
「いけない人だなあ」
克哉は冷たい笑みを浮かべながら、ゆっくりと鎖を手繰り、首をかばうように身体を伏せて倒れこんだ御堂に近づいた。
御堂が怯え、身を竦ませるのが分かる。
「これはお仕置きしないといけませんねえ」
御堂の元に屈みこむ。髪の毛を掴んで、頭を上げさせた。
「酷くされるのと、優しくされるの、どちらがいいですか?」
「うあ…」
御堂が呻く。その耳元に口を寄せた。
「答えないなら、酷いほうにしますよ?」
身が強張るのが見て取れた。御堂の身体が震える。
「やめてくれ…」
嫌々するように首を弱々しく振る。ここで許す気はなかった。
「そうですか。酷い方がいいんですね。やはりあんたはマゾの気があるのか」
手を伸ばして、御堂の乳首をきつくつねった。身体がびくっと跳ね、御堂の目元から涙がにじむ。御堂が観念したように声を絞り出した。
「…酷いのは嫌だ」
「分かりました」
克哉が満面の笑みを浮かべた。裸に首輪が付いただけの御堂をベッドに連れていく。もう、御堂は抵抗しなかった。両手を鎖でベッドにつなぐ。
御堂のモノは既にゆるく勃ち上がっていた。これから起きることに期待しているのだろう。
克哉はネクタイを解いてシャツのボタンを外し、服を脱ぎ、御堂の上に覆いかぶさった。
「ああ……」
素肌同士が触れるだけで、御堂が切なげな声をあげる。
それだけで触ってもいない御堂のペニスが質量を増した。
克哉はくすり、とほほ笑んだ。この2か月、御堂は克哉以外の誰とも顔を合わすこともなく、一日中部屋の中に閉じ込められていた。御堂は克哉に激しい憎しみと怒りをぶつけながらも、人との触れ合いを切に求めている。それは相手が克哉であってもだ。
御堂のなめらかな肌に手を滑らせる。首元に舌を這わせ、優しく愛撫する。
「はぁ……あっ、…ふっ……」
抑えきれない喘ぎ声が御堂から漏れる。
胸の突起を口に含んだ。舌と歯で軽くくすぐる。
「くっ……ああっ!」
背中が仰け反り、手首を拘束した鎖がジャラジャラと鳴る。
時間をかけて丁寧に優しく御堂を愛撫した。
わざと御堂のペニスには手を触れない。御堂のペニスは既に固く張りつめて先端から粘液を滴らせている。御堂の両脚を開き、間に入る。御堂の脚が細かく震える。
ベッドサイドからローションを手に取り、御堂の窄まりに塗り込む。御堂が息をのんだ。
「ひっ……」
後孔に指をいれ、時間をかけてほぐす。御堂の口から絶え間なく喘ぎ声が上がる。その眼は既に快感に潤み濁っている。
自然と御堂の脚が開き、腰がわずかに浮く。次に起きることを待ち望んでいるのだろう。
自分の屹立を御堂の後孔にあてる。後孔がもの欲しそうにひくつくのがわかった。
克哉はそのまま動かずに、上半身を起こした。御堂が訝しんで目を開く。
「御堂さん、何が欲しいんですか?」
甘い声で自分の真下の御堂の顔を見下ろして囁く。
「欲しいときはおねだりの仕方を教えたでしょう」
「私は、…欲しがってなど……っ!」
快楽に酔っていた顔が屈辱にゆがむ。
「それなら、仕方ありませんね」
「…くっ」
克哉は御堂から身を離し、ベッドから降りた。
ベッドに残された御堂は身を捩る。ついさっきまで煽られた身体は耐え難い悦楽が出口を求めて渦巻いている事だろう。両手は拘束されているので、自身を慰めることも出来ない。
克哉は御堂に背を向けシャツを羽織った。そのまま部屋を出ようとする。
「……待て」
ベッドから、呻くような声が聞こえた。ゆっくりと振り返る。
御堂が、ベッドから克哉の方に身体を向けたが、佐伯の視線から苦しそうに目を伏せる。
「佐伯……行かないでくれ」
その言葉を聞いて、克哉はにっと口角を上げた。期待していた言葉とは違ったが、御堂のプライドからしたら、これがぎりぎりの妥協点なのだろう。
ベッドに歩み寄る。御堂が安堵し、小さく息を吐くのが分かった。
「しょうがない人ですね。今回だけですよ」
ベッドに乗って、御堂の脚を押し開く。御堂のペニスは全く萎えることはなくきつく張りつめたままだった。
尻の下に手を差し込み、硬くなった自分の昂ぶりの位置を合わせる。潤滑剤の助けを借りて、徐々に窄まりに自身を飲み込ませた。狭い肉壁をゆっくり広げつつ奥まで挿れる。その圧迫感に御堂の背が大きく仰け反った。
「あっ……うああっ!」
