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Sunrise Sunset

 陽が昇る。
 空が白み、景色が色彩を取り戻していく。しんとした静けさが都会の上空を支配する一方で、大地からは絶えることのない交通音が鳴り響く。
 それでも、一日の中で一番静寂さを感じるこのひと時は好ましい。
 佐伯克哉は、会社のフロア、壁一面のガラス窓から高層ビルが立ち並ぶ景色を、電気も付けずに眺めた。暗い部屋に少しずつ光が差し込む。もう少しすれば、あのビルの窓一枚一枚が太陽の光を反射し、無数の煌めきを見せることだろう。
 そして、そのビル群に覆い隠されて見ることのできない地平線に思いを馳せた。東京に出てきてから、地平線を見た記憶はない。とはいえ、栃木にいた時も、地平線というよりは山稜が連なる風景を見た記憶しかない。山がビルに変わっただけの話だ。郷愁も寂寥感もない。
 紫煙をくゆらせていたタバコを、もう一息吸うと、携帯灰皿に仕舞いこんだ。会社の立ち上げのために幾夜もこの場所に泊まり込んで、朝を迎えた。その度に、タバコを片手に、一日が始まるこの瞬間をガラス越しに眺めることが習慣となっていたが、今日でタバコを共に朝の景色を眺める行事は終了だ。今日からこのオフィスが稼働しだす。オフィス内は禁煙にする予定だった。
 新しい会社、社員は克哉も含めてたった二人。あと数時間もすれば、もう一人の社員が出社してくるだろう。
 克哉は社内を見渡した。広さばかりが目立つフロア。デスクと椅子、名刺、パソコンやプリンター、社内LANなどのインフラ整備も含めて、初日から業務を遂行するための必要最低限のものは用意したが、実際に問題なく稼働するかどうか、こればかりは業務が始まってみないと分からない。
 吸い納めにもう一本咥えるか、と克哉はタバコを取り出した。くゆらせた煙の向こうに東京の景色を眺める。その一望できる視界の中には、日本の政府の中枢から経済の中枢が納まっている。この中でどこまで登り詰めることが出来るか、その先には何が見えるのか、期待に胸が高鳴る。燦然と輝きだす風景に自分たちの未来を重ね、目を細めた。
 ピピピッと電子錠の開錠音が鳴った。
 克哉は時計を見るが、始業時間までまだ一時間以上ある。それでも、克哉のビジネスパートナーでプライベートでもパートナーである御堂孝典が出社してきたことは分かった。見つかる前に、と手に持っていたタバコを携帯灰皿の中に素早く隠す。
「おはよう」
「おはようございます。御堂さん」
 オフィスの電気を全て点灯させ、御堂が奥にいた克哉のところまで歩み寄る。予想していたのか、まだ薄暗いオフィスの中に克哉の姿を見ても驚きはしなかった。
「また、泊まったのか」
「シャワーと着替えに、部屋に一度戻りましたよ」
 克哉に近付いて、御堂は僅かに愁眉をひそめた。
「社内は禁煙ではなかったのか?」
「今日の始業時間から禁煙です」
 オフィス内に漂うタバコの残り香にすぐに気付かれてしまったようだ。
 すぐに御堂は澄ました顔に戻り、朝の光と都会の景色を背負って窓辺に佇む克哉に片手を差し出した。
「いよいよ今日からAcquire Association社の歴史が刻まれるな。社長のかじ取りを期待している。おめでとう」
「副社長の辣腕ぶりにも期待していますよ」
 克哉は御堂の手を握り返し、固い握手を交わす。互いの真っ直ぐな視線が交わる。その顔にはこれからの期待と自信がにじみ出る。
 克哉は握手を交わした手を握ったまま、その手を強く引き寄せた。思わぬ力に御堂が前によろめいて一歩克哉との距離を詰めた。
「何をする」
「握手だけですか?門出の喜びを分かち合う方法は他にもあると思いますが」
 克哉の言葉に、御堂の顔が瞬時に紅潮し慌てて身を引こうとする。その反応をとうに予測済みの克哉が、握っている手を離さず、他方の手で御堂の腰を引き寄せた。それでも御堂は抵抗し、克哉の胸を押さえて上半身を反らして克哉から距離を取ろうとする。
「佐伯っ。プライベートとビジネスは切り離せ」
