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​闇の深度

「眺めも良いし、椅子の座り心地も良い。さすがMGN社の執務室だ」

 感心したような声が静寂に満ちた執務室内に響いた。

 ひんやりとしたマホガニーの固い天板が、直に触れた双丘の熱を奪っていく。居心地の悪さに御堂は腰をよじったが、状況はなんら改善しなかった。

 本来なら御堂が座るべきプレジデントチェアに腰をかけた男は、御堂に背を向けてブラインドが上げられた窓に視線を向けていた。壁一面を覆う窓の向こうにある夜の景色は、無数の光の点で描かれた東京の美しい夜景を演出している。

 御堂に屈辱的な体勢を強いながら放り出して窓の外に見入る男、佐伯克哉に御堂はたまらずに声を上げた。

 

「もう十分だろう…っ、佐伯っ」

「そうですね。外の景色も良いが、こちらの眺めも捨てがたい」

 

 くるりと椅子を回して克哉は御堂に向き合った。レンズ越しの冷ややかな視線が御堂を射貫く。

 御堂は自分のデスクの上に乗っていた。それも下半身は剥き出しの状態で、両手はそれぞれの足首と手錠で拘束されている。

 深夜まで執務室で残業していたところに克哉が乗り込んできたのだ。そして、御堂の抵抗をものともせずに、服を剥ぎ、商品を陳列するかのような無情さで御堂をデスクの上に拘束したのだ。今の御堂は、下半身は何も身に付けず、上半身はかろうじてシャツにネクタイが締まっている状態だが、そのシャツも胸から下はボタンを外されてはだけている。そんな格好で両脚を開かされ、デスクの上に置かれていた。汗ばんだ裸の尻にデスクの硬い天板があたり、その感触が気持ち悪い。

 克哉が御堂の身体に視線をねっとりと這わせていく。レンズ越しの双眸はどこまでも冷徹でまるで御堂を値踏みするかのように無遠慮だ。

 天板に沿ってもったりと広がった陰嚢の中の二つの膨らみ、そしてペニスが克哉の眼差しに晒されてひくりと動いた。手錠で拘束されているせいで足を閉じることも出来ない。先ほどまで仕事をしていたデスクの上でこんな格好を強いられ鑑賞されるいたたまれなさに、内腿が細かく痙攣した。

 

「御堂さん、寒いですか? いや、そんなことないな。汗をかいている」

「っ、……ぁあっ」

 

 克哉の手が御堂の内股を撫でた。触れるか触れないかの柔らかい触り方だったにもかかわらず、御堂は身体を震わせて大げさなほどに反応してしまう。克哉が喉を震わせた。

 

「随分と感度が良いな」

「それは貴様が……っ」

 

 怒りに唸りながら克哉を睨み付ける。真夏でありながらも、外の暑さを一切感じさせない強めの空調であるにもかかわらず、御堂の肌はうっすらと汗を刷いていた。それは、先ほどから下腹の奥のもどかしい疼きに苛まされているからだ。

 克哉は御堂をデスクの上に拘束するだけでは飽き足らなかった。硬く閉ざす御堂のアヌスに坐薬のような何かを押し込んだのだ。異物を挿入される恐怖に御堂が身体を強ばらせたところで、克哉がなだめるように言った。

 

「なんてことはない、いわゆる媚薬なものですよ。それも合法の」

「そんなもの、よせ…っ!」

「こんなものなくても、十分に淫乱だと言いたいのか?」

「違っ、やめ……、ぅぁっ」

 

 御堂の拒絶を聞き流しながら、克哉は第一関節まで指を潜り込ませて、簡単には出てこないよう奥までそのクスリを潜り込ませた。そして、出てこないことを確認すると、御堂を放置したまま椅子に座り背を向けて、夜景を眺めだしたのだ。指先ほどのサイズのクスリは、御堂の体温でじわりと溶け出し、粘膜の襞を伝って奥の方まで伝わり染み入ってくるのが分かった。次第に感覚が鋭くなり、じわじわと体温が押し上げられていく。