嬌声とともに、御堂のペニスが精を放った。濃い精臭とともに精液が御堂の胸から腹まで飛び散る。
「触れてもいないのに、挿れられただけでイったんですか。相変わらず我慢のきかない淫乱な身体ですね」
「あ……はあ……」
首を弱々しく振り、羞恥に喘ぎながら、御堂は目を閉じる。
萎えかけた御堂のペニスを握り軽くこすった。同時に腰をゆっくりグラインドさせる。
「んっ……くぅ、…あぁっ」
御堂自身はその刺激に反応し、すぐ質量を取り戻す。
「いくらでもイかせてあげますよ。あなたが満足するまで」
御堂の脚が克哉の身体に絡まる。もっと奥まで克哉自身を飲み込もうときつく脚が身体にしがみつき腰を引き寄せる。
克哉の顔から笑みが漏れ、御堂を抱きしめ上半身を密着させた。先ほど御堂が放った精液がお互いの身体の間で引き伸ばされて、淫猥な音と感触をもたらす。
――プライドの高い、淫乱な玩具。
隔絶された空間で、日々御堂を抱き続けた。
御堂の大切なものを一つ一つ目の前で奪い続け、代わりに克哉自身は求めるだけ与えた。
言葉で御堂をいたぶりつつも、大人しく従ったときはご褒美としていくらでも優しく抱いた。
身体をむやみに痛めつけることはしないし、健康管理も気にかけている。
人に慣れない気高い野生動物を飼育し調教するように、慎重に手を抜かず気を遣っている。
2か月経った今でも反抗的な言葉と態度を見せるのは感嘆に値するが、既に身体は克哉に触れられただけで容易く反応しだす。
人肌の触れ合いを求めようとする御堂の精神状態も合わさって、嫌だと頭では拒否していても自ら積極的に快楽を貪りはじめる。
「んあっ……あっ、……そこ、もっと…!」
「ここがいいのか」
御堂の求めに応じて、深く抉る。大きな嬌声があがった。
克哉は手を伸ばして、御堂の手の拘束を一つ外した。御堂の片手が自由になる。
「はっ……あっ……」
御堂は片手を克哉の背中に回して、きつく爪を立てて克哉の身体を自分に密着させようとする。同時に腰を自ら揺すって、更に深く克哉自身を咥えこもうとした。既に顔は紅潮し、快楽に溶けて扇情的な表情になっていた。
「そういえば…」
克哉は御堂の好きにさせながら、耳元に口を寄せた。
「あなたの元部下の藤田が、あなたを懐かしがって会いたがっていましたよ…」
御堂の動きが止まる。快楽に濁っていた眼に一瞬色が戻った。
「藤田に見せてあげますか?俺の下で喘ぐ、今のあなたの姿を」
「よせっ……!やめろっ!」
正気に戻った御堂が克哉を押しのけて、身を捩って逃げようとする。
その身体を押さえつけ、腰を深くグラインドさせた。たちまち身体から力が抜けて喘ぎ声が漏れだす。御堂の口の端から、涎が一筋垂れる。
「いいんですか?あなたの存在を覚えている人は誰も居なくなりますよ?」
「やめろ……。あぁっ、…やめてくれ…」
抑えきれない喘ぎ声を上げながら、御堂が涙を流し出す。
頬に流れる御堂の涙を克哉は舌で舐めとった。その塩気がある液体は、克哉にとっては限りなく甘い。
「安心しろ。俺はあんたを捨てたりしない。ずっと飼っていてやる」
「クソっ…」
御堂が呻く。克哉は笑みを浮かべ、冷たく優しい声をかける。
「俺から逃げたいか?だが、俺から逃げられたとしても、俺によがり狂わされた快楽と屈辱の記憶は、あんたの中に永遠に残る」
そう言うとピッチを上げた。深く激しく御堂の奥を抉る。御堂の双眸から次々と涙が溢れた。
「くぅ……はあっ、……ああっ!!」
「俺はずっと、あんたの傍にいてやるさ。いつまでも、あんたの身体を可愛がってやる。これから先、一生、な」
涙を流しながら御堂の全身が強張り、嬌声とともに再び達する。御堂の身体から力が抜ける。気を失ったようだ。
克哉も身を小さく震わせ御堂の中に熱い精を放ち、自身を引き抜いた。
涙と涎と体液にまみれて意識を失っている御堂を見下ろした。
そこには御堂が持つ気高く高貴なプライドは一かけらも見られなかった。
タオルで御堂の顔をきれいにぬぐい、身体を拭いた。
薄皮を一枚一枚剥くように御堂のプライドを剥いでいく。丁寧に時間をかけているだけあって、徐々に御堂は克哉の元に堕ちてきている。
…だが、克哉の元に堕ちきったとき、その御堂は克哉自身が求めていた御堂なのだろうか。
克哉は一抹の不安に駆られた。その不安は一滴の墨汁のように、克哉の心の底に滴り落ちてすっと広がっていった。