 先ほどまでの有能なビジネスマンとしての自信に満ちた顔つきが一変し、焦り戸惑う表情を浮かべる御堂の顔を、克哉は視線を逸らさずに見つめた。
 ビジネスでは常に毅然とした態度で臨み、一切動揺を見せない御堂が、克哉の前だけではその裡に秘めていた多彩な表情を見せる。それでもポーカーフェイスを保とうと御堂が努力をすればするほど、それを崩したくなるのが克哉の性なのだが、それを知ってか知らずか御堂の振る舞いは常に克哉を煽る。
 克哉の腕から逃れようとする御堂を逃すまい、と更に腕に力を込めた。
「まだ、始業前ですよ」
「ここはオフィスだ」
「新会社設立準備のご褒美に」
 労をねぎらってくれ、と言わんばかりの克哉の言葉に御堂は眉をひそめ、目を眇めた。確かに会社設立の準備はほとんど克哉一人で行われた。だが、それは御堂に一切手伝いをさせなかった克哉の一存によるものだ。わずかな期間でここまで準備を進めた克哉の努力は感嘆に値するが、先日も真夜中のオフィスに連れてこられて“ご褒美”をねだられたのだ。
「創立の日は今日しかないですよ?」
 その御堂の心の揺らぎを見透かしたように克哉は口元に余裕の笑みを浮かべ、更に畳みかける。自分の希望が叶えられるまでは、その腕に込めた力を抜く気もないらしい。
 御堂はため息をついて、姿勢を立て直した。克哉の首に手を回す。
「キスだけだぞ」
「ええ、もちろん」
 克哉は素直に腕の中に納まった恋人に柔らかく唇を重ねた。遠慮がちに返される唇が、触れ合ううちに徐々に深くなっていく。一度濡れ音が立つとおさまりがつかなくなり、角度を変えながら、互いの舌を重ねてくすぐりあう。かろうじて理性をつなぎつつも互いの体が熱を持ち始める。その甘いひと時は始業時間とともに鳴った、来客を告げるインターフォンによって現実に引き戻された。


「なんで胡蝶蘭ばかり届くんだ。誰が水やりをすると思っているんだ」
 既に何個目だろう。朝一番の来客は宅配業者だった。朝からひっきりなしに届けられる胡蝶蘭を社内に運び込みながら、克哉は悪態をついた。
「そう言うな。多くの人たちが祝ってくれている証だ」
 そんな克哉に対し御堂は笑みを浮かべながら、包装のセロファンとリボンを取り、送り主の名札が目立つように調整し、棚に並べていく。
 Acquire Association社の設立にあたっては、どこともしがらみのない、ゼロからのスタートだった。それでも多数の会社設立祝いが届くのは、それだけこの会社の事前のアピールが上手くいっている証拠でもあった。克哉の根回しや宣伝が功を奏したのだろう。
 ただ、これだけ多く届くとなれば、礼状の手配等を自分たちでやらなければならない今の状況では、憂鬱になる克哉の気持ちも分からなくもない。漏れがないように、リストを作るところから始めなくてはいけないだろう、御堂はまた一つ頭の中のジョブリストに項目を追加した。
 贈られた花の名札には、社名が書かれているものが多いが、個人名のものもある。『キクチ8課 一同』と書かれているものもあった。御堂の前職場であるL&B社からは企画部一同と社長の名が冠されたものが二つ届いていた。急な退職で迷惑をかけたことを思い出し、御堂はちくりと胸が痛んだ。
 御堂は、フロアに運び込まれた一際大きな胡蝶蘭を手に取った、透明なセロファンの包み紙から透ける名札に『MGN社 商品企画開発部第一室 一同』と大きく印字されている。リボンにかけた指が止まった。複雑な想いが胸に去来する。
 突然、横から伸びた手に御堂が手にかけていた鉢を奪われた。逸れかけていた意識が戻る。
「花は俺がやっておきます。御堂さんは挨拶周りの準備をして下さい」
「…ああ。そうする」
 隣で克哉がいささか乱暴にセロファンとリボンを引き剥がしだした。
 御堂は克哉の言葉に素直に従って、背を向け自分のデスクに向かった。新しい名刺を確認し、そこに刻印された『Acquire Association(アクワイヤ アソシエイション)社 取締役副社長 御堂孝典』の名前を再度、確認する。
 彼と共に歩む。自分で選択した道だ。後悔はないはずだ。自分自身に言い聞かし、名刺入れに名刺を補充した。