 ようやく御堂に向き合った克哉は、媚薬に侵されて過敏に反応する御堂の様子を涼しい顔で観察し、言った。

 

「そろそろ頃合いか?」

 

 克哉は悪辣に笑いながら御堂の胸へと手を伸ばしてくる。御堂はたまらずに叫んだ。

 

「佐伯っ、いい加減にしろっ!」

 

 どうして、こんな辱めを受けなければならないのか。

 己の執務室で、無様な格好をさせられ、部下の男に好きに弄ばれている。

 御堂の日常がこの男によって理不尽な非日常へと塗り替えられている。

 克哉は怒鳴る御堂にもまったく臆する気配はない。それどころが、御堂が憤りを露わにするほど、調子づくようだ。

 御堂は克哉の手から逃れようと不自由な手足をどうにか動かそうとしたが、どうにもならなかった。御堂のはだけたシャツの下に手が這い、胸の小さな尖りを親指と人差し指で摘ままれる。御堂の乳首はあっという間に熟れて、硬く凝った。

 

「よせっ、触るな……くああっ」

 

 上半身を捩って抗おうとしたところで、乳首を摘まむ指にきつく力を籠められ抵抗を封じられる。そのまま胸の尖りをしつこく捏ねられ、指の腹で擦られ、戯れに爪弾かれた。

 むず痒いような疼きが乳首に宿り、身体の奥から狂おしいほどの熱がじわじわと湧き出してきた。男の小さな乳首が性的な器官であること嫌というほど克哉に教え込まれる。

 

「ぁ……、よせ、う――っ」

 

 唯一自由になる首を振って拒否するも、リズミカルに胸を揉み込まれ、そのタイミングに合わせて呼吸が浅くなってしまう。乳首は火傷したように熱くなり、男とは思えないほどいやらしく充血して赤くなった。

 

「よっぽど胸をいじられるのが気持ちいいのか?」

「違……っ、これはクスリの……っ」

 

 克哉に笑い含みに言われてハッと気が付いた。胸をいじられるうちにペニスが完全な形に育ち、腹に付きそうなほど反り返っていた。

 これはきっとクスリのせいだ。男なのに胸だけでこうまで感じたとは認めたくない。

 

「クスリねえ、御堂さんには元から淫乱な素質があるからじゃないですか」

 

 克哉の指先が胸から離れると御堂の亀頭をそっと撫でられた。茎に絡めた指で根元から扱き上げられ、先端は甘やかな触り方で愛撫をしつつ、頂の小孔から滲み出るぬるつきをすくい取られる。敏感な部分を柔らかくぬるぬると触れられて、込み上げる刺激に内腿に力が入った。

 

「ふ……っ、んあっ」

「これじゃあ、あっという間にイきそうだ。あんまりすぐイかれても困るからな」

「……っ」

 

 快楽が昂ぶり、極めそうになる寸前に克哉に手を離された。遠のいた快楽に切ない声を上げかけて、咄嗟に唇を噛みしめて声を殺す。

 克哉の指先が触れた。御堂のペニスの裏筋をつうと辿りつつ、陰嚢の裏へと伸ばされる。そこにある窄まりの周囲を克哉の指先がなぞった。奥まったところをやんわりと焦らすように撫でられる。そんな克哉の指の動きに反応してアヌスがひくついてしまう。しばしの間、表面をいじられ、そして、爪の先がつぷりと潜り込んだ。

 

「ひぁっ」

「随分と熱いな」

「抜け……っ、私に触るな……っ」

 

 克哉は自分の上唇をちろりと赤い舌先で舐めた。そして、御堂に残忍な笑みを向ける。

 

「あんたのここがどうなっているか、自分でちゃんと見てみろよ」

「くぅ……っ、やめ…ろ……」

 

 ネクタイを引っ張られて、無理やり顔を自分の股間へと向けさせられた。

 反り返るほどに勃起したペニスと陰嚢、さらに奥まったところにあるアヌスをいじる克哉の指先が見えてしまう。

 

「ぁ……ああっ」

 

