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Who is Crazy?

「随分といい格好ですね」
 揶揄する声が降ってくる。目の前に立って御堂を睥睨するその男、克哉は、御堂の裸体を舐めまわすような視線で炙る。憎悪の炎を燃やしながら睨み返すが、それでも羞恥からカッと全身が熱を持つ。一方で、剥き出しの臀部に触れるコンクリートから体温が徐々に染み出していくようだ。
 ここは、どこかの地下室なのだろうか。裸電球が照らすその部屋は、窓もなく、床も壁も天井も打ちっぱなしのコンクリートで覆われている。自室に監禁されていたはずなのに、意識を失い気が付いたらこんな場所に連れてこられていた。その飾り気のない重苦しい閉鎖空間に息が詰まりそうになる。
 両手は背中で革のベルトで拘束されている。そして首には革の首輪が余裕なく巻かれて、そこから延びる革ひもは克哉の手に握られている。
「……っ」
 打ちっぱなしのコンクリートの床をずり上がろうとして、埋め込まれていたバイブが動き、ぐりっと内壁を抉った。その衝撃に息を詰めた。
「ああ、バイブが動かなくなったんで、物足りないんですか」
「…くあっ、やめろっ」
 磨かれた革靴の尖った靴先で出ていたバイブの柄をぐりぐりと押し戻される。
 バイブが動きを止めたのは、電池が切れたからだ。そのつまりは、電池が切れるまで、バイブは御堂の体内を掻き回し続けていたのだ。
「電動でなくて申し訳ありませんが、手動、いや足で動かしてあげますからそれで我慢してください」
 克哉はタバコを取り出すと見せつけるように咥えて見せた。足でバイブをぐいぐい押し込んだり角度を変えたりしつつ、悶える御堂の痴態を肴に旨そうにタバコの煙をくゆらせる。
「く……ふ、……あ…っ」
 この男を悦ばせることはしたくない。悲鳴も嬌声も押し殺すように、唇を噛みしめるが、それでも、バイブが柔らかい粘膜を抉れば、その圧迫感と疼きから声が漏れる。克哉も靴でバイブを突きながらも、御堂の快感を煽るように、巧みにバイブの角度を変えつつ、押し込んでくる。次第に、腰の奥に重たい快楽が溜まりはじめ、それが見える形で性器の頭を持ち上げてくる。
「気持ちいいんですね」
 克哉が含み笑いをする。火が付いたタバコを御堂の足の間に落とした。股間を掠める高熱にぎょっと体が竦む。克哉はそのタバコを悠々とした所作で革靴で踏み、火を消した。克哉は御堂に対しても、タバコの吸い殻と同じように何の躊躇いもなく踏み躙るだろう。
 こんな場所に連れてこられて、こんな辱めを受けさせられて。足の間でひしゃげたタバコの無残な有様が、自分の今の姿を象徴しているようで、克哉を睨み据えながらも、少しでも気を緩めば涙が流れてしまいそうだ。
「ああ、前も弄ってほしいのか」
 散々バイブで後孔を嬲られたせいで、そこから生まれる熱く疼くような快感に御堂の性器はすっかりそそり立ち雫を零し始めていた。
「くぅ……ああっ!!」
 いきなり革靴の底を性器に押し当てられ、踏み潰される恐怖から御堂は悲鳴を上げた。克哉はタバコを踏みにじった革靴で御堂の性器を擦るように押し付けてくる。体重をかけず、亀頭の先端、そして括れから竿を絶妙な力加減で扱いてくる。
 革靴に性器を踏みつけられる。これほど酷い屈辱を味合わされたことはない、毎回そう思うのに、克哉が強いる仕打ちはいつでも御堂の記憶にある屈辱を強く鮮やかに上塗りしてくる。
「感じているのか。こういう趣向が好きなのか?エリートビジネスマンの御堂さん?」
「ふ、く……うあっ!」
 克哉は嗤いながら、性器から靴を離すと、その足でぐっとバイブを捩じり込んできた。
 異物を後ろに埋め込まれて、性器をいたぶられる苦しさを追いかけるように、全身を焼き尽くすような快感が迫ってくる。それを必死に押さえ込もうと身体を捩らせる。
 屈辱と苦痛と快楽が合わさり、心身を苛む。眦から涙が零れそうになる。だが、どこまでも貶めてねじ伏せようといてくるこの男だけには決して屈したくない。掠れた声で吐き捨てた。
「貴様は…狂ってる!絶対に、負けるものか」
 御堂の瀬戸際の反撃に、克哉は一瞬レンズの奥の目を瞠り、そして眇めた。
「俺が狂ってるだと?…首輪をつけられて革靴で踏みつけられても、ここをガチガチにおっ勃てて、あんたの方こそおかしいんじゃないのか」
 ぐいぐいとバイブを押し込んでいた克哉が、不意に優しく性器の裏筋をたどるように革靴の尖った先端でなぞりあげた。
「ひっ、あ、あああっ!!」
 バイブの凹凸に快楽の凝りを抉られ、張り詰めた性器を固い革靴に刺激され、どうしようもない快楽に身体を引き攣れさせながら、堪らず射精した。
 びくびくと震える性器から勢いよく放たれた白濁は下腹部から下腿、そして克哉の革靴に飛び散り濡らしていく。
「あんたはこんな惨めな格好でイくのか!無様だなあ」
 高笑いしながら克哉がスラックスのポケットから携帯を取り出した。それを御堂に向ける。眩いフラッシュが焚かれ、シャッター音が鳴る。
「やめろっ!やめろぉっ!!」
 咄嗟に顔を背けると、ぐいっと革ひもを引っ張られた。首輪がきつく首に食い込み、苦しさから堪えていた涙が溢れた。無理やり前を向かされる。
「佐伯っ!いやだっ、やめてくれっ」
 懇願する声もむなしく、克哉は続けざまに携帯のカメラのシャッターを切った。
 ぐいぐいと革ひもを引っ張られ、喉が絞められ叫ぶ声とともに飲み込めない唾液が口の端から伝う。
「全く、こんな浅ましい姿、犬同然だな」
 やめてくれと繰り返す声は掠れて、すすり泣きに掻き消されていく。
「きれいに撮れてますよ」
「ぅっ……ぐ」
 克哉が撮影した画像を携帯画面に出して、御堂に見せつける。
 そこに映された自らの恥辱的な姿を正視できず、眼差しを伏せた。
 その視界の中にぬっと革靴が入り込む。克哉が御堂の顔もとに、白濁に汚れた革靴ごと足を突き付けたのだ。
「さあ、御堂さん。あなたが汚した俺の靴、きれいにしてもらいましょうか」
 涙で濡れた眸で見上げれば、克哉の顔は酷薄な笑みが湛えられ、嗜虐の眼差しが御堂に向かって注がれている。絶望とともに新しい涙が頬を伝った。

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