 軽く昼食をとると、取引先への挨拶回りに出かけた。これも克哉の事前の手配のおかげで、起業初日からいくつものプロジェクトが控えている。初日から休む間もない。
 営業職についたことのない御堂にとって、克哉とともに行動することも初めてなら、取引先への挨拶回りの経験もほとんどない。御堂は克哉の後ろに付き従っているだけの格好だったが、堂々たる克哉の振る舞いは目を見張るものがあった。
 克哉は相手によって自分の見せ方を変えるのが上手い。端正な人好きのする笑顔で相手を懐柔することは最も得意とするところであり、一旦その興味を引かせれば、説得力のあるセールストークで一気に自分の懐に抱きこむ。また、必要とあれば、組み安し、と相手に思わせるようにわざと隙を作ることもする。その素養は天性のものなのだろう。
 ただ、克哉の最大の弱点があるとすれば、その若さだろうか。行く先々で、御堂が社長だと勘違いされて挨拶されたことも度々だった。克哉は気にする風でもなかったが。
 その若さを勘案しても、克哉が社長の器に相応しいことに御堂は重々承知していたが、日本では若いと言うだけで侮られがちになる。それは、MGN社で最年少で部長職についていた御堂もよく分かっていた。ならば、御堂のサポートすべきことは自ずと決まってくる。御堂も若手に分類されるが、それでも克哉よりは落ち着いて見える。年齢で相手を測るようなクライアント先には御堂が代わりに対応すればいい。
 後は、克哉の若さが問題とならないほどの業績を積み重ねればいいだけの話だ。目の前を颯爽と歩む若き社長の後ろ姿に、万感の期待を込めた。

 主要な取引先に挨拶に回ったあとは、克哉と御堂は別行動となった。克哉は引き続き挨拶回りに。御堂は、手がけ始めたプロジェクトの資料作成に取り掛かる。
 慣れない挨拶回りに御堂をずっと引き連れる必要はないだろう、と克哉一人で動くことにしたのだ。御堂も度々社長と間違われ訂正を入れることに疲れたのか、克哉の提案に素直に従った。
 克哉が再びオフィスに戻ってきた時には日も沈みかけていた。がらんとしたフロアの中に御堂の姿を探すと、西側の壁一面のガラスの前に佇み、沈みゆく夕日を眺めていた。その物憂げな横顔が夕陽に染まっている。夕焼けが広がる光景に心を奪われているのか、克哉が戻ってきたことにも気づかないようだった。
 克哉は静かに御堂に近付き、傍らに立った。真っ赤に焼き尽くされていく東京の街を共に眺めながら、そっと御堂の肩に手を回した。
「佐伯か…」
 反射で身体に力が入ったような気もしたが、克哉を一瞥することもなく、その双眸は外の景色に釘付けられたままだ。その意識の中には克哉の存在も薄らいでいるようだった。
 太陽はあっという間にビルの谷間のその向こうに沈んでいった。入れ替わりに夕闇が街に染み込んでいく。街のネオンが輝きだした。
「前の社でも、窓から見る夕焼けの景色がきれいに見えたんだ」
 御堂が視線を景色から逸らさぬまま、呟くように口を開いた。
 御堂が言う“前の社”が、L&B社を指すのかMGN社を指すのか分からなかったが、MGN社の御堂が居た執務室の窓から斜陽が強く差し込むのを克哉は覚えていた。
 御堂の眸は何処を見ているのだろう。その双眸は夜の帳を映し、はるか遠いところにその心ごと持っていかれているようだった。
 この光景に何を重ねているのだろうか。克哉はふとした不安に襲われた。
「…後悔しているのか?」
「まさか」
 御堂は即座に首を振って否定した。御堂の顔が克哉を向く。その双眸の焦点が克哉の顔に合わされた。その表情には一片の迷いがなく強い意思が顔を覗かせる。
「陽は沈み、また昇る。君とともに昇る陽を迎えることが出来るのは、嬉しく思う」
 御堂の手が、その肩を抱いていた克哉の腕にかかった。
 自然な動作で御堂の身体を引き寄せた。真っ直ぐと克哉に向けられる瞳に、軽く笑いかけ、その唇に唇を重ねる。唇同士が押し合う感触を味わいながら、わずかに口を開く。克哉につられて開かれた御堂の唇に舌を差し入れ、互いの舌を舐めあう。御堂の双眸が濡れたように揺らめいた。