 ぬちゃり、と音がして指を含んだアヌスからとろりとオイルが滴った。克哉に挿れられたクスリが体温でどろどろに溶けて、ぬるりとしたオイルに変わったのだ。そのぬめりを利用して克哉の指が御堂の視線の先で深くめり込んでいく。

 克哉が喉を鳴らして笑った。

 

「女のようにぐしょぐしょに濡らしているな」

「ぐ……」

「目を離すなよ。あんたのここが俺の指を物欲しげにしゃぶるところをしっかりと見ろ」

 

 大きく足を開かされてデスクに乗せられ、その脚の間には克哉が陣取っている。上体を前屈みにさせられて苦しいのに、克哉の指が自らの中に沈んでいくさまから目を離せない。克哉の指がオイルをかき分けながら深いところかき混ぜて、粘膜越しに御堂の中を擦りあげる。そのひとつひとつの感覚を、己を視姦しているかのように生々しく感じ取る。

 克哉の指が増やされ、淫猥にうごめかされた。抜き差しされるたびに粘ついた水音が響き、粘膜がざわめいた。体内から蜜がじゅわりとにじみ出てくるような感覚に悶えうつ。

 

「ぁ……あ…、あ……っ」

 

 自分の中を拓かれて、屹立したペニスの先端からは粘液がひっきりなしに溢れだした。年下の男、それも子会社の部下に良いように弄ばれる屈辱と爛れた官能がどろどろに混ざり合い、蕩けるような快楽が下腹の奥で滾る。触れられてもいないペニスが、これ以上ないくらいに張り詰めて御堂が感じている悦楽を余すところなく克哉に教えていた。

 克哉が呆れたように息を吐いた。

 

「まったく我慢が効かない身体だな。だが、あんたの部屋を派手に汚したら悪いからな」

「ひ、ぁあああっ!」

 

 ぬかるんだ快楽にどっぷりと浸りかける寸前、いきなりペニスが千切れるかと思うほどの痛みに襲われて御堂は悲鳴をあげた。

 見下ろせば、克哉が御堂のペニスの根元にリングをはめ込んでいた。ひんやりとしたリングの感触がみるまに体温と同じ熱さになる。そして、大きくなったペニスにぎちりとリングが食い込み、ずきずきとした膿むような痛みを絶え間なく生み出していた。

 

「痛っ、やめ……よせっ、ふぁ、あああっ」

「痛いと言うわりにまったく萎える気配がないな。むしろ、痛いのが好きなのか?」

 

 克哉が御堂のペニスに顔を近づけて、赤く腫れた先端に、ふっ、と息を吹きかけた。その吐息でさえ、研ぎ澄まされた快楽と苦痛になって御堂を貫いていく。

 

「そろそろあんたが欲しいモノをあげますよ」

 

 克哉は自分の前を寛げると、勃ちきった自身を取り出し御堂の腰を引き寄せると、先ほどまで指で犯していたアヌスに押し当てた。

 

「ぁ、……ん、くぁっ」

 

 窮屈な窄まりに、先ほどの指とは比べものにならないほどの質量がねじ込まれていく。

 埋め込まれていく克哉のペニスの圧迫感さえ淫蕩な感覚に塗り替えられていく。こんな交わり嫌悪しかないはずなのに、発情した身体は早くも、火をともされたかのように官能が燃え上がった。これもすべてクスリのせいだと信じたい。

 しかし、克哉は浅いところを数度行き来させて、御堂の中が拓いていることを確認すると腰を引いた。あまりにもあっさりとつながりを解かれて、焦らされた身体に甘苦しい疼きがくすぶる。

 

「今回は趣向を変えようか」

 

 そう言って、克哉は御堂の手足を拘束する手錠を外した。ようやく自由になったのもつかの間、痺れた手足を動かすよりも早く、克哉に背中に腕を回され、ぐっと体を引き起こされた。

