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白い果実

「御堂さん、ただいま」

 

 言葉と共に人の気配が近づき、額に温かなくちびるを押し当てられた。その感触に、うっすらと目を開けた。

 どうやら、ソファでうたた寝をしていたらしい。

 

「ん……。おかえり、佐伯」

 

 寝ぼけまなこで返事をして、克哉の方に顔を向けた。ぼやけた視界の中で克哉が微笑んで、今度はくちびるにくちびるを押し付けてくる。

 そのキスを受け止めていると、髪の毛に触れる別の気配を感じた。

 

「お待たせしました、御堂さん」

 

 ソファの背もたれの向こう側からかけられた言葉と共に、くちびるが後頭部に触れる。髪の筋を辿るようにくちびるを滑らせ、鼻先をじゃれ合うように頭に埋めてくる。

 今、克哉は目の前にいるはずなのに、なぜ背後にも克哉の気配があるのか。

 覚醒しきらない意識で振り向こうとしたが、キスを交わす克哉に意地悪く舌を絡め捕られた。

 

「ふ……んんっ」

 

 ぬめる熱い舌が口内の奥に潜り込み、深いキスを要求してくる。とろとろと伝い落ちてくる唾液をこくりと飲み込むまで許されず、舌をきつく吸い上げられる。

 じん、と胸が熱くなり、馴染んだキスの感触に夢中なってしまう。

 今さっきの背後に感じた克哉の存在を忘れてキスに没頭していると、「妬けるな……」と耳元で克哉の声がして、耳朶を柔らかな唇に挟み込まれた。

 

「ん……っ!」

 

 キスをしているさなかに、耳朶を食まれている。寝起きの頭でも、これはあり得ない事態だということに気が付いた。キスを交わす目の前の克哉以外に、もう一人“誰か”がいる。目を見開いて事態を把握しようとするが、正面の克哉に視界を塞がれている。身体を強張らせて、キスを仕掛けてくる克哉に異常事態を伝えようと、喉を「ンッ」と鳴らして抗議をした。だが、克哉は執拗にキスを続けてくる。

 そうこうしているうちに、ソファの隣が体重の重みで沈んだ。身体を寄せてくる気配がして食まれている耳の反対の耳にふっと熱い息を吹きかけられた。

 

「俺のことも忘れないでくださいよ」

 

 吐息で笑う克哉の気配が首筋から耳を熱い舌でねっとりと舐め上げていく。耳の孔を舐められて、くちゅりと大きな音が立った。正面、そして、左右に克哉の気配を感じる。それぞれの方向から伸びた手が御堂の頬や首、そして身体を撫でていく。

 尋常ではない自体に目を見開いて、口の中を埋めている克哉の舌を弾き出すと、正面の克哉の胸を両手で押し返した。そうして、視界を確保し、周囲の状況を把握しようと務めた。

 御堂は眼前の光景に目を疑った。

 三人の克哉がソファに腰掛ける御堂を取り囲んでいた。目の前にひとり、御堂の隣にひとり、そして、背後にひとり。

 

「なんだ、これは……」

 

 思わずこぼれ出た言葉は驚きに掠れていた。三人の克哉が互いに眼差しを交わし合う。

 

「気付いたら、こうなっていました」

 

 正面の克哉が肩を竦めて言った。

 首を前後左右に振って、三人の克哉を見比べるが、どれも同じ顔、同じ服装の克哉だ。

 混乱に眩暈がしそうになるのを、こめかみを抑えることでどうにか堪える。

 人智を超える事態が起きた時は、原因を追究しても無駄だ。直ちに現実的な対処法を検討しなくてはならない。

 そう自分を無理やり納得させ、とはいえ、何にどう対処してよいのかも見当がつかず、掠れた声を絞り出した。

 

「……それで、誰が本物の佐伯なんだ?」

「俺だ」「俺だ」「俺だ」

 

 三方向から同時に同じ声が響き合う。ハウリングのような声の共鳴に、耳を塞ぎたくなった。

 

「誰か一人に絞ってくれ」

「この際、三人でもいいじゃないですか」

「ちょっと待て、お前、俺の御堂に気安く触れるな」

「おい、誰の御堂だって? 調子に乗るなよ」

 

 隣に座っている克哉が御堂の肩に腕を回して事もなげに言った。その親しげな所作を残りのふたりの克哉が鋭い視線と声で牽制し合う。

 このままではひどい頭痛と耳鳴りがしてきそうだ。やはり、克哉はひとりで十分だ。勝手なことを言い合う克哉たちにペースを持っていかれないように、声に威厳を持たせて言った。