 克哉は御堂の身体に回した手に力を込め、腰を引き寄せたところで、御堂がその口づけを解いた。ためらいがちに言葉が紡がれる。
「まだ終業時間ではないぞ」
「今日の業務は終了した。二人とも早退だ」
「ここは、オフィスだ」
「今、ここには俺とあんただけだ」
「だが、上に君の部屋が…」
 その言葉尻が力なくなり、弱くなる。
 御堂の裡に兆した小さな情欲の焔を消さないように、スーツの上から身体を優しく撫でつけつつ、耳元に吐息を吹きかけながら囁く。理性を掻き集めようとする意志を拭い去るように、その耳朶を軽く食んだ。小さく息を呑む気配とともに、耳朶から身体へと熱と震えが走るのを感じ取った。そのままじっと待っていると身体の力がふっと抜けた。
「…仕方のない社長だな。先が思いやられる」
 御堂は呆れたように息を吐き、表情を緩めた。御堂の手がそろそろと克哉の後頭部にまわされた。同時に顔が近付けられ、濡れた唇を強く押し付けられる。
 そのまま御堂を向き直らせ、その背が窓に凭れかかるように押し付けた。そのネクタイを緩め、ベストとシャツのボタンを一つずつ外していく。キスに夢中になっているのか、御堂は克哉の頭を掻き抱いたまま抵抗することはない。
 御堂のスラックスのベルトを外し、その前を寛げる。アンダーの前が窮屈そうに思える程、性器は輪郭を顕わにさせていた。
「んんっ」
 アンダーをずらして、御堂の性器を外に出す。その欲望を更に育てようと、柔らかい手つきで擦り上げる。
 克哉は御堂から唇を外し、その足元に跪いた。克哉の姿を追って、艶めかしい輝きを宿した眸で見下ろす御堂にニヤリと笑いかけて、御堂の性器を口に咥えた。
「佐伯っ……!ああっ、……ふっ」
 唇と舌と口内の粘膜で、じゅぷじゅぷと音を立てながら扱く。克哉の頭にかかっていた御堂の手が、克哉の髪を掻きまわし、その悦楽ごと握りしめようとする。
 御堂の腰と下肢が震える。窓ガラスに凭れかかっていなければ膝が崩れていたかもしれない。
 性器の先端の小孔に舌を差し入れ中から溢れる蜜を掬い取る。ペニスを咥えたまま、御堂のスラックスとアンダーを落とし、下肢をむき出しにした。両手をその白い双丘に回し、谷間を広げて、後孔を探る。御堂はきつく目を閉じ、克哉の頭を抱える手に力を込める。
「くっ……、ああっ……ぁっ、佐、伯っ。駄目だ……達、く」
 その窄まりに長い指を差し入れ解しつつ、快楽の凝りを見つけるとそこを容赦なく擦り上げた。
「そこはっ……あ、あーーっ」
 その指先に煽られて、御堂は腰を克哉に押し付けるように前に出すと、克哉の口内に欲望を放った。御堂の中を探る指の動きに合わせて押し出されるように、断続的に長い吐精が続く。ガクガクと揺れる腰が落ちないように手で支えながら、御堂に聞こえるように喉を鳴らして、口の中に吐き出された欲望を呑み込む。一滴も残さぬよう、茎を扱くように舐めあげ、先端を吸った。
「さえ…きっ……んくっ、佐伯っ」
「濃くて美味しかったですよ」
 荒い息を吐きながら、克哉の名前を呼び続ける御堂を克哉は見上げた。その眦に朱が走り、その顔が欲情に染まっている。潤んだ双眸を見つめ返しながら、克哉は脱力した御堂の身体が崩れないように支えつつ立ち上がった。
「あまり会えませんでしたからね」
「いいから……来い、佐伯……っ」
 御堂と同じ目の高さになると同時に、鼻にかかったような甘い声でキスをねだられる。互いを貪る様な口づけを交わしながら、肌蹴たシャツに手を差し入れ、滑らかな肌をまさぐる。御堂の指が克哉の後頭部から身体の前にまわって、シャツのボタンを外し、克哉スラックスの前を寛げる。
 いつもの御堂にしては、性急に克哉を求めてくるのではないだろうか。壁一面のガラスに、むき出しになった裸の下半身が押し付けられている事さえ、意識の外にあるようだ。
 会社設立の準備のために、しばらく会えず連絡さえまともにとっていなかったというのもあるだろう。いや、それだけではないかもしれない。克哉の野心に御堂は全てを捨ててついて来た。そこには希望もあるだろうし、不安もあるだろう。克哉に自らの全てを委ねることで、その自分の心の奥底の揺らぎを抑えこもうとしているのだろうか。
