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​ハロウィンの夜 (続編→真夜中の獣

 冷たい指先が克哉の首を掴む。そのままギリギリと締め上げられて克哉は苦悶の声を上げた。

 自分の身体に伸し掛かるのは御堂と呼ばれるヴァンパイア。高位の魔物で、張り巡らされた結界をものともせずに、ここまでやってきた。肌はどこまでも白く、闇に溶け込むような髪と眸を持っている。その血のように赤い唇が薄く開いた。尖った一対の犬歯が姿を現す。

 克哉の反らされた首、そこに浮き立った血管を刺し貫く気だろう。目前に迫る死への恐怖を押し殺し、克哉は声を上げた。

「おい、このまま俺を噛んでもつまらなくないか?」

 

 御堂がわずかに動きを止めた。つまらなそうに言う。

 

「今更、命乞いか?」

「いいや、あんたほどのヴァンパイアが捕まえた獲物を単に殺すなんてことはしないだろう、と思ったのさ」

「ほう……」

「肉食獣は、獲物をいたぶってから食らうものだろう?」

 

 挑発的な克哉の言葉に御堂は薄い笑みを浮かべた。

 

「そうされたいと?」

「痛いのも苦しいのもごめんだが、ヴァンパイアはインキュバス(淫魔)とも遠縁だと聞く」

 

 両手は魔術で拘束されて動かない。辛うじて動く足で伸し掛かる御堂の下肢に触れた。

 それは露骨に誘う動きで、御堂が微かに眉をひそめる。

 

「随分とふしだらな聖職者がいたものだな」

「聖職者の無垢な身体に興味はないか?」

 

 闇を湛えた御堂の目が眇められ、克哉の顔を覗き込んだ。冷たく整ったその顔を克哉はまっすぐに見返した。

 御堂は、初めて克哉という人間に興味を持ったかのように、目を瞬かせる。

 

「……お前の名前を聞こう」

「佐伯……克哉だ」

 

 御堂は喉を震わせて笑った。

 

「夜は長いぞ。お前をたっぷりと後悔させるほどにな……克哉」

「――っ」

 

 御堂の手が克哉のローブにかかった。聖別されている布がやすやすと切り裂かれていく。

 今日は、魔界と人間界が最も近づく日。夜はざわめき、どこまでも暗い闇が街を覆う。

 そう、ハロウィンの夜は始まったばかりだ。

 

END

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