 片方の肘掛けだけを背部に収納したプレジデントチェアに、克哉は御堂を抱きかかえたまま深く腰掛けた。膝の上に乗せた御堂の片脚を、出しっぱなしの肘掛けにかけて向かい合わせの体勢にされる。いくら手錠を外されても、不自由な格好で足を大きく開かされているのは変わらなかった。ようやく克哉が何をしようとしているのか分かったときには、遅かった。

 

「何を……ぁあああっ」

 

 綻んだアヌスに克哉の先端が宛がわれ、御堂を支えていた手が緩められる。途端に、自重で腰が沈み込み、どこまでも深く克哉を呑み込んでしまい御堂は悶絶した。体内をみっちりと埋める肉塊が焦がれるような疼きを生み出してくる。

 

「両手は自由にしましたから、俺にしがみついていいですよ」

「誰が……っ!!」

 

 肉の楔を奥まで穿たれて、身体はまったく自由にならない。それでも克哉に抗おうと手で克哉の肩を押し返したところでぐらりと重心が傾いだ。

 

「く……、ああっ!」

 

 ぎしりとチェアが大きく揺れて、中を強く抉られる。その衝撃と危ういバランスに、咄嗟に克哉の首にしがみついた。

 

「危ないですよ、御堂さん」

「ぬ…抜け……っ」

「抜きたいなら自分で尻を上げればいい」

「――っ」

 

 冷たく言い放たれる。

 克哉は自ら動こうともしないので、御堂は肘掛けにかけた足に力を入れてゆっくりと尻をせり上げた。ぬちゅり、と卑猥な音を立ててずるっと粘膜をめくりあげながら克哉のペニスが抜けていく。

 あと少しで抜ける、そう思った瞬間に、椅子がぐらりと揺れた。バランスを崩した御堂の腰が落ちる。

 

「ひ、ぁああああっ!」

 

 一気に根元まで貫かれた。あまりの衝撃に御堂は無防備な喉を反らして声を上げる。

 

「どうした? そんなに俺のを咥え込みたいのか?」

「うう……」

 

 あまりの苦しさに呻くことしか出来ない。

 

「あんたが動かないなら、俺が動いてやろうか」

 

 親切な素振りで言って、克哉は腰を動かし出した。中を抉るように突き上げられる。

 二人分の体重を受け止めるチェアがギシギシと軋んだ音を立てた。

 

「はぁ……、んっ、あ…っ」

 

 どれほど堪えようとしても突き入れられるたびに声が漏れてしまう。張り詰めきったペニスに食い込むリングがつらくて苦しいのに、その合間には淫蕩な快楽が鋭く差し込んでくる。

 

「ぁっ、あ…、ああっ、あ……」

 

 椅子が大きく揺れ、その動きに合わせて克哉が腰をたくましく遣う。大きく張ったペニスが粘膜を擦り上げながら、椅子の反動を利用して一気に奥まで挿入される。かと思うと、肘掛けにかかった御堂の足を、梃子(てこ)のように使って御堂の尻を浮き上がらせて結合を浅くした。椅子が倒れそうなほど激しく軋み、大きく揺さぶられる。目一杯開かされた足、苦しい姿勢に四肢がひくひくと痙攣した。それでも、心身共に官能を炙られて、御堂は克哉にしがみついて喘ぎ続けることしか出来ない。

 克哉の肩越しに窓ガラスに映る自分自身と目が合った。紅潮した頬に、潤んだ眸、半開きの唇からは熱っぽい吐息が漏れ、この上なく淫らな顔をしている。

 これが自分の顔なのかと呆然とした。これではまるで発情したメスの顔だ。

 その一方で、克哉は薄い笑みを刷いても冷徹な面持ちを崩すことはない。御堂だけを貶めて、自分だけは快楽に溺れようとしないのだ。御堂を貶めて、屈服させて、そしてその先に何を求めているのか。

 だが、そんな疑問さえも快楽と苦痛が渾然一体となった交わりの前では靄のように霞んでしまう。

 克哉の手が御堂の胸を這う。そして胸の尖りに爪の先が引っかかった。

 

「ひ……ぁあっ」

 