 欲望に突き動かされ理性を失いつつある御堂を目を細めて見ながら、好きにさせる。御堂が克哉のアンダーの上から、克哉自身をなぞり既に張りつめたそれを引き出す。
「そんなに俺を煽って、後悔しても知りませんよ」
 御堂の身体をガラスに押し付けつつ、片足を大きく抱え上げる。腰が砕け落ちないように、ガラスに押さえつけつつその後孔に硬くなった屹立の切っ先を押し当てた。
「―――くぅっ」
 御堂が衝撃に備えて、息を殺す。そのまま、克哉自身を一気に突き立てて、太い亀頭部分を強引にねじ込むとそのまま最奥を目指した。
 不自由な体勢をなんとか保とうとする御堂の身体に自身を密着させ、そのまま間髪入れずに抽挿を始める。身体に力が入っているせいか、いつもよりもきつく締まる内腔を強引にかき回す。
「あんたの中、きついな。そして、熱い」
「うぁ……、はっ、……ふっ」
 獰猛に突き上げられるままに御堂の身体が揺れる。御堂は必死に克哉にしがみついてその肩に荒い息を吐いた。その吐息に込められる熱を浴びながら、腰を支えつつ、克哉は更に追い上げる。支える手を緩めれば御堂の自重で克哉自身が深く呑み込まれる。引き抜いて更に突き上げた。
 その中は熱く克哉自身を絡めとるように蠕動する。そこから生まれ溢れだす悦楽を堪能しながら、より深く抉った。御堂の性器が再び勃ち上がり克哉の腹に触れた。それを互いの体で挟み込みその先端を腹で擦り上げるように煽る。
「佐伯っ!ああっ…いい、達く……んんっ――」
 克哉の肩を掴む御堂の指が強く食い込み震える。身体が仰け反り、嬌声が上がるのを唇で塞ぎ、その声を呑み込んだ。御堂の熱く滾った欲望が弾け克哉の腹にかかった。
 御堂の身体から力が抜け、その場に沈み込む。そのまま身体を絨毯敷きの床に横たえ、上に覆いかぶさった。
「んっ、ふっ……」
 切なげな声を紡ぐ御堂の唇を塞ぎながら、下肢を割り体重をかけて更に深く埋める。弛緩していく身体とは反対に、御堂の中は克哉を引き絞るように蠢く。悦楽に溶けて陶然となる御堂の顔を愛しく見つめながら、克哉は自身の滾った欲望をその身の裡に解き放った。

 オフィスの絨毯が敷かれた床に座り込んだまま、意識を手放してぐったりした御堂をその腕の中に抱え、克哉は煌めく夜景をガラス越しにぼんやりと眺めた。口寂しくなりタバコを手に取ろうとして、オフィス内禁煙にしたことを思い出す。
「佐伯……」
 抱きかかえていた御堂が緩やかに瞼を開いた。まだ絶頂の余韻を引き摺っているのか、その眸はおぼつかない。
 腕の中で身を捩る御堂の手助けをして体勢を取らせる。しっかりと上半身を起こさせ、克哉の前に座らせた。脱力したままの身体を抱えるように支え、その背を自らの身体にもたれかからせた。両腕を御堂の身体の前に回す。克哉の肩に頭を乗せた御堂も克哉と同じ方向に視線を向け、明るい部屋を反射するガラスの向こうに焦点を合わせた。
「…ここから見る夜景もきれいだな」
「ああ」
 東京では夜空の星が堕ちて消え、代わりに無数の人工の星が地上に展開する。
 同じ景色を共に眺め、その胸に抱く感情を共有する。それだけで、不思議と心が満たされた。
 腕の中にいる恋人を強く抱きしめた。その耳元に優しく囁いた。
「御堂さん、俺の部屋から見る朝の風景もきれいですよ。一緒にどうですか?」
 返事代わりに御堂が微かに頷いた。肩越しに克哉を見上げる。
「明日からは真面目に働くぞ」
 念を押すような口調とは裏腹に、その眼が優しく微笑む。
「俺はいつだって真面目ですよ」
 反論しようと開きかけた御堂の唇を、克哉は素早く塞いだ。そのまま御堂の唇を甘噛みし御堂の言葉を封じると、そっと唇を離した。
「これからはずっと一緒だ」
 御堂の顔が柔らかく相好を崩し、その双眸が克哉の眼差しをしっかり捉える。深い口づけで応えられた。
 触れる身体、交じりあう視線、溶ける唇の感触に再び溺れた。

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