 

「三人はやはりまずい。社長が三人もいると指揮系統に混乱が起きる」

 

 御堂の言葉に、御堂を取り囲む三人の克哉は言い合いを止めて、もっともだと言わんばかり神妙な顔をした。

 

「ではこうしましょうか、御堂さん」

「俺たち三人の中で、一番あなたを満足させた人物が」

「本物の佐伯克哉だ」

「はあ?」

 

 妙案とばかりに頷き合う克哉たちに慌てて抗議の声をあげた。

 

「そんなの誰が認めるか」

「ここは平和的に多数決を取りましょう」

「私は反対だ」

「賛成」「賛成」「賛成」

「ふざけるな、佐伯……っ! こんな多数決あってたまるか!」

 

 悪辣な笑みが御堂を取り囲む。しまった、と思った時は多勢に無勢で、御堂は三人の克哉にベッドルームに有無を言わさず連れ込まれた。

 ベッドの真ん中に放られて、慌てて体勢を立て直す。脱がされまいとシャツの前を掴んだが、一人の克哉がベルトに手を伸ばし、それを防ごうとすると、別の克哉にずるっとシャツをズボンから引き抜かれる。

 示し合わせたような連係プレイであっという間に裸にされてしまった。

 両手両足を押さえつけられて、迫りくる三人の克哉に恐怖を覚えて、必死の形相で叫んだ。

 

「やめろ……っ、三人同時なんて無理だ!」

 

 御堂の言葉に、三人の克哉が動きを止めた。そうして、御堂に向けた笑みを一斉に深めた。

 

「一人ずつ、と思っていたが」

「御堂さんにそう言われたら」

「期待に応えないとなあ」

「何っ! ……よせっ! あ、ああっ!」

 

 全身に六本の手と、三つの舌が這いまわる。

 御堂の胸に顔を寄せたふたりの克哉に左右の乳首をちゅくちゅくと歯を立てられて、舐められる。あっという間に赤く色づいて尖りだした乳首には、物憂い疼きが宿りだした。

 そして、三人目の克哉が御堂の両脚を大きく開かせて、下腹部に覆いかぶさってきた。半勃ちのペニスが熱い口腔内に消える。

 

「ん、あ……っ、っああ、ぁ――」

 

 全身を舐められて、恥ずかしい声が出てしまう。三人の克哉との行為など、到底受け入れられないと思うのに、巧みな愛撫に自ら腰や胸を浮かせて、克哉により強い愛撫をねだってしまう。

 浮いた尻の狭間に、ぬぷり、と指が入り込んできた。あ、とそこを閉ざして拒もうとすると、ペニスの先端をきつく吸われたり、乳首を強く捏ねられたりして、あっさり抵抗を挫かれてしまう。

 それでも懸命に拒もうとしていると、もうひとり、そして三人目の克哉の手が伸びて、それぞれの指が押し入ってきた。三本の指がそれぞれ中で蠢いて、御堂の体内を掻きまわしていく。狭い内腔をぎちぎちと拡げられて、快楽の凝りを撫でられる。

 

「や、……ふっ、んあっ」

 

 それぞれの指が奥へと入り込もうとし、狭い狭間に窮屈に三本の手が這いこんでくるので、自然と大きく脚を開いてしまった。その間にも、首筋にくちびるを這わされたり、乳首を吸われたり、すっかり勃ちあがったペニスを口腔の粘膜で扱かれたりして、三人の克哉から与えられる快楽に頭がくらくらしてしまう。

 

「そろそろ挿れてほしいか?」

 

 ひとりの克哉に耳元で囁かれて、素直に頷いてしまった。全身に広がってしまった疼きは克哉に深く貫かれることでしか治まりそうにない。

 克哉の口がペニスから離れ、ひとりの克哉が仰向けになった。残りのふたりの克哉が、御堂の左右の両脚をそれぞれ抱え御堂の身体を持ち上げた。そうして、仰向けになった克哉の上に位置を合わせられる。二本の指が御堂のアヌスに添えられて、ヒクつくアヌスを大きく押し広げた。そこに熱い屹立の先端が触れる。

 

「待て、こんな……っ、や、あ、あああっ!」

 