 興奮に尖りきった乳首を指で摘ままれて、そこに切ないほどの疼きを宿される。乳首の先端に爪を立てられ、ひくんと身体に力が入った。身体の中が狂おしくうねり、克哉のペニスをいっそう強く食い締めてしまう。克哉が御堂の乳首を指で摘まんだ。

 

「急に中が締まったな。御堂さんはやっぱり乳首をいじられるのが好きなのか」

 

 人差し指と親指できつくつねられた乳首はあっという間に充血し、鋭い快感と痛みが御堂を翻弄する。

 

「この分だと、乳首だけでイけるようになるんじゃないですか」

「は…っ、よせ……っ、んあ、あ」

 

 克哉は散々乳首を責め立ててようやく指を離した。じわりと血流が戻り、乳首がジンジンとした熱を孕む。

 ふたたび克哉は腰を使い始めた。律動のたびに腰の周りに凄絶な熱がまとわりつく。

 もう限界だった。

 ペニスははち切れんばかりに膨張し、根元のリングが激しい痛みを伴ってギチギチと締め付けてくる。先端からは物欲しげな涙を流し続けた。焦らされた快楽は凶暴な熱となって御堂を狂わせていく。

 快楽が昂ぶるほど、戒められたペニスの苦痛も深くなる。どうにかこの熱を吐き出したくて、プライドも理性も忘れて、克哉を欲しがるように、腰をいやらしくくねらせた。

 

「イ…イきたい……っ、ぁ――あ、も……無理だ…っ」

「まったく仕方のない人だ」

 

 克哉が御堂のそそり勃った乳首に顔を寄せて歯を立てた。その瞬間、それが決定打となり、たまりにたまった快楽が弾けた。

 

「ひっ、ぁ、あ――っ」

 

 細くたなびくような声を上げて御堂は射精をした。といっても、根元が戒められている以上、精液を迸らせることも出来ず、じわりと白濁を先端から滲ませるのが精一杯だ。精液を絞り出すようにして射精を続ける。苦痛に限りなく近い快楽は長く続き、その間、御堂はすすり泣きながら身悶えることしか出来なかった。

 

「ぅ……」

 

 ようやく絶頂から解放され、身体をビクビクと震わせて絶え入るような息を吐く御堂に、 克哉が腰を揺すり上げた。御堂の臍の裏で克哉の熱がびゅくりと注がれる。淫らに蕩けていく意識で、その重ったるい熱を無抵抗に受け止めた。

 レンズ越しに克哉の薄い色の虹彩が御堂を写しとっていた。御堂を蹂躙し、支配することを愉しむ男の、底知れぬ闇が克哉の双眸に宿っている。不意に、首元に鋭い冷気が差し込んだ。

 本能が感じる恐怖が、苛烈な絶頂で白む御堂の意識をかろうじて引き留めた。

 とはいえ、最早身体を支える力はなく、倒れ込むようにして克哉にもたれかかった。着痩せする体格なのだろうか、想像していたよりもたくましい胸に受け止められる。ぎしり、と椅子が大きく揺れ、克哉の硬さを失わない凶器に中を大きく抉られて、御堂は身体を跳ねさせた。

 良いようにいたぶられ続けても、こんな男に決して屈したくはない。

 せめてもの抗いに、御堂は呼吸を荒げながらも、掠れた声で克哉の耳元で言った。

 

「貴様は……狂っている」

 

 ふ、と吐息だけで嗤う気配がした。地の底を這うような低い声が響く。

 

「御堂、お前も早く狂って俺のところまで堕ちてこいよ」

「佐伯っ――、ぅ……っ、あ、ああああっ」

 

 そして間髪入れず、獰猛な腰遣いで突き上げられる。御堂はすぐさま喘ぐことしか出来なくなった。狂おしいほどの快楽と苦痛で責め立てられ、身も心も削り取られていく。

 この男の狂気の闇はどこまでも深く、その底は計り知れない。

 いつまでこの凌辱を耐えることが出来るだろうか。

 狂気の淵はすぐそこまで迫っていた。

 

END

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