 脚を大きく開かされた子供が用を足すような体勢のまま、左右の克哉が支える力を緩めた。ずずっ、と身体が沈み、克哉の形に体内が拓かれていく。

 反り返った硬いペニスに貫かれていく圧迫感に、呼吸が浅く、速くなる。戦慄く身体に力を込めようとしたところで、頬に手を添えられて、傍らの克哉にくちびるをついばまれ、そしてまた、もうひとりの克哉にペニスを緩く擦られる。その刺激に、身体が柔らかく解れて、体内の奥深くまで克哉の侵入を許してしまった。

 重苦しく煮詰めたような快楽が込み上げてくる。身体の下で、克哉がゆっくりと突き上げだした。馴染んだ男の感触に、御堂の身体もまた自然と応えてしまう。

 

「あ、あ、んはぁ……っ、佐……伯っ」

 

 甘えるような声で克哉の名を呼び、揺さぶられるままに悦楽に喘いでいると、頬に硬く勃ちあがった性器が押し当てられた。無意識にそれを手で掴んで口に含もうとしたところで反対側から伸びた手に顎を掴まれて阻止された。

 

「こんな顔を見せられて我慢できないな」

「御堂さん、俺のも舐めて」

「そんな、あ、ん……っ、ふ、ぁっ」

 

 左右の克哉が獣欲を剥き出しにして御堂に迫る。両手に克哉のものを握らされた。それをぎこちなく扱きだした。手の中で、克哉のペニスがぐんぐんと育ってくる。両脇の克哉がたまらなくなって御堂へと腰を突き出す。それに負けじと、御堂を貫く克哉が、一層激しく突き上げてくる。

 三人の克哉に責め立てられて、こんな卑猥な行為は決して望んでなどいないのに、自分という存在が克哉たちを欲情させているという事実に、御堂もまた深く感じ入ってしまう。

 指で作った輪で亀頭のエラを弾き、それぞれの先端を交互に舐めながら、滲み出る潮気のある液体を啜った。

 

「すごく、いい……」

「たまらないな」

「持っていかれそうだ」

 

 三人の熱っぽい吐息を浴びて、猛々しい雄の匂いに陶然としてくる。体内を穿つペニスを粘膜で揉みしだき、手にした熱いペニスを愛撫しつつ、まとめて舐めしゃぶっていると、三人のペニスがほぼ同時にどくりと震えた。

 

「ん……、ぁ――っ、あ、ああっ!」

 

 重たく熱い体液が体内と顔に叩きつけられた。その衝撃に、御堂もまた迸らせた。大きく開いた口の中に、濃い精臭と味がぶわっと広がる。口で受け止めきれなかった精液は御堂の精液と混ざりながら顔から体躯まで汚していく。そしてまた、体内の奥深いところも撃ち込まれた克哉の精液でぐっしょりと濡らされてしまった。

 身体の表面から深いところまで克哉の飛沫を浴びて、極まった快楽が体中を駆け巡った。

 胸を波打たせながら荒い呼吸をして絶頂の余韻に浸っていると、体内から克哉が引き抜かれた。粘膜が引きずられてめくられる。その感覚にさえ、悶えてしまう。

 

「次は俺の番だな」

「え……?」

 

 先ほどまで御堂を貫いていた克哉が場所を譲った。理解が追い付くよりも早く、身体をくるんとひっくり返されて、尻を高く掲げる四つん這いの体勢にされた。腰をきつく掴まれる。綻んでいたアヌスに、放ってもなお硬く屹立したままのペニスを、ぐんっ、と根元まで突きこんできた。

 

「……ぁっ、や、続けては…無理だっ、あ、んあぁぁっ」

 

 すぐさま激しい律動が始まり、肉と肉がぶつかる音が響き渡った。シーツをきつく掴み、体内を強く擦られる感覚を堪えようとした。

 背後の克哉が躊躇なく突き入れられるそこから、たったいま注がれた精液が泡を立てて結合部からぐちゅぐちゅと溢れ出し、その卑猥な音に意識が痺れていく。

 

「御堂さん、舐めて」

 

 顎を掬われて顔を上げさせられる。御堂の頭の下に、克哉が腰を入れてきた。しどけなく開いたくちびるの間に、熱く、硬いものが入ってくる。それに無意識に舌を絡めて記憶に刻み込まれたその形を舌で辿る。

 口の中の克哉のペニスをしゃぶって啜れば、とろみのある蜜が舌を浸す。

 背後から激しく腰を打ち付けられて犯される。前も後ろもいっぱいに埋められて、苦しくて仕方がないのに、それがどうしようもないねっとりとした悦楽を生み出してきて、尽きることがない。

 

「俺も混ぜてもらいますよ」

 

 もうひとりの克哉が近づいてくると、口の中を埋めていたペニスが引き抜かれた。同時に、背後から御堂を犯していた克哉が御堂の片足を抱え上げて、深くつながった結合部を見せつけるように晒す。

 アヌスを大きく丸く開いて太い茎を含まされている部位を、あられもなく暴かれて、視姦される羞恥に喘いだ。

 

「御堂さん、こんなにおいしそうに咥えこんで」

「やめ……、見るな…っ」

「この貪欲な孔は、もうひとりくらい咥えこめそうだ」

「ふたり、なんて……無理だ、よせ……っ」

 

 向かい合った克哉は御堂の丸く開ききったアヌスの縁を指先で確かめるようになぞると、凶悪なまでに屹立した自身を結合部にあてがってきた。ただでさえ太い克哉のペニスを受け入れているそこに、更なる圧がかかった。

 

「ん、っぁ、……壊れ、る…っ」

「二人同時は、さすがにきつい…か」

「だが、いい締め付けだ。柔らかく絡みついていく」

「もう、抜い……てっ」

「御堂さん、口がお留守ですよ」

「ふぁっ、ああっ」

 

 悲鳴を上げようと大きく開いた口に、先ほどまで口を犯していたペニスがふたたびぬるっと入り込んでくる。

 ペニスがペニスを擦りあげる感覚に、御堂を挟むふたりの克哉が荒い息を吐く。口内を負けじと犯すペニスを、息苦しさを堪えて舌でくるんで舐めしゃぶれば、その刺激にもうひとりの克哉が鋭く息を吸い込む。

 二本の硬いペニスに抉りこまれて、口まで犯される御堂の端正な顔が苦痛と羞恥に歪んだ。それでも上気した肌は、発情の色合いに染まって、悩ましげにしなる眉や、涙に濡れた眸が克哉たちを煽り続ける。

 手が伸びて、御堂の赤く色づいた乳首をきゅっと摘まんで捏ねる。そしてまた、別の手が御堂のペニスを扱き、先端の鈴口を指で強めに擦りあげる。「ひあっ」と鋭く叫んでまた射精してしまった。

 御堂の身体のすべてを知り尽くした克哉たちに責め立てられて、その熱に全身が燃え上がっていく。

 苦しいはずなのに、それがたとえようもない快感になって、御堂を包み込んだ。いくら熱を放っても、どんどんと体の中に淫らな熱が積み重なっていく。全身を犯され、愛撫され、めくるめく快楽に喘ぎ続けた。

 

「愛していますよ、御堂さん」

 

 三方向から愛の言葉をささやかれて、全身にキスを散らされた。

 ばらばらに動いていた三人の克哉が、息を合わせたように御堂を追い上げて、蕩かしていく。ぐちゅっぐちゅっと淫猥な音が口からも結合部からも響き、頭の中で反響する。

 三人の克哉に同時に愛されて、孔という孔をみっちりと埋められて、全身で感じる克哉の情欲に、気が狂ってしまいそうだ。理性の箍はすでにどこかに吹き飛ばされてしまった。何度も何度も絶頂に昇り詰めてしまう。

 ふたたび克哉の雄が一斉に迸った。尻の奥深くまで咥えこんだ二本のペニスがどくどくと大量の精液を注ぎ込んでいく。それを受け止め、また、口内で続く長い射精を零すまい、と懸命に飲み干した。内も外も精液まみれにされて、重たくなった身体を克哉たちに委ねた。三人の克哉が離すまいと固く抱き締めてくる。

 胸が淫らに疼く。こんな、享楽的でふしだらな快楽に溺れる機会など、そうないだろう。

 克哉たちから捧げられた想いが波紋のように身体の隅々まで広がり、熱く満たしていく。恍惚に、体中の力が抜けてうっとりとした笑みが浮かんだ。

 大丈夫かと、御堂を覗き込んでくる三人の克哉に視線をひとりひとり重ねて、言った。

 

「もう、終わりか?」

 

 思わぬ御堂の言葉に、克哉たちは一瞬うろたえた顔をして、苦笑した。

 

「まったく、あなたには敵いませんね」

「満足するまで奉仕しますよ」

「あなたのための俺たちですから」

 

 群がってくる克哉たちがそれぞれ御堂に口づけしてくる。そんな克哉たちに、御堂は自分の身体を悦んで差し出した。

 熱く濡れた夜はまだ、終わらない。

 

